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異世界出張でアフターケアとかなんですか?  作者: 概念ならまだしも実在するわけねーじゃん
2.人造人間
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お外で何やらドッタンバッタンしているが、馬車の中は関係ない。

目の前の女性は一言も発せず、じっとどこか虚空を凝視している。天井付近になにかあるんですか。

さすがに気まずくて何か話そうかと思った矢先、小さく扉の叩かれる音がした。規則的なリズムを奏でているから、賊ではない、だろう。

女主人が馬車側面の小窓に少し顔を寄せる。気付かなかったが、そこは開閉式になっているようだ。二枚貝が口を開けたように見える。

そして姿は見えないが、少年の声がこちらまで届いた。


「終わりました。ロバート様が二名を捕縛」


「そうですか。二十人くらいおりましたわね?」


「ええ。ですがほとんど逃げてしまいました」


ほぼ倍の人数に対して優勢か。

相当の手練れじゃないですか、ロバートのお兄さん。


「いかがいたしましょう」


「目的地のが近いから、このまま行きましょう。深追いをする必要はないわ。報告は帰ってからで良いでしょう」


「かしこまりました」


手慣れた判断と指示。

いつものやりとりなんだろう。ということは、この人はこういった荒事によくよく出会うということだ。そりゃあ図太くなりますわ。


「じゃあ、出してちょうだい」


そしてまた、何事もなかったかのように進み始める車。

御者も慣れてるんだろうな。馬も。


「あの、質問しても?」


「あら、何かしら」


「僕、普通の庶民ですけど、この中に居て良いんでしょうか」


「構わないわ」


身も蓋もねぇな。身分的なものを気にしない人なんだろうか。

それにしても理由くらい教えてほしいものだ。


「その、外を歩くべきなのかと……」


「靴もないでしょう? そうね、気になるならば、話し相手になっていただこうかしら」


「えっ」


思わぬ提案に素が出た。

これはぽろっと口を滑らせてしまう確率が高くなったのではないだろうか。

この世界の常識というものを知らない私にとって、世間話や雑談は罠の極地に立たされたようなものである。ましてや相手は毒蛇のような婦人。躊躇えば即死効果のある牙で噛み砕かれるがごとく、あることないこと全部喋らされてしまうに違いない。


「で、では、この国のことを教えてください」


質問を避ける第一の手は、相手に質問させる隙を与えないことである。

攻撃こそ最大の防御。守るためには攻めあるのみ!


「それよりも貴女の村のことを知りたいわ」


そうですよね!

やっぱり切り返してきやがった。そりゃあカウンター叩き込みますわ。私だって同じ立場ならそうしている。

相手は招待者、対してこちらは借りのある露出魔。権限の強さでいったら相手側がとことん有利だ。

言うなれば、フィールドの優位性は婦人が握っているということ。ゲームメイクにおいて、その差は絶望的な落差になる。

そうね、無理ゲーよね。


「な、何を知りたいのでしょうか」


「そんなに警戒しなくても良いわ。……そうね、食事はどういったものがあるのかしら」


「食事ですか。主食は穀類ですね。それから副菜に主菜」


「聞き慣れない言い回しね。意味を教えてちょうだい」


よし。イニシアチブを取られるなら誤魔化し煙に巻くのがベター。

恐らく持っていないだろう知識を盾にすれば話題を逸らすことなど容易いわけだ。こういう時に雑学が役に立つ。広く浅くは基本でしょ。

たまに専門用語を交えながら適当に話をしていたら、馬車が止まった。どうやら目的地に着いたらしい。助かった、話題が尽きそうだったんよ。

ノックされる扉に応えて婦人が小窓を操る。真珠貝を開く魔女のようだ。堂に入っている。


「着きました」


「ご苦労様。彼は?」


「中でお待ちとのことです」


「そう。では行きましょうか」


「はい」


窓から手を離せば扉が開いた。

降りるのか、と思って腰を浮かせれば、睨まれる。こちらは蛙ですわ、動けなくなった。


「貴女は後からいらっしゃい」


「はい」


イエスマムと言いかけてなんとか飲み込む。

頭の良い貴婦人に余計なことをいったら質問攻めにされてしまう。さっき身に付けた生きる知恵を使わなくてどうするか。

優雅に地に降り立つ豪奢な毒蛇を見送って、適当な間を開けてから馬車から飛び降りる。私には従者のショタっ子なんていませんもの。


そこには鎧のおっちゃん達が盗賊らしきみすぼらしい人間を携えて待っていた。いや、盗賊ってからもっと細マッチョを想像していたんだが、単に痩せぎすな男ってだけだ。服も下半身のみぼろきれを纏っている。

こりゃ、相当食うに困ってるんだな。馬車とか動いてたら金がありそうだってなもんで急襲するのも分かる気がする。無謀とか考えている暇がないくらい困窮してそうだ。


「いくぞ」


ニヤニヤ笑いながら。

あの主人なのに何でこんなに下卑た護衛なんだ? 練度が低い理由があるのだろうか。

ともかく、おっさん達に囲まれ半ば連行されるように歩を進める。


周囲にあるのは草原、そして森の入り口と言って良いだろう、若木が競い佇む木立。小さな泉が目の先に見て取れ、その傍らに石造りの屋敷が三軒建っている。

蔦に覆われているためにか陰気な雰囲気があるが、それは恐らく覆われすぎているからだろう。アンティークにも限度がある。品のない古風は単なる粗暴だ。


惜しいなぁ。

風景画の一幕になりそうな程度にはいいロケーションなのに、手入れがなさ過ぎて不気味になっている。

建物のある風景は整備してなんぼですから。


タンクな清々しさをそのままに、建物のうちの一つに近付いていく。

一番手前にあるもので、比較的まともな状態のやつだ。

他がお化け屋敷なら、こっちは受付事務所って感じか。人が居る感じはするんだけど、どこか機械的で味気がない。

そんな家の前にロバート青年を先頭に少年と婦人。そして玄関らしき場所の観音開きになった大扉の内側に、一人の男性。盗賊もかくやというひょろいやつがいた。


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