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異世界出張でアフターケアとかなんですか?  作者: 概念ならまだしも実在するわけねーじゃん
3.スライム

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16

とはいえ、まだ風呂のある小屋の出口からそこまで離れてはいない。

何故か浴室だけ隔離された小屋のなかにあったわけだけど、そこに向かってバックステップで戻っていく。子供に小突き回されたあげくに死亡とか笑えんわ。そんなのもう集団リンチよ! 子供恐い!

車庫入れが終われば、出入り口から覗いてくる数名の小僧。完全に狙われている。

どうやってでていこうかなー、と思案していたら、その小坊主どもの額に小石が当たって、その痛みに怯えたのか喚きながら走り去っていった。子供の行動原理はわからん。


「覗きは感心しないよな、ラス」


笑いながら現れるリタさん。

あれよ、指弾。粒石を指ではじいて命中させていったらしい。剣技だけじゃなくこんなこともできるなんて器用だわ。

それにしてもタオル一枚の姿とか色っぽ……色っぽいはずなんだけどなぁ、うん。リタさんに色気を求めるのは間違っているんだな。なんとなくわかっちゃいたけど。

あ、脇綺麗だ。


「まあ、私もお前も見られて恥ずかしいところはないけどな。こういう事は早めに教育する方が良い」


言外に私の全裸も色気がないと言われました。

否定はしないさ。むしろ着衣スライム以外に頰を赤らめる奴がいたらそっちのがおかしいわ。


「じゃあ、着替えるからラスは少し外してくれ」


と、言うが早いか。

リタさんに放り投げられた。

うっそだろ!? ってちょ、こっちの方向って……!

などと思う間に着水。ばちゃんと派手な音を立ててしまう。

衝立の向こうから聞こえる笑い声。本当、めっちゃ笑ってるんだけど何があったし。


しっかしこの湯、考えればリタさんのダシ……いや、考えないようにしよう。

リタファンがいたらザルで掬ったりあまつさえ飲んだりするんかなぁ? その時のためにスライム液も浸しておこうか。飲んだらおなかをこわすよ! 気を付けてね!


「ラス、行くぞ」


かけ声がかかったので湯船から飛び出す。

向こうから顔を覗かせたリタさんが、布を広げて襲いかかってきた。そのままぐるぐる巻きにされ、むちゃむちゃに体を拭かれたあとは肩へと強制連行させられた。

誰がどう見てもいつものリタさんじゃない。どうしちまったんだ。何か変なものでも口にしたんだろうか、などと考えている間にもリタさんは鼻歌交じりに宿舎として割り当てられた一軒家に足を運んでいる。

はしゃいでるリタさん珍しいし面白いから良いかなぁ、なんて結論を出す頃には、喧しく言い合っている声が漏れ出てくる我等が宿に到着していた。


「この声はミナか? あと一人はわからんが……」


あーうん、話の内容的にミハル君争奪戦だから、ここに着いてから特にミハル君にまとわりついている娘じゃないかな?

食糧供給したとかいうことで大モテかました現代っ子なんだけど、特に族長の娘とかいう美少女に気に入られたみたいでして、彼女が上から下から面倒見るって言いだしてすったもんだですよ。こう、グイグイくる。

ミナさんがヤンデレ気味のインドア系ゴスロリ巨乳美少女なら、族長の娘は快活なアウトドア系ギャル巨乳美少女。二人して胸の圧力すごいんだぁ。ミナさんは谷間で娘は横乳って感じだけど。


「一応、止めた方が良いのか? どう思う、ラス」


んなこと聞かれても。

あのヘタレ小僧がなんもしないのに物議の渦中へ行きたくないわ。

いきたくないけどリタさんが建物の中に入っていくんだわ。逃げたいけど、今の彼女は何してくるかわからんし、大人しく従うしかない。

室内に入れば、腕を組んだミナさんと仁王立ちする族長の娘が向き合って睨み合っていた。これぞ修羅場って感じで分かり易い。気付いて、鈍感女騎士さん。


「ミハル、湯浴みは済んだのか?」


そして言うに事欠いて元凶に歩み寄り、まったく空気読まない一言を発しやがった。

いや逆にそれが良いのか? こんな場面に遭遇したことないからわからん!


「ま、まだだけど……」


「早く済ませた方が良いのではないか? 歓待の宴をしてくれるというが、交渉もしなければならないし、そもそも踊り子を探しに来たんだろ」


「そりゃそうだけど……ミナとエルーさんが言い争いを始めちゃって」


「気にせず行ってくれば良いじゃないか」


「いや、そもそもの発端がどっちが俺の背中を流すかって事だし、逃げようとしたらすぐバレるし」


戦っている理由はよく分からないなぁ、ミハル君のどこが良いんだか。こういうハーレム系主人公は押し並べて惚れる要素がないと思うんだけど、女の子達は何を持って恋愛感情を抱くのだろうか。理屈じゃないのか、そうか分かった。縁がない事柄だって事が。

自分には関係ないやー、などとノホホンとしていたら、リタさんにむんずと掴まれた。ホワッツ?


