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メルディナ寮に戻れば、玄関が開く音を聞きつけたのか幼女が走ってきた。お前は犬か。尻尾が幻視できた気がするけど気のせいだよね。
あと抱きつかれた。一人で心細かったらしい。
「どこ行ってたんですの!」
「ちょっと散歩……」
「勝手にいなくなってはいけませんわ! 返事は!!」
「……はい」
わん、といいそうになるのを堪えた私はすごい。
「そんなことより、朝食は召し上がりましたか?」
「戻ってくるのを待っていたのですけど……時間もないので、いただきましたわ」
よろしい。
いいこいいこするように頭を撫でる。
気持ちよさそうに目を細める幼女可愛い。
「することがありまして、留守にして申し訳ありませんでした」
「今日の所は許しますわ。でも、明日からは一声掛けてからでなければ認めませんわ」
でも、声をかけたらついてきそうだよね。
実質、二度と朝には動けないって事かな。いや、ついて来れない理由をでっちあげればいっか。
「それでお姉様、朝食はどうなさいますの」
「食べてから出掛けました。そろそろ登校時間ですし、準備しましょうか」
未だ制服を着ていないからね。
私は服がないからずっと制服だけど。パジャマはあったから借りました。さすがにしわになるから制服では寝れなかった。
それにしても。これだけ広い寮に一人暮らしか。
本来的には使用人もいるはずなんだろうけど、一階部分はがらんどうだったし、厨房の貯蔵庫も一人分しか置いてなかった。こっちは寮か食堂から材料ないしは料理が提供されているみたいだけど、十歳の子に一人飯は教育上よろしくなかろうに。
加えて、他の雑事も全部自分でやらなきゃならない。家事一般と捉えたらいいかな。食事はまだしも、掃除と洗濯はきっついだろうな。
本当に後継者にする気がないんだなぁ。自活できるようにという思惑があるとしたら、指導者の名目でメイドの一人くらい派遣するべきなのに。
「どうしました?」
「ああ、ちょっとボンヤリしてました」
にっこり笑って誤魔化すと、手を引いて歩き始める。
目指すはメルディナちゃんの部屋。お着替えしなくちゃですよ。
明日っからの朝食の言い訳どうしようかな。
登校途中にアカネちゃんと出会ったけれどスルー。
メルディナ嬢と私が無視するとなれば、ミケリア嬢以下、他の面子が手出しをすることもない。
今朝は平和だねー、などと、のほほんと歩いていたら我等が教室に人集りができていた。うわーなんだあれー。
「なんでしょうか?」
「さあ? でも、関係ありませんわ」
そういって突き進むメルディナ嬢の強さよ。
これでまだ年端もいかない娘っていうのだから、公爵家の気位の高さが伺えるってモノだ。英才教育受けてんだろなぁ。
私達が近付けば、ザッと人混みが割れる。自然とできたアーチの向こうに仁王立ちしているのはランディアルで、当然ながらそこはアカネちゃんの席だった。
「イズイナート、君がいながら、いや、君がいるからこそのこの仕打ちなのか?!」
「なんですの」
「これだ! アカネが使っている机の惨状を見たまえ!!」
ほうほう、落書きに生ゴミに深い傷に……ん、あの教科書類はなんだ? オプション増えてる。それになんだか粘つく液体も引っ付いてるし、呪詛かな、単なる落書きじゃなくて魔方陣まで添付されている。
これはギュスくんかなぁ。お祭り騒ぎじゃねーか。とことんまでやるってか。まあ犯人が増えれば特定も難しくなるから望むところではある。ABC列車だっけか。そして誰もいなくなっただっけか。
「なんですの。あら、賤民はものの管理もできませんのね」
「これは明らかに悪意ある第三者の仕業だ。アカネは関係ない」
「関係ない? 実際に貸し与えられたのはその賤民でしょう?」
「言葉遊びをするな。自身が使うものを損傷させる理由などないと言っているんだ」
なんか……どっちも口論に弱いんだけど……。
あれか、理論思考よりも感情が先走ってるからか。んー、でも私も頭弱いから口は上手くないし、なにより公爵家同士の喧嘩に首突っ込みたくないよね。社会的にも終わるし下手すりゃ物理的にも先がなくなる。
「それで、なんで貴方がここに居ますの。女子教室に男子生徒が無断で侵入するなど、前代未聞でしょう?」
「見過ごせない事実があったからだ。これは学校に対する宣戦布告である。僕は学園側の代表として、こんなことをした犯人を突き止める」
ランディアルの宣言。それがどういう意味を持つか。
身近なところでいえば、実行犯の生徒達が顔を青ざめさせる。んで、今朝がた話をしたばっかりの私を見る。そんな明らかな態度をしていて、パパーン男子が気付かないわけがない。
えぇ……何この自業自得……。
「君か」
「いいえ」
表情を変えることなく即答する。
だって私じゃなくてリシアちゃんがやったんだもん。身体はリシアちゃんだもん。私嘘ついてない。よって無実が証明された。よし、堂々としていて大丈夫だ。
ランディアルは少し疑わしそうな顔をしていたが、それが不快だとばかりに眉間に皺を寄せたら目を逸らされた。勝った。
「ともかく、この件に関しては我が家の名誉に賭けて、必ずや犯人を突き止める! そしてこの学園に牙をむいたことを後悔させてやる!」
うわこっわ。
これでもしアカネちゃんが自虐してたらどうするんだろうね。事実じゃないけど。
家の名前まで出して調べるってなぁ。集まっていた生徒達がざわめいてる。傍聴人がいることで更に得意になるパパーン男子。
そして、メルディナ嬢は涼しい顔をしているけれど、微かに足が震えていた。武者震いってわけじゃないだろう。
いやあ、ちょっと派手な花火だっただろうか。
でもそうだね、その方が祭りは盛り上がるし、皆が空を見ていれば、その隙に足下をくぐり抜けるのは楽になる。言い方を変えよう。火事場泥棒がしやすくなる。しないけど。
さてはて、この騒動はどこに行き着くだろうか。
目の端に、教室に辿り着いて茫然とするアカネちゃんが映ったので、そちらを向いてウインクを送っておいた。




