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異世界出張でアフターケアとかなんですか?  作者: 概念ならまだしも実在するわけねーじゃん
5.精霊と神殿

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事故とはつまり、予期せぬ出来事との遭遇である。

回避するためにはどうしたらいいか。もちろん、その状況に陥らないよう、自身の行動を抑制する事も必要だろう。

だからといって、何もしないというわけにはいかない。それは、どうしても生きているうちは生命活動を行わなければならないという縛りプレイをしなければならないからだ。


言い方はあれだが、つまりはそういうことだ。

こうしてただまんじりともせず過ごしているだけで回避不可能な出来事にどうしても遭遇してしまう。

男風呂に照準が勝手に合ってしまう事もある。意図しない覗きで精神がゴッソリ持って行かれる事もある。

ならば、極力、自分にとって精神衛生上望ましい状況を作るためにはどうしたらいいか。


常に見てたら良い。

もうね、いきなりおっさんの全裸を見て戦々恐々とするくらいなら脱衣シーンから見てたら良いんですよ! そうすりゃ心構えができるから!

ついでに女風呂だって覗きます。男女公平、平等、これ大事。


さて、先程の事故への対策はできた。

視界の片隅に常に風呂場を映しておくとして、他の部屋も把握しておかなければならない。とはいえ、時間だけはたっぷりあるのだから、そう焦ることもない。

一番楽しそうなのはどこだろうね? 暇潰しのできる箇所があれば良いんだけど。


あちこちに視線をさまよわせる。

尼さんだろうか、個室に何人か集まって噂話をしているようだから、盗み聞きも良いかもしれない。

ここに逗留している旅人達の様子をうかがうのも楽しそうかな。宿屋で瞑想している強面のおっさんとか、ちょっと気になるんだよな。雰囲気がボルトのおっさんに似ているからかもしれない。

後はでっぷりした商人。あの体躯で旅商人? って思うけど、その分、実力者の可能性がある。本人の腕前か、商才かは分からないけれど。

それと綺麗なお姉さん集団ね! 女性だけでやって来たのだろうか。


うーん、某ゲームベースの世界観を想定してるんだけど、外に魔物が溢れていたりするんだろうか。

勇者が必要って事はそれに相対する魔王がいるって事だと思うんだけど。

それに、冒険者として各地を放浪、とか言ってるぐらいだから、それで生計をたてられる状況なんだろう。だとしたら魔物、もしくは猛獣類はいたっておかしくない。ドラゴンとかも居るんだろう。

そういや魔物系も出会ったことないな。いや、あるな。デカチチ魔王様に出会ってるわ。そういえば牛だったのに複乳じゃなかったなぁ。


なんにせよ情報が全然足りない。

例の如く、この世界の名前もステータスも聞いてきていないからだ。なんとかなるけど、仕事としては好ましくないよなこれ。

事前リサーチ無しに営業に来るとか舐めプも大概にしろって話だわ。そもそも営業活動か怪しい部分は多々ありますけど。っていうか絶対に営業じゃないけどこれ。


それじゃあまず、神官さんからいこうか。

今は自室で待機している。なにもしないのも性分ではないのか、ブツブツ呟きながらお祈りのポーズをとってる。こっわ!

いや、その呟きは殆どが報告事項のようだった。すまん、こっちが喋るように伝えてたの忘れてた。

にしても、周囲に人が居ないから良いものの、そうじゃなければ軽く通報案件だ。


「……ので、私としてはあの戦士の希望に正当性があると思うのです。そして、あの老爺ですが、かれこれ一年ほどこの地に留まられ、毎日参拝を……」


あの爺さんそんなに粘ってんのかよ!

そりゃ他の面子が手慣れてるわけだわ! もはや物珍しさを越えて哀れみの境地に到達しているに違いない。

しかしあの爺さん……どこまで本気なんだ。

こりゃ竹取作戦とも突破されかねんな。いや、そこまでの情熱を持っているというのであれば、この世界の神さまに無理を通してもらおうか。

実現できるかは分からないけど、応援はしよう。


「……というのはわかります。ですが、この十五年近く、転職者が減少しているのは事実かと。この世界に何が起きているのでしょうか。神よ、私には特別な力などありません。ですが、あなたのお力を通じ、平和のために微力を尽くしたいと……」


どうでも良いけど、コイツいつまで祈ってんだ?

