Ⅴ
次の日、目が覚めたとき外はまたまだ薄暗かった 。電気の代わりであろうをランプを消し忘れ、明るいままソファーで寝落ちしたのだ。早めに目が覚めても仕方がないのかもしれないなんて思う。
どんなにふかふかなソファーでもベットとはやはり違うもの。
この世界は多分異世界というものなのだろう。ここに来てやっとそう判断をした。
さて、まず何をしようか。目が覚めてしまったのだ、何かをしたい。外には出るなと言われている。かってに逃げ出すのもアリだけれど、ここに案内される途中に結構な人数の、警備員だと思われる人が立っていたことは確認済みだ。大怪盗でもない限り逃げきれるとは到底思えない。
「このだだっ広い部屋の探検をするのが妥当だろうな。」
そう呟いて、私は来ている服のポケットに手を突っ込んだ。劇場で事故にあった私に持ち物は何もないけれど、いつも洋服のポケットに懐中時計を入れていた。そう、懐中時計だ。自分でネジさえ回していれば正確な時間がわかるのだ。この世界にはもってこいである。
「うわ、まだ5時時じゃん。」
いつもならまだ寝ている時間に、びっくりする。早起きは三文の徳というし、、、さて、探検をしようではないか。
まず、大きな両開きのドアがある。入って右手にさらにドアがある。
どでかいベット、これは本当に気持ちがいい。すごくふかふか。
そしてどでかい本棚。少しスカスカで、数冊しか本がない。外国人な見た目の男達とは言葉が通じた。文字は読めるのかしら、そう思って一冊の本を手に取る。よかった、字はちゃんと読める。けれど、日本語ではないこともわかる。日本語じゃない字が読めるって、異世界補正なんだろうか。ひとまずここにある本は制覇しよう。そしたらこの世界の情報が少しは入るに違いない。
どでかい本の隣には机がある。ここで書き物をしたりするんだろう。紙とペンも用意されている。ペンは万年筆のようだ。よかった、、、羽ペンとかだったら使い方わかんないもん。
そして、大きなクローゼット。開けると随分と豪華な服がズラーっと並んでいた。
「ドレスやないかーい。」
と謎のツッコミを入れてしまうほどには。
端っこの方にちまっとワンピース(それでもフォーマルなんだけど、、、)が並んでいる。これを普段着にしようと決めた。下着、ワンピースタイプの寝巻きと発見して、さらにホッとした。
至れり尽くせりだよ、、、いいのかな?こんな軟禁生活。だって、ふかふかなソファーもあるし、その脇にはテーブルもある。さらにドレッサーまである。美容液みたいなものもあるし。
入口の隣にあったドアを開けてみるとお風呂とトイレがあった。トイレは水洗式のようなもので、どうやって流れてるのかわからないけど、ここでまた一安心。お風呂も日本と使い方が近そうだ。よしよし。
一通り部屋を見渡したけれど、豪華だ。なんと豪華なのだろう。いいのだろうか、こんな素晴らしい扱いを受けて。
こんな心配は無駄だと思うけれど不安になる。しかしまあ、私はしなければならないことがいっぱいあるわけで。
お風呂に入ってさっぱりしてからシンプルなワンピースを着た。流石にドライヤーはなかったので髪の毛は濡れたまま。自然乾燥するしかない。
日記を書こうと思った。字にした方が今の状況がよくわかるもの。
机の周りを漁ると、分厚い白紙の本が見つかった。いいや、これを使ってしまおう。そうして、私はこれから毎日日記をつけることにしたのである。
さて、日記を書くことに集中していた私の集中力を切らしたのは扉のノックの音だった。
コンコン
「ターナでございます。朝食をお持ちしました。お入りしてもよろしいですか?」
ターナさんの声が聞こえる。もう朝食の時間なのかと懐中時計を確認すると7時を、回っていた。
「はい。ちょっと待ってください。」
そう答えて慌てて扉を開くと、いい匂いがする。ターナさんがワゴンで美味しそうな料理を運んで来てくれた。
「わぁ!美味しそうですね。ありがとうございます。」
上機嫌でターナさんの顔を見つめると、ターナさんのびっくり顔。
よくみるな、ターナさんのその顔。
「どうしたんですか?」
固まって動かないターナさんに質問をする。
「あ、いえ。扉を開けてくださるなんて思いもしませんでしたので。次回からは、返事だけなさってくれればよろしいですよ。私が室内までお持ちいたします。」
「そんな!扉くらい開けさせてください。年上の人を敬うのは当然のことです。」
そう答えると、ターナさんは少し目を潤ませてお礼を言った。
もしかして、いや、もしかしなくても私の行動はおかしかったのかもしれない。郷に入っては郷に従えというけれど、比較対象がいない今の私にこの世界の常識はわからない。自分のやりたいようにさせてもらおうと心の中で思った。
「その服にされたのですね。ドレスはお気に召しませんでしたか?」
ターナさんが不安げに聞いてくる。
「いいえ。あまり豪華なものは窮屈に感じてしまって。動きにくいでしょう?だから、私は今着てるような比較的シンプルなワンピースの方が好きなんです。このワンピースも豪華なくらい。」
にっこり笑ってそう答える私を見て、ターナさんはまた少し目を見開いた。けれど、私が変わりものであると学んだのだろう。そうですか。と言って朝食をソファの脇にあるテーブルに並べて去って行った。
ターナさんが運んで来てくれたご飯はとても豪華で、美味しそうなものばかりだった。異世界だろうからご飯が口に合わなかったらどうしようなんて思ったけど、とても美味しかった。