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ついた先は図書室。
自主勉強の方が有意義だと言いたいのだろうか。チラリとこちらを見た司書の女性が慌てて目を逸らす。それを後目にメルディナ嬢は奥の部屋へと進んでいく。本棚の間に隠れるように木目も鮮やかな扉が設置されていた。
ノックもせずに入室するが、誰もいないと知っているって事だろうか。
無言で後をついていけば、中には数人の男子生徒いが寛いでいた。こちらを見て目を見開いている。
おっふ、これはあれですか、秘密クラブとかそういうアレですか。
幸いなことに虐げられている女子も男子もいなかった。さすがに性的な行為を校内ですることはないらしい。ないよな?
「い、イズイナート様」
「あら、随分と楽しそうね」
彼女の一言に立場を思い出したのか、居住まいを正す生徒達。
全員が退いたソファに座り、足を組むメルディナ嬢。その後ろに立ち、周囲に目を走らせれば、随分と恰幅のいい男子に耳打ちされた、型落ちのスカーフをした子がそっと部屋から出て行った。
この集まりがなんなのかは分からないが、どうやら親分を呼びに行ったようだ。
そして何でこのタイミングでここに来たんだよ公爵令嬢。
意味が分からん。
混乱するこちらのことなど意に介さず、へらりとした笑みを浮かべたぽってり体型が揉み手をしそうな猫なで声で話し掛けてくる。
「本日はいかが致しましたか、イズイナート様」
「呼んだんでしょ?」
一言で終わり。
笑顔を凍り付かせた男子生徒がすごすごと引き下がった。
さっきの耳打ちはメルディナ嬢にも見えていたらしい。この十歳児やりおる。
そうこうしているうちに目の前の机にはティーセットが用意された。
何故そんなものがここにあるのかと疑問に思うのは正しいことなんだけど、こんな場所ならあっても不思議はないと思えるくらい自然に出てきた。しかし、これからどうなるのか。
待つしかないよなー、とボンヤリしていたら、出入り口の扉が開く。横目で見ていたら、どこかで見たことのあるイケメンが入室してきた。
誰だっけ?
「パパーン!」
不意打ちは! やめなさい!
予備動作もなく紙吹雪が舞い上がると同時にあの音がした。
思わず吹き出す所をなんとかこらえる。顔に出てしまいそうだったので俯いて。
「……随分と好き勝手しているじゃないか、イズイナート殿」
「ふん、貴男ほどではなくてよ、ランディアルさん」
んーと、よし、リシアちゃん辞書に名前が見当たる。
リード=なんちゃらちゃら=ランディアル、公爵家嫡男だ。え?
おおい、今度の転生者は公爵家に生まれるのかよ。そこに良い嫁をって、まさかメルディナ嬢を嫁がせれば良いのか? いや、ものすごい空気なんだけど。竜虎激突って表したいくらいに視線で闘りあってるんですけどこの人達。
「それでなんの用だ。この場所はいかなイズイナートでも無断で立ち入るなど」
「単なる紹介よ。カルディアさん」
「……はい」
なにを紹介しようってんだか。
わかんないけど呼ばれたから返事をする。
「新しい小間使いのリシア=カルディアよ、手出し無用だわ」
「ほう、そうか。……ん? そいつ今朝、あの中に居たか?」
私の紹介だったらしい。
何このお披露目会。どういう意味があるんだ恐すぎる。
しかし小間使い……小間使いを紹介する間柄ってなんだ?
いや、むしろそういう意味で話を通されるって事は、なんかよくわかんないけど、色々と裏取引的なものに噛まなければならなくなるということではないだろうか。
うーん、立場が手に入るのはありがたいけども。
あんまり責任のある仕事は避けたいんですが。
冷や汗が出そうになる。なんてったって庶民ですもの。
「ランディアル様、確かにおりましたよ」
取り巻きぃ! 告げ口するなこのデ……ぽっちゃりん!
「そうか。……イズイナート殿、この者を使うのは何故だ」
ドストレートに聞いてきた。
ふんと鼻で笑う令嬢。
「ハスティフォよりか良いからよ」
こっちも包み隠さないですね。
多分それで了解が取れたのだろう、話は終わりとばかりにメルディナ嬢が立ち上がる。
やれやれ、この謎会合も終わりか、と胸をなで下ろしたが、なんだかランディアル坊ちゃんにじっと見られている。なんでしょう帰してください五体満足で。
「カルディア殿、しばし時間をもらえるか」
「カルディアさん、応じる必要はないわ」
っていってもなぁ。
どっちも公爵家の子供なんでしょ? え、どっちかを選べって話かよこれ。
おい、どういう立場だよこれ。
「メルディナ様、恐れ入りますが……」
「わかったわ。例の部屋で待ってるから」
おおう、戻ったら貞操の危機やんけ。
ここが修羅場としたら向こうは地獄か。どっちがマシなのかなー。多分修羅場かな。自分次第で好転しそうな空気感って意味では。
メルディナ嬢は私を残して立ち去る。彼女が部屋から出て行くのを最後まで見送ったランディアルの息子が、さっと腕を横に振った。
「ミズホ、ギュス、外を見張ってくれ」
「その女が暴れたらどうする」
「こんな、どうとでもなる」
あれ? っていうか男集団の中に女一人のがまずくない?
いやそんなことはないか。紳士しかいないだろうし。メルディナ嬢の目の方が危ないわ。
「まあ、座ってくれ。女性を立たせたままなのは忍びない」
そうですか。
そういえばこいつら、学生なんだから随分と年下なんだよな。こっちがおばちゃんでなければ……多少は色仕掛けも頑張るのに……まあ、頑張ったところでどうしようもないが。
「何かご用でしょうか」
勧められるまま着座し、要件を単刀直入にうかがう。
もちろん時間稼ぎをたっぷりと行う予定ではあるが、まずは相手に警戒心を見せておかなければならないだろう。そもそも、紹介されたいうことは顔見知りではあっても仲が良いというわけではないということだ。フランクな態度では逆に不審がられる。バカな子の演出なら構わないが、そんなあんぽんたんが公爵令嬢に拾い上げられるはずもない。
頭を! 使わされるのはいやなんだけど!
