Ⅱ
ああぁぁあぁーー!!
絶対あれだよ!!あの事故だ!!
ってことは、光貴も近くにいるんじゃ。そう思って辺りを見渡したけれど、、、見当たらない。
整理しよう。劇場で事故に遭いました。目が覚めたら森の中の湖のほとりでした。
、、、
あぁっ!もう、わからない。よけい混乱してきたよ。
目の前には美しい湖が広がっている。
え!?死んだ?私は死んだのか?
天使とか、なんかこう、、、お迎えみたいなのはないの?
完全にパニックになった私の頭はわけのわからない憶測をしだす。
「湖の国、、、」
ぽそりと口からこぼれ出た。あの劇の話に似ている。さて、死後の世界でないのならここは物語の中なのだろうか。なんてファンタジーな考えが頭に浮かんだ時点で、やはり私の頭はパニックに陥っているのだろう。
けれども、そこで気がついた。湖の国の湖は山の中にはないのだ。広大なへいやのど真ん中にあるはず。
よし!これは物語の中ではない。、、、となると、どこなんだろうか。物語の中ではないのであれば、やはり死後の世界なんだろうか。
あ!事故で気絶して夢の中とか?
いや、私よ。一番まともなアイディアが最後に出てくるのか。でも、夢という線がやはり濃厚。
試しに頬をつねってみる。
いたっ!!
「痛い。夢じゃない?やっぱりファンタジーな展開なのかしら、、、」
途方にくれてても仕方ないよなぁ。このあと、どうなるのかな、、、
まさか、放置ではないと思いたい。
太陽が沈みかけている。夕暮れ時だ。こんなとき、こんな森の中を歩き回るのは危険だろう。とりあえず、怖いけど一晩湖のほとりで野宿かな?
沈んでいく太陽が湖に映って反射する。
その光景かあまりにも美しくて、思わず密偵の歌が出てきた。姫への叶わない想いと罪悪感を歌い上げた歌。あの密偵が、きっとこんな美しい湖のほとりで歌ったであろう歌。
『恋は夢、人の世も夢、光る湖のほとりに僕は誓うことができない。世界のどこかに罪を消してくれる魔法があるらしい。この嘘もこの罪も、消え去ってしまえばいい。輝く湖の光にこの嘘もこの罪も消え去ってしまえばいいのに。ああ、だれか僕を止めてくれ。僕は君との思い出を胸に抱いてたたずもう。ああ、だれか僕を助けてくれ。叶わぬ想いは僕を殺すのだろうか。』
〜♪……♪〜♪〜……
歌詞が好きだ。切ない想いが直球で伝わるこの歌詞が好き。
密偵はこの歌をどんな思いで歌ったのだろうか。
涙がこぼれ落ちてくる。
あれ?私、なんでこの歌を歌って泣いてるの?
そうか。悲しいんだ。悔やんでるんだ。事故の時光貴を身代わりにした罪を。彼はどこにいるのだろう。死んだのだろうか、生きているのだろうか。
でも、1つ確かなことがある。彼は私をかばったのだ。死にそうになりながら。それなのに私はこんな美しい場所にいる。自我を保って立っている。
ここが死後の世界であるならば、きっと光貴も死んだのだろう。なんせかばわれてた私が死んだのだから。
光貴のその後はわからない。けれど、きっと私を庇ったことによって彼は辛い思いをしたに違いないと思った。私のせいで彼の未来は壊れてしまったのかと思った。
「罪だね。これは大罪だ。光貴に、、、生きていて欲しい。私は、光貴の未来を一緒に歩きたかったのに。」
密偵としてこの歌を歌う光貴を思い出す。彼のステキな、最後の演技。忘れてなるものかと心に焼き付ける。
涙が溢れてきた。光貴への罪悪感、この世界への不安。歌ったことによって全てが溢れ出て、、、
「ゔぇーん、、、ごうぎ、ぐすっごうぎーーっっ
、、あいたいよーー」
もしかしたら彼もこの世界にいるのかもしれない。そうだったらまた会える。私の片割れに。
私は気があまりにも動転していたのだろう。後ろから人が近づいてきていたことに気がつかなかった。