Ⅶ
さて、翌日また早く目が覚めてしまった。ふかふかすぎるベットがいけなかったのかもしれない。6時を指し示す時計を見てため息をつく、朝食が来るまで少し時間ができてしまうではないか。すっかり定位置になってしまった窓辺に腰掛け思いっきり伸びをする。
「んんー。気持ちい。」
ぼーっと外を眺めているうちに、果たして何故今まで気がつかなかったのか、、、ここでやっとやっとあの疑問が出てくる。
「えっと、なんでわたしはこんないい待遇を受けているのかしら?てっきり罪人的な感じで牢獄に放り込まれると思ったのだけど。」
そうだよ。湖のほとりで剣を突きつけられ、アルバに限っては拷問を推奨までしたのだ。おかしい、、、この待遇はおかしい。
しばらく考え込んでいたんだろう。ターナさんが朝食を運んできた。よし!ターナさんに質問してしまおう。
「あの、ターナさん。」
おずおずとターナさんに話しかける。
「はい。なんでございましょう。」
暖かな微笑みを浮かべてターナさんがわたしの顔を見る。
「質問をしたいんです。あの、ここはどこですか?」
ターナさんは目をパチクリさせて
「ご存知なかったのですか?」
と言った。
「ここは、ハルーシア王国の国王様が所有しておられる後宮でございます。お嬢様は、お妃様候補として後宮に入っておられるのですよ。」
衝撃の事実。え、まじで?私お妃様?てか、後宮って、いつのまにか王のハーレムの一員になっていたの!
「私をここに連れてきた方って、、、」
「はい、ハルーシア王国の国王陛下、ザカイア・イスパニール・ハルーシア様でございます。」
衝撃再び。
あいつ、王様だったか。伯爵なんて身分よりよっぽど高いではないか。
「えっと、お妃様の人数は?」
「雛菊様で50人目でございます。」
50人って、ひとクラスの人数より多いじゃん。王様元気だな。
「そんなにいるの。私、いります?いっぱい奥さんがいるのに。」
私が漏らしたその言葉を。ターナさんは、もはやターナさんの通常の顔になったびっくり顔で聞いている。
現代日本で育ったのだ。一夫多妻制にはものすごい抵抗がある。
19歳のうら若き乙女である私は、それなりにステキな結婚、結婚生活を夢に見ていたのだ。まさか、こんな形で破れるとは思わなかったけどね!
黙り込んでしまった私をそっとしておこうと判断したのだろう。ターナさんは私に声をかけることなく去っていった。
しかし、あの男が王様で、私は後宮に入れられて、ハーレムの一員になっていたとは。
うん、頭で整理したけど理解できないぞ。いや、ちょっとまてよ?後宮に入れられたからと言って王様が私のもとに来るとは限らないよね。なんせ49人もお姉さまがいるのだ。こんなちんちくりんを好んで相手にはしないはず。
安心できる結論に至って、落ち着いた私の意識はもうすっかり目の前の美味しそうな食事にうつった。
それから一日中本を読んで過ごした。夜には光貴を忘れないように密偵の恋歌を歌う。
この生活はすっかりルーティーンとなり、一日は瞬く間に過ぎていく。そして、着々とこの世界についての知識も増えていく。
こうして一ヶ月が過ぎた。
この一ヶ月のうち、王の訪れは一回もなく、やはり私は見張りやすいために後宮に入れられたのだろうという結論に至る。
これで、安心して光貴を探すための下準備ができるとうれしく思った。
王は私のことを忘れているに違いない。そのままでいいのだ。忘れられた姫でいい。だって一夫多妻なんていやだもの。好きな人には私だけを見て欲しいじゃない?
それに、忘れられていた方が後宮から脱出しやすいはず。
毎日気を使ってくれるターナさんには悪いけど、それでも私は光貴を見つけるためにいつか逃げ出してやる。
私のものだと、自由に使っていいよといってもらえたドレスたちをいつか売ってやるのだ。そして、手に入ったお金で光貴を見つけ出して、一緒に暮そう。
「ふふっ」
未来を思い浮かべると自然と笑みがこぼれる。
今夜も綺麗な星空である。
窓辺に腰掛けた私は、今日も密偵の恋歌を歌う。