致し方なしよな。もうちょっと頑張ろう。年取って脳にも皺が増えたはずだし、表面積イコール処理速度増加と思い込んでやりきろう。
「君は、今朝の騒ぎの時にはいなかっただろう?」
え? うん、いたけど……。
認識してないって事は笑ったのはバレてないって事で、分かったからスタンバイすんな扇子。なんでピースサインしながら扇子を生やすんだその頭。天丼に弱いんだからやめてよ!
「彼女がいつも連れている中にはいなかっただろう。皆同じようなものだが、そんな暗い目は見たことがない」
そういや死人だったわ。死んだ魚の目というよりはこぼれ落ちそうな濁った瞳って感じか。
「まるでいつかの……いや。そうだ、カルディア殿はアカネの事は存じているか」
おい話題飛んだぞ。
せめてこっちの返答待てや。
「カルディア殿のように暗く沈んでいた女生徒だ。今は私が彼女の保護を申し出ている」
嫁候補まだいた!
天然ジゴロでもめざしてんのこいつ? 見た目も良いし物腰柔らかいし実家も金持ちとかモテない要素が見当たらないんだけど。たぶん頭が良かったり運動も得意だったりするんだろうな、友人としてそばにいるはずの子達が完全に子分を自覚してるもん。
ん? あれ?
こいつがアカネちゃんの保護をしたがっている?
「発言をお許しいただいても?」
「ん? ああ、そんなことを気にしていたのか。ここでは学友、好きに話してくれ」
というかやっと笑いも収まって落ち着いたってのが正しい。
「確かに、今朝はメルディナ様のところにはおりませんでした」
「ふむ、そうか。続けてくれ」
「アカネ殿とは……少し、話しをした程度ですが。ランディアル様がお目を掛けるとは、いかなる理由があるのでしょうか」
そして、それを私に告げる理由も。
ここら辺の、というかトップを張る連中がわざと口を滑らすって事は、牽制か様子見か。一言で、仕草の一つで全部を見透かしながら表面を取り繕ってくるからこえーんだよな。
気が付いたら袋小路とかありえそうで。
「ふむ……君がこの時期にハスティフォ殿に取って代わったということは、偶然ではない」
うん。うん?
話が見えない。
「君はアカネの扱いを見てどう思ったのか。そうだな、仮にもイズイナート殿が目をかけるほどだ、思うところがあるんじゃないか?」
はあ。なんだかよく分からないけど期待の眼差しのようなものを……うーん、じゃあちょっと考えてみるか。
まずはアカネちゃんの扱いについて。今朝のアレもそうだけど、女の嫉妬にしちゃあ幼稚というか、目的と結果がズレているのが気になるところかな。
本人への攻撃なんだろうけど、なんていうか……人前での罵声はアカネちゃんの後ろ盾がいるところで行われている。机の落書きはおそらくミケリア嬢が主導してるんだけど、机なんて学校の備品だから、アカネちゃんへの攻撃というより学校の私物に対しての毀損だ。訴えられたら負けるヤツね。ちなみに公立校でも机に傷付けたり落書きしたら器物損壊ね。広義では。
わざと目につく悪行というか、分が悪すぎる。かといって自己満足のためでもなく、癇癪を起こして理屈を無視しているわけでもない。言うなれば、目的が浅い。
こんなの罰してくれといってるようなもん……はっ!?
「察しただろうか」
曖昧にだけど。
机の持ち主は学校ってか、学校運営してるのが国だか貴族だかは知らんが、寄付をしてるだろうし発言権はあるだろう。
んでもってアカネちゃんのバックには公爵。でも相手も公爵。下に伯爵がついてるけど、それよりも子爵分家なんていう公式書類にのらないような眉唾ものの身分を公言してる胡散臭い庶民の方が生け贄として丁度良い。
今回までの一連の出来事が何らかのルートで外部に知れ渡っており、近々ある粛正のために贄として抜擢されたと。冗談じゃないわ。
「実は、アカネから君の話は聞いている。カルディア殿には助けられたことがあるとな。だから、君が望むのならば、こちらには用意がある」
ほーん、ほーん。
なるほどね、まじで鞍替えの話じゃねーか!
「ランディアル様」
「うむ」
「メルディナ様は、手出し無用と仰っておりました。ですので私は、メルディナ様を信じようと思います」
「裏切られるぞ」
「ご冗談を」
言って、笑みを浮かべる。
こちらが考えを変える気は無いと見て、公爵の息子は小さくため息をついた。
「わかった、ならば何も言うまい。だが、アカネが悲しむところを見る気は無い」
あーはいはい、監視でもなんでもすればいいさ。
しかし、あの嬢ちゃんがそこまで考えて動いているとは思えない。考えてたら将来が楽しみすぎる。敵に回したくない。
「それよりも、アカネ殿を気遣う理由が知りたいものですね」
まさかの大恋愛?
などとちょっとワクワクしたんだが、歯切れ悪くもごもご言っただけで、ランディアルは勢いよく立ち上がった。
「外まで見送ろう」
あれ、話題転換下手にも程があるんだけど。
急に会話が終わったが、こちらから椅子を勧めることはできない。こっちは一応客だ。
だから最後に一言だけ。
「ご忠告、ありがとうございました」
眠りながらなのでへんなおところがあるきがする
いつもおykみいただきありがとうござ8ms7