あ、私から何かを伝えないと終わらないのか。

しかし、何を言えと? 神さまじゃないし、勝手に答えるのはいかがなものかと。

あ、そっか。


「……は? あなたは神ではないのですか? 使者? 神のご意志を託された、と」


そうそう、これならなんら間違っちゃいない。

別に正直に話す必要はどこにもないけれど、嘘をつくメリットもない。

っつーか、今気付いたけどこいつ。


「え? 騙されやすい? 神託が偽りだったらどうするのかと? いえ、神からの声が……なんと! 魔王の声の可能性もあると……」


そもそも、神さまが発生を抑止できなかったイレギュラー的存在が魔王と呼ぶものだとしたら?

特殊な技法で詐欺ってきてもおかしくない。

まあ、そんなことしてまで勇者の誕生を阻止してくるとか、小賢しいってかずる賢いってか、小物感半端ないけどね。正統派魔王なら神殿を滅ぼすだろうし。

その為の布石としてであれば、人間を侮れない相手と認識しているだけ、厄介でもあり、歴史好きなオタクの一面を持っているとも言える。

ただまあ、神官さん反応からするに、そういった事実などはないのだろう。


「……では、あなたが神の使者であるとどうやって信じれば良いのでしょうか。私には信心しかないのです」


あ、それもそっかぁ。

信じてくださいとしか言いようがないけどね。


「見極めろ、ですか。盲目的になってはいけないと……はい、そうです。私にも思うところはございます」


ですよね、さっき、どの人の転職がどうこうとか言ってたし。

真面目に仕事をこなす、信心深い、敬虔な信徒とかいう類いの人なんだろう。

つまり、ことこの仕事についてはエキスパートだ。私のようなぽっと出のわけわからん小娘が横から茶々を入れるより、正鵠無比な判断を下せるはず。

そもそも私ができる事って、いまは覗きくらいだもんねぇ。

マジで建物とかなにしたらええねん。


「はい、かしこまりました。あなた様のお役に立てるよう、微力を尽くします」


ということで、神官さんと協力しながら来訪者の転職相談に乗ることになった。

そして、ここでやっと、ここですることの軸になっている重要なルールについて、何も知らないことに気が付いた。

そもそも、この世界での職業の意味って何なの?





どうやら職業は、現実世界と同じで好きなものに就くことが可能らしい。

じゃあなんで転職神殿なんてものが存在するのかと言えば、天命職の取得や変更をするためなんだとか。

じゃあ天命職ってなんぞや、といえば、神さまが指定したり本人が生涯職として希望するものってことだった。

自由職と違って、天命職ではステータス補正とスキル取得効果、微妙な外見変更の可能性もあり、職業によって装備できるものも違う。神さまから認められたーってことで色々な特典があるってことかな。デメリットもあるけど、飲めないようなものじゃない。


そんでこれ、各地の教会で取得は可能。ランダム取得は誕生月の祝福でやってくるらしく、希望取得は祈祷すればなんとかなることもあるらしい。それでダメならここまで来てねって感じみたいだ。

んで、ランダムで貰った場合、希望してない時もここまで来てねって感じだ。

天命職は完全に神さまの悪戯でしかなかった。


「自由職の方は、親の職業を継ぐ人もいれば、その地での人気職に就く方もいます。また、冒険者になり各地を放浪する方や、場合によっては、盗賊などに身を窶される方もいらっしゃるようです」


でもそれ、頭領とか長いこと盗賊やってる人って天命もらってんじゃね?

魑魅魍魎の跋扈する世界で人の社会に紛れ込まずに独自の生計拠点があるんでしょ? 中々の実力がないと無理だと思うんだけど。どうやって生きてくんだっつー話だわ。

村偽装かな。伊賀とか甲賀みたいな隠れ里? あると思います!

そういや納税とかどうなってんのかね。多分、王政なんだろうけど。教会があるなら統一宗教もありそうだ。教会の祝福が公平なら、宗教が違うのは具合が悪い。


益々世界観が分からんが、あんまり気にすることでもなさそうだ。

だってここから動くことはありませんからね。

王様が神殿にやってくる? それこそ何のためだよ。天命職に関わり合いたくないだろ、そういう地位の人って。

来るとしたら国が滅んだ後だろう。生き残れていたらの話しになるけれど。その場合はもう王様じゃないけどね。


とりあえず、付け焼き刃の知識は得たわけだ。

本当は転職することで、その人の今後がどうなるか、世界がどう変わっていくか、そういう所まで考慮して決定するべきなんだろうけど。

だって全部分かるわけないじゃん! こちとら派遣されてきたばっかなんだぞ!

まあ、なんとかなるでしょう。

なんともならんかったとしても、私の目的が達成できたら良し。元の世界で無職になるわけにはいきませんので。


いつもお読みいただきありがとうございます。


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