12
全員分のテストが返却された。
一番がリシア嬢、二番がアカネちゃん、三番目にメルディナ様。他のメンツは身分差を意識しいて低身分ほど点数が低くなるように調節していた。すごく意味のないことをしているものだ。現状、身分が高いほど成績優秀だから良いけど、アホの公爵家とか出てきたら大惨事になるぞ。そいつを立てるために学校のレベルが落ちる。入学試験ならボーダーが下がる。そうなってから慌てるんじゃ遅いでしょうよ。
さてはて、現在は下校時刻。
逃げも隠れもできなかったので仕方なくメルディナ嬢の側に控えて大人しく荷物運びをしている。背後には親衛隊気取りの女子生徒が数名。全て爵位のある家の令嬢というのだから、恐れ多いというか、君達は仕えるより仕えられる側なんじゃないのかなぁと。そんな人達よりも前を歩くとか小市民的には勘弁して貰いたいところだ。
今朝通ってきた通学路を、今度は寮に向かって歩いていく。そういえば今朝は実家からだったけど、リシア嬢の部屋ってあるんだっけか?
つらつらとどうでも良いことを考えていたら女子寮に到着した。
マンションみたいな集合住宅に連なるように戸建て住宅もある。一階だからペントハウス的なものだろうか。寮長室には見えないんだよなぁ。
「それではメルディナ様、また明日」
「ごきげんよう。カルディアさんはこっちよ」
「はい」
何が始まるというのか。
私を睨んだミケリア嬢を筆頭にマンションへと入っていく親衛隊。私は公爵令嬢に連れられて、隣の入り口へ。完全に個別の家なんですが。
「うふふ……お姉さまと二人きりの……愛の巣……!」
帰って良いですかね、元の世界に。
「カルディアさん、今日からこちらが貴女の住まいですわ」
「こ、光栄です……」
声が震えたのは許してくれ。
いやいや、こっちを見たメルディナ嬢が、外だから冷静さを繕おうとしてできなくてちょっとにやけていて、でも目が爛々と輝いて興奮している様がちょっと可愛かったから、うん、恐怖感じてるわけじゃないから。
嬉々として超速で室内に駆け込むメルディナ嬢が恐かったわけじゃないから。
「早く来なさい」
「は、はい。お邪魔します……」
「お帰りなさいですわ! お姉さま、挨拶は『ただいま』でしてよ!」
「うおっと!」
玄関のドアを潜るなりメルディナ嬢に超接近された。
彼女は何かを期待するように目を輝かせている!
目の前に選択肢が見えるみたいだわ。無言で頭を撫でるか、ただいまと挨拶をするかという二択が見えるわ。どっちにしろフラグ立つんじゃねこれ。固定ルート入ってるんですけど。
「ええっと、た、ただいま……」
挨拶して、ぽんと頭に手をのせる。
頰を赤らめたイズイナートの娘が恥じらいを含んだ笑みを返してきた。合わせ技ができるのは選択肢のない世界だけ! だいぶ壊れてきたなぁ自分も。
「じゃあ、お部屋を案内しますわね! お姉さまの部屋は私の隣ですわ、客室の一つですけれど、中で主寝室と繋がってますの!」
完全に。
いや、護衛の部屋だよね。
学園寮だもの、変な目的で内部で繋がった部屋を作ったわけじゃないはず。信じてる。信じてるぞ!
「これでいつでも会いに行けますわ!」
そっか、真面目な目的で作っていても違う使い方をするやつがいるだけなのか。ダイナマイトしかり、電なんとかしかり。
道具を使う知能だけは優秀だもんな、人間って。
つまり私にも抜け道を見付ける才能は遺伝子レベルで受け継がれてきているって事だ。唸れ! 私のゲノム!
「そういえば、夕飯はどうしているのですか」
「あら、シェフを呼びつければ良いですわ」
そういうものなのか?
「それじゃあ、こちらへどうぞ」
長めの廊下、天上にちらついている光は魔法だろうか。
密閉した空間だから当然ながら光源がないと明るくならない。エコエネルギーとして魔法って優秀だよな。
廊下の奥には一つだけ扉がある。途中に枝分かれして別の部屋があるわけじゃないようだ。
扉を潜れば、吹き抜けに二階へ続くらせん階段が両側に設置されていた。こういうの、ショッピングモールで見たことあるぞ。向こう側の壁はほぼ窓ガラスになっているのか外の様子が、外かあれ? なんか馴染みのない植物がめっちゃ生えてるんだけど。
ともかく、日光が差し込んだジャングルは青々と茂り生命の力強さをこれでもかと伝えてくる。生命力のバーがあるとしたらオーバーフローしてるに違いない。
「あの隅が接客スペースですわ。たまにティータイムにも使いますの」
自由か。
しかしなるほど、その場所用に灯りが設えられているし、設置されているソファも座り心地がよさそうだ。
見た目は完全に居心地の良い空間だ。
「下の階は使用人室ですの。今はほとんど使っておりませんわ。上に行きましょう」
使用人室ってなんだよ。っていうかどれだけの大きさなんだよ。
外から見た限りじゃそこまで広くなさそうだったけど、二階に上がって左右の廊下を見渡したら二つじゃきかない部屋数が揃っているんですけれど。
「こっちですわ」
今気付いたけどナチュラルに腕を取られている。メルディナ嬢に引っ張られるまま進んでいけば、明るい色の扉の前にやってきた。ニス塗りが甘いのか?
「こちらが私部屋ですわ!」
待て、という間もなくやや興奮気味に扉を開け放ったメルディナ嬢。そのままの勢いで部屋の真ん中に鎮座するベッドへと私を放り投げ、スプリングの素晴らしさを堪能する前に思い切りダイブしてきた。
慌てて受け止めると、そのままぎゅうっと抱きしめられる。
「あああぁぁん! お姉さまが、リシアお姉さまが私の寝室にいいぃぃ!!」
落ち着け!
いや落ち着いてくださいお願いします。
「お、おね、お姉さま、い、いまっ、いまから何をいたしましょう……!」
おう、鼻血しまえや。
「とりあえず、降りてくれませんか」
「……お姉さま」
ふくれっ面で睨まれる。
ああ、はい、分かりました。
「退いてくれ、メルディナちゃん。重くてかなわない」
「むむっ、私は重くありませんわ! でも、そうですね、お姉さまの頼みとあらば」
そういってスッと退いてくれる。
ワガママ妹ごっこがしたくて仕方ないんだろう。それも、大人びた優しい姉に対して。何に感化されたのかね、この子は。
「ありがとう」
上体を起こして頭を撫でれば、そんなのちっとも嬉しくないけど、でも喜んであげなくもない、本当はすごく嬉しいけど、という複雑な表情を披露してくれた。
これミケリア嬢じゃ駄目だわ。
「そういえば、一つ気になったことが」
「なんですの? お姉さまでもわかりませんの?」
「ああ、さっぱり」
「今日のテストで一番だったお姉さまにも? 私にわかるかしら」
「どうだろうね。でも一緒に考えてくれたら嬉しいな」
「嬉しいんですの? お姉さまが?」
「そう、とっても」
「ふうん……わかりましたわ! 私も考えましてよ!」
問題っつーか気になることなんだけど……。気合い入れてフンスとしてるからまあ良いか。
回りくどい言い方はよくわからんから、ストレートに聞いてみよう。
「なんで、アカネちゃんをいじめてるんだ?」
いつもお読みいただきありがとうございます。




