19
ということで、交渉の席にやってきた。
相談役の居る場所は一段高くなった座布団の上。曰く、ミハル君達が所属する国の習わしで、商談は団体によって行うとか。一対一の攻防とかはないらしい。
そんで、相談役の位置に着くのは大体がいかついおっさん。貫禄がある人を上に据えて、交渉役が時折目で合図して承諾を取って、みたいなやり取りをするらしい。
つまり、目上や上司、身分の高い人が座るのが定石で、間違っても魔物を据えることはない。アミちゃんはアミフェルナの娘だったから居たらしいね。世界的に有名な大魔術師の家系らしいよ。何でそんなところの娘がこんな所にいるんだよマジで。
ともかく、私は今、ふっかふかの座布団に体が半分埋まった状態で鎮座している。
砂漠衆の方ではこういう役職はないから、私一人が睨み合う両陣営の真ん中で立会人が如く座り込んでいる。いたたまれないわけだが。
チラッとミハル君の方を見れば笑いをこらえていた。アイツ許さない。
「……では、場も整ったことですし始めましょうか」
開始の発端はミナさんから。
これも彼女の常識から言えば、優位な方が司会進行を務めるというマウント行為である。気持ちで負けないという思いが伝わってくるんだが、それに呼応するように族長も覇気を出してくるから、間にいる私は中間管理職バリの板挟みを味わっている。
「その前に、そのスライムは」
「私達の相談役ですわ。山神様の御遣いですの」
そういやそうだった。
族長はまだ何か言いたげだったが、賢明にも口を閉ざしたようだ。
「まずはお互いの品目からですわ。私達からは、麦、水、塩、その他食物、金属製品や色布、一部香辛料、通貨も用意できますわ」
「……こちらは、魔除けの石、服、ここらでしか取れない食物、色砂、金と宝石だ」
「そうですの。では物同士の交換になりますわね。ではまず、魔除けの石の効果、色砂の実物をお見せいただきたいですわ。それと宝石の種類の確認ですわね」
「わかった。こちらも、香辛料とやらと金属製品という物を見せて貰いたい」
儲けるためというよりは交流に近いとはいえ、ミナさんは一切手を抜かないつもりのようだ。
しかし、大量の物資を用意したけれどここの部族と取引するにはいささか大仰な荷物だったんじゃないだろうか。
あれくらいなら砂漠一の大富豪とやりあっても良いくらいの戦闘力があると思うよ。
お互いから出される品々。
向こうは半裸の日焼けしたマッチョ兄さんが品物を運んでくる。羅紗に乗せた宝石なんてのはやはりきれいなものだ。同時に透明度の保証をすると暗に示している。
こっちはミハル君が無造作に出している。族長が目を見張っているが、そんなのにかまわず必要そうなものを並べている辺り、よくあることなんだろう。そして、なんでミンサーがあるんですか。
品々が一列に並べられたら、交渉役がそれぞれの品を物色。相談役の前を通ったものだから、ミナさんの鉄壁防御の中が拝めた。うん、言うことは特にない。一つだけ言うなら、見れたら鉄壁でもなんでもないじゃんってことくらいだ。
見分と同時に、商品を提示した人に質問をしている。それに答える部族のお兄さんとミハル君。
お互いに満足したのか、適当なところで切り上げてそれぞれの陣営に戻ってくる。見れば見るほど何の儀式なのかと思うが、これがいつものやり取りなんだろう。やり取りなんだよね? 私の知ってる商談と何か違うんだけども。
「それではこちらから商品と交換できる品物をお伝えいたしますわ。承諾いただけるならば交換成立、よろしいですわね?」
「ああ、構わん」
値段をつける方ってことは主導権が握れるってことだ。
しかし相手も即答ってことは交渉慣れしているのか、こちらを侮っているのか。
と、ミナさんがこっちを見てる。なのでここぞとばかりにぷるぷると震えた。それを見た族長さんが少しだけ眉を顰め、次いでミハル君の方を見る。
