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メルディナ嬢は案の定夜中に布団に潜り込んできた。ベッドで横たわっていたらこっそりと布団の中に侵入してきたわけだ。だが、その先は知らなかったみたいでただ抱きつかれただけで終わった。
え、睡眠欲はないです。寝たふりしないと怪しまれると思っただけです。本当です。
さて翌日。
厨房にあった食材を拝借して一般的な朝の洋食を作り上げた後は散歩に向かった。
時計がないので時間は不明だが、まだ少し薄暗いし、朝靄というのか、気温が低いからか霧が立ち込めているので、登校までに猶予はあるだろう。
当然ながら、ただの散歩ってわけじゃない。向かう先は教室。リシア思考によると、この時間帯に出動してアカネちゃんの机に落書きなりゴミの詰め込みなりをしていたはずだ。ということで教室までやってくると、いつも通り数人の女子が泣きそうになりながら億劫そうに嫌がらせ作業をしていた。嫌ならやめれば良いのに。
「精が出ますね」
「!?」
「あいっ……たぁ……!」
声を掛けたら驚かれた。全員が飛び上がったが、うちの一人は背後の机に盛大にぶつかって派手な音を立てていた。痛そう。
「あ、な、なんだ、リシアちゃんか……」
「ちょ、リシア様よ!」
「そうだった!」
「ちゃんとやっています! ちゃんとやっています!」
お、おう。
そっか、今までは同じ立場だったけど、昨日あたりから様子が変わってしまったのか。彼女達からすれば、私も今では支配者層の一人って訳だ。一足飛びにカースト上位かよ。公爵令嬢のお気に入りになるってのはとんでもない事だったんだなぁ。
「いえいえ、そんな畏まらなくても。第一、私も同じ事をしていたんですし、気持ちはわかるつもりです」
まあ、記憶しかないからわかんないんですけどね!
モノは言いようって事よ。
「だから……それやめたくありません?」
「え……で、でも……」
「ミケリア様がしなさいって……」
ちょっと不思議に思うんだけど、なんでこのクラスの人って目上を名前で呼ぶのに格下は家名で呼ぶんだ?
なんかのルールでもあるんだろうか。
「なんのために、でしょうか。伯爵令嬢の言うことを聞かなかったらつまはじきにされるから従っているんですか?」
「そりゃ……」
「うちは母が伯爵様の家にお仕えしてるし」
「うちは兄が」
要するに、ミケリア嬢の機嫌を損ねたら親類縁者に害が及ぶということか。ここら辺はままならないよな。そういう人達を一手に引き受けられるような権力もないし財もない。
でも、ないからなにもできないと終わってしまってはここに来た意味がない。
必要なものがない。ないならつくればいい? ノンノン、吹けば飛ぶような小娘がいきなり台頭できるはずもない。
つまり、あるところが面倒を見るように仕向ければ良い。一時的な支援じゃなくて継続的な生産活動になればもっと良い。
具体的には、学園、つまり背後にいるお貴族様をこの問題に引きずり込んで、メルディナ嬢の問題も一緒に解決する。以上。詳細なことはなにも考えていないって事です。見切り発車も大概にした方が良い。
「娘の一言でハスティフォ伯が動くとも思えません。どんなに溺愛していたとしてもです」
「ですが、心象が悪くなっては」
「むしろ、なぜ言うことを聞かないのか、何をしているのか明確にされて困るのはミケリア様では?」
ここに居る全員がボイコットしたら、次にミケリア嬢が使うのは周辺に居る子達になるのかな?
まあ、身分階級で人を見下していそうな層っぽかったし、実働を命じられたら離反するんじゃないかな。少なくともここにいる子達よりは気が強そうだし。
「一人だけやめてしまうと標的になります。一人だけ続けてもです。全員できっぱりとやめる、二度と従わない。……これで解決する事もありますが、どうしますか?」
問いかけると、全員が無言で視線を交わし合う。
黙っていても目で会話できるくらい団結力があるのか。仲が良くてよろしいですね。
「……うん、決めた。決めました」
「そうだね」
「こんなこと続けない。ずっとやめたかった」
「アカネちゃんとも仲良くしたかったし」
「っていうか勉強を教えてほしかったし!」
「それ! あの子、仲の良い男子生徒に教えたんでしょ? そしたらその子の成績が最下位からトップツーにまで上り詰めたって」
「知ってる! 良いなぁって思ってたのよね」
結構、学習意欲があるみたいですね。
まあそうか、実家の身分が低いから立身出世なり玉の輿なりを狙うなら教養はあった方が良いだろうし。
「リシアちゃんも教えて貰ったことあるんだよね?」
「それで昨日の抜き打ちテストの結果だもんね」
あ、そうなんだ。
そういや、パパーン男子もなんか言ってたな。アカネちゃんとリシアに接点があるとかどうとか。
「じゃあ、とりあえずこの机、ちょっと綺麗にしておこっか」
「うん、今までのお詫びも兼ねて」
「あ、それはちょっと待ってください」
掃除しようとした手を止める。
どうしたのかと訝しんで見てくる女子生徒達。今日から落書きがなくなるってのはちょっと早い。
「アカネちゃんに説明してからにしたいと思います。いきなり様子が変わったら、次はどんなことをされるのかって、逆に警戒されてしまうでしょ?」
「んー、そうかな? 考えすぎじゃない?」
「でも、確かに少し不気味かも」
「このままっていうのもなぁ……」
「ちゃんと話をしますから。それにもう時間もないのでは?」
促すように外を見る。起き始めた朝日が空を青く塗り始めていて、登校時間がやってくると伝えている。
「ほ、ほんとだ」
「やば、朝食なくなる!」
「もう仕方ない! リシアちゃん後はお願い!」
「はい」
慌ただしく、でもなるべく音を立てないように走り去っていく女子生徒達。
さてはて、時間が味方をしてくれて良かった。最後の仕上げとして、公爵令嬢御用達寮の厨房から持ってきた肉切り包丁で机に傷をつける。力加減がわからん。一直線に深めの傷ができたからまあいいか。
ちなみに椅子も机も魔法コーティングされてるから落書きはできても傷はあんまりつけられないんだってさ。魔法の使い方が生活に直結しているとか、よほど研究が進んでいるんだろうね。
それにしてもさすがミスリルコーティングの包丁だよね。魔法とか関係ないや。
それじゃ、授業が始まる前の最後の仕上げといきますか。
包丁をしまって建物の外へと歩き出す。向かう先は男子寮方面。ランディアルってイズイナートと対立してるっぽいもんね。
それにしても、朝から働きすぎだよなぁ。過労死するかも。いやリシア嬢は亡くなってたわ。




