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夜空を語る祖父と小さな歌姫

おじいちゃんって言っても、雑に計算してもまだ50歳超えたくらいのような??



何かにご立腹なのか、少女は頬を膨らました。それをすぐ横で祖父は、見守るように静かに笑う。


「レティ、どうかしたのかい」


なんでも聞いてあげるよ、と言った具合に頭をさらりと撫でる。すると少しだけ、少女の膨れた頬は小さくなった。


「だってね」


少女が言うには、父親に歌を披露し、褒められたそうだ。そこまでは良い。


「喜んでくれたんだろ?」

「うん。よろこんでくれたよ。いっぱいほめてくれたし」


納得いかなそうに、少女は口を尖らした。


「でも、お母さんの歌を聴いてる時と、あたしの歌を聴いてる時じゃ、なんかちがうもん」

「ははは」

「なんで笑うの!」


子供は幼くても鋭い。思わず苦笑した祖父に、少女は眉をひそめる。味方だと思ってたのに、とんだ裏切りだと少女は思ったのかもしれない。


「あいつは、昔があって今がある。彼女の歌は今も特別なものなんだろうね」


少女にはまだ難しい話だ。

それに、「お母さんより、上手?」って聞いたらうまい具合にはぐらかされてしまったらしい。

どうしたら、お母さんみたいに歌えるの? と聞くと「誰かのために心を込めて歌う」と言われた。


「どぉせ、お母さんみたいに歌えないもん」


まだ少女には、誰かのためにも、心を込める、も難しい。それに歌詞の意味もまだ全てを理解できてる訳でもないのだから。それなのに、母親は簡単に歌いのけ、人を喜ばせる。それが少女にとって眩しくて、羨ましくもあった。


「それに、なんかお母さん。あたしよりも他の子のことが好きになっちゃったみたいだし」



レティシアの母親であるライアは、2人目命をお腹に宿している。温かい眼差しを向けているのを見ると、少女は少しばかりもやもやしてしまうようだ。



「そうだ。折角だから、夜空を見よう」


なんで、急に。少女が状況が掴めないまま、目をぱちくりすると、肩車をされテラスへと連れていかれた。


今日は幸い、雨も雲もなく綺麗な星空が降っている。こんなに澄んだ空はやはり田舎の特権だろう。少女は生まれた時から、その田舎に住んでるのでその特権には気づいていないようだが。



「トゥインク トゥインク リールスター」


祖父が歌い出すと、それに促されるように少女は伸びやかに歌った。母親にはまだ歌声は劣るとはいえ、物心ついた時から母の声を聴き、一緒に歌っていた賜物がある。この歳の幼子と比べれば、きっと一番上手い。



「ハゥワイ ワンダー ワッユーアー」


少女の歌声を、星は気に入ったように流れ星が頭の上を通る。


歌うと少女は、不思議なほど笑顔になっていく。機嫌が自分でも良くなった事に気づくと、少女は祖父に「ずるい」とまた口を膨らます。


「ずるいついでに、今日は課外授業をしよう」



祖父は穏やかに言う。かつて息子の家庭教師をしていた祖父は、今は孫や近所に住む子供たちにも、勉強を教えている。



「見失ったらまず、北極星を探すと良い。そしたら、色んなものが見えてくる」


 祖父はいっぱい笑いかけて空を指し、空を見上げるように誘う。


「そして三つ斜めに並んでるのが、あれがオリオン座。あそこで一番光ってるのがシリウスで、オオイヌ座の一等星。その星とベテルギウスとプロキオンを結ぶと、冬の大三角が空に浮かぶ。ね? そう見えてきただろ?」


 一つ一つ丁寧に伝える姿はそして言われた通りに、星の輝く点を線で結ぶ。

そしたら、真っ暗な夜空に浮かび上がる。



「うゎー …。 でかぃ…」




 光と光だけだったものを、見えない線で堅く結んだ星座を見ながら、祖父ははっきりも言い放った。

    

「見えないものに、目を向けろ」




「独りじゃない」



祖父は肩車を下ろすと、少女を地面に立たせ同じ目線になるように屈む。



「人間は、ちっぽけなんだってさ」


 祖父は嘆くわけでもなくむしろ、そうであって良かったと、嬉しそうに笑う。


「……ちっぽけは嫌だなぁ」

「でも、そのお陰で大きな力でたくさん守られてるんだ。ほら、月を見てごらん」




 見つめれば、

 月は地球が空回りしないように忠実に支え、季節を与える。

 太陽は宇宙を繋ぎとめ、生き物を育て、心も暖める。

 遠くに位置する木星だって、隕石を地球に近づけさない盾となる。


風は、

水は、

空気は。


「この世界はさ、必要ないものなんて一つもない。ちゃんと一つ一つ価値がある」


「全てを作った神様は、僕達を、子供も大人も関係なく、愛されてるんだよ。レティもその中の一人だよ」


見開いた少女は、口を開けたまま言葉を無くす。そしてやがて、祖父に聞いた。


「レティが生まれてくる時、お父さんもお母さんも、どのくらい嬉しかったことか、分かるかい?」

「……すこし」

「おじいちゃんにも、幸せを分けたくて、見せに来てくれるほどだったんだ」


それが、どのくらい凄いことか。

今まで、憎まれても仕方が無いと思っていた息子にだ。


「レティがまた家族を繋いでくれた」

「……おじいちゃん、お父さんがお母さんの歌を聴いてる時と、同じ顔をしてる」



それがどう言う意味なのか。幼いながら何かを感じ、じわじわと笑顔に変わる。少女は、知っているけど、それでも確かめるように聞いた。


「本当にあたしも必要?」

「もちろん」

「……これから産まれてくる子も?」

「もちろん、同じさ」



少女は、嬉しそうに「そっか」と呟いた。



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