位置的に交渉役が最前線、決定権を持つミハル君の方は振り返らない限り様子をうかがうことはできない。つまり、族長としては私の反応イコール、ミハル君の意思ではないかと推測したと思われる。が、ごめん、独立した意見なんだ。
ちなみにどうしていいかわからないから適当に動くつもり。ステータス確認もミハル君しかできないみたいだし、こっちがどういうふうに動こうが交渉役には全く関係ないんだよね。完全にブラフです。数合わせにいるだけですすみません。
「ではまず麦ですわ。こちらは……」
そっからは完全にミナさんオンステージだった。
視線に合わせて動いたりはしていたけれど、話の内容はあんまり覚えてない。麦と魔除けの石の交換だったけど、同体積の取引とか採算合ってんのか? わからん。
後は目玉の塩だけど、金と宝石に変わってた。ここについてはなんて言うか、族長さんかわいそうだった。通常よりも多く目配せされたから他よりちょっと激しく動いたりもした。危うく座布団から落ちるところだった。
最終的にこっちの荷物は半分以上が残ったけど、向こうはスッカラカン。プラスして宿泊費と滞在費をタダにして貰うって事になった。
これについては交渉後だから事前提案を飲んだって感じかな。
いやぁ、向こうの軍団がものすごい疲れている様子だ。そこに追撃かますミナさんまじパネェ。
「魔除けの石か、それと同じ効果の品はもっとございませんの?」
「……あれが精一杯です。これ以上は我等の生活が危うくなる」
「そうですか。ああ、そういえば、この付近に周囲へ祝福を授ける踊り子っておりませんの?」
「は? 祝福、ですか」
「ええ、私これでも修道院にて修行を積んだこともありますの。祝福という噂には興味をそそられますわ」
「はあ……? 祝福かはわかりませんが、仲間に活力を与える踊りの使い手ならおりますよ。我が国の……あっ」
国? あれ、砂漠なのに国があるの?
そもそもこっちの方は未開拓地に近い状況らしいし、国交断絶でもおかしかないけど。
「あら、この国のオアシスはここだけだと思っていましたわ」
「……お客人、本日の商談はここまでで良いでしょうか。有意義な時間を過ごせたこと、感謝いたします」
「ああ、こっちこそありがとな。あと数日滞在するから、追加で欲しいものがあったら言ってくれ」
更に何か言いたそうなミナさんを遮り、場を終わらせるミハル君。
下手に探りを入れて警戒されるより良いと思うよ。
「では時間も遅いですから、宿まで送らせましょう」
「いりませんわ」
族長の娘が立ち上がったのを見て速攻で断るミナさん。
敵視も大概にしてくれ、その顔、恐いよ。
「そうですか……では、風呂の用意をしておきましょう」
「酒風呂はいりませんわよ」
「そのようなことはいたしません」
困ったように笑う族長に鼻で笑い返してミナさんがミハル君の方を向く。
やっとこ終わったか。私も座布団から降りてミハル君の肩に飛び乗った。
大人しく座っていたリタさんとアミちゃんも立ち上がる。リタさんが手を伸ばしてきたので、そっちへ飛び乗った。リタさんのが背が高いから少しだけ見晴らし良いんだよね。
「じゃあ、戻ろうか。族長さん、ありがとうございました」
一言挨拶を残して立ち去る一行。
外に出れば日が傾いていて、アミちゃんのお腹が鳴った。
どんだけ長い時間やってたんよ。
「うー、おなかすいた……」
「昼抜きでぶっ通しだったからな。ラス、簡単な物で良いから何か作ってくれ」
はいはい。
なんかのサンドイッチでも作るわ。
それにはまず台所を用意していただきたい。
こちらの意志が伝わったのか、宿に向かうミハル君。それについていく三人の女性。
背後から突き刺さってくる視線に気付いてないわけないだろうけど、あっさり無視しているのがなんていうか、慣れることじゃないと思うんですけども。
何はともあれ商談成立、あとは帰るだけかなー。
なんもしてないのに疲れた一日でした。