「ラスと入ってきたら良いんじゃないか?」


おう、その結論に至った過程を言えや。

ずいっとミハル君の方に差し出すんじゃない。ついさっき一緒に入浴したじゃないか! 二度風呂も悪かないけど今出たばっかだよ!


「拒否スライム……嫌がってんぞ」


「関係なかろう。ラス、仲間のピンチだ、助けてくれ」


いやこれ私のピンチだよ。

こっちの不穏な空気を察したか、ミナさんと、エルーさん? が仲良く睨み付けてくるもん。

あの間に入り込む勇気はねぇっす。


「ラス……わかるか? あれが俺に向いてたんだぜ……」


ぼそっと呟く転生者。

役得なんだから苦労も黙って享受しなさいよ。


「あー、ミナ、エルーさん、俺はコイツと風呂に行ってくる。戻ってくるまでに仲直りしてろよ」


また私のステータスになんか変なもんが表示されてたらしい。

苦笑いしたミハル君が堂々と私の敵を増やした。公認ライバルやめてくれさい。お前、私のこと男だと思ってるんでしょ! だったら尚更やめろください! なんか視線に殺意が混じっているんですけども! 徐々に強くなる殺意が!! 恐いんですけど!!


「じゃあそういう事で!」


最後にはリタさんを盾にして建物外へ走り出ていくミハル君。そして連行されるスライム。


「悪いなラス、でもお前が俺を見捨てようとしたのも悪い」


っつーか関係ないだろこっちは。巻き込んでおいてその言い草はどうかと思うよ!

本当、自分じゃ抵抗すらできないこの体が恨めしい。


「はぁ、じゃあ俺は自分用の風呂小屋に行ってくる。ラスはそこら辺で時間を潰して……っと?」


もれなく子供達に退治されるわ。

素早く頭の上に陣取れば、むにむにと揉まれたあげくそのまま風呂場に連れて行かれた。


「お前って触り心地良いよな。ひんやりしてて、丁度良い弾力で」


脱衣所に着き、私が寄生しているにも関わらず服を脱ぎ始めるミハル氏。

これはなんだ、合意の上なのか?

でも男のストリップを見て楽しむ性癖は持ってないので部屋の隅に逃げる。そしたら、なんでか追ってこられた。


「男同士なんだから恥ずかしがることないだろー?」


気持ち悪いわ。

伸ばされた手からまたしても逃げれば、ミハル君は諦めたようだった。


「風呂入りたいからついてきたんじゃねぇの? まぁいいや、気が向いたら来いよな」


いや、保身のためだったんです。いやらしい意味は一寸もないんです。

訴えることもできない我が身のもどかしさよ!

スライム転生って人型になれたりするよね? それもうスライムじゃねぇし意味分からんしって生物に進化したりするよね? なんで私はずっとスライムのままなん? 進化して名称は変わってるらしいけどステータス表示でしか有用性が見えてないよね。明らかにステータス確認できる人専用の進化の仕方だよね? 自分へのメリットが明らかにないんですが!

前の時もそうだったけど肝心の機能がないんだよ! ファンタジーって言ったらこれだよねって事ができないんですよ!

体は支給品らしいけど、もうちょっとどうにかならないんだろうか。次はもっとマシなものになるように交渉しよう。


そのまま、自分の身に起こった理不尽について脳内であれこれ愚痴って頭の中で女神とアルバートさんを何度か殴りつけた。

少しスッキリしたところでさっぱりしたミハル君が出てくる。烏の行水かよ。


「おう、まだ居たのかラス。来ないから戻ったかと思った」


なんで君達はスライムが人里で無事に生きていけると思っているんだね?

服を着たミハル君の肩に飛び乗れば、頰を擦り付けられた。


「ひんやりするー」


やめろや、性転換してから出直してこい。

もしくは幼くなってからにしてください。変声期も過ぎた男子に頬擦りされる趣味なんてないわ!

頭の上に移動する。そのまま手を伸ばしてくるから、できる限り避けた。

そんな攻防をしながら宿舎に戻れば、入ってすぐの部屋でミナさんが座り込んでいて、その膝の上にリタさんの頭があった。膝枕をしている? 何があったのか知らないが、リタさんは苦悶の表情を浮かべていた。


「お……おい! どうした!」


「ミハル様! リタがいきなり倒れたのですわ」


「疲れか……? いや、それより容態は! ミナの見立てはどうなんだ」


「過労と気候の変動かと。それと心労が少し。後は……酩酊状態、ですわ」


「え? 呑んだの?」


「分かりませんわ。ともかく、命に別状はないと思いますわ」


「そっか」


ほっとした息をついて、ミハル君が何気なく私をリタさんの額の上に置いた。

ちょっと溶けた。え?! 溶けた!!

すぐに飛び降りたけど未だにドキドキしてる。あのままだったら蒸発してた。


「すごい熱だな……氷を作った方が良いか」


「そうですわね」


今まさに私を殺そうとしてきた犯人が冷静に状況分析してる。

その氷を私にもくれるんだろうね?

ばよばよと存在をアピールしたら、頭に手をのせられた。


「少し大人しくしてろ。なに、リタのことだからすぐ元気になるさ」


あ、はい。

そうか、名前で表示されるから見破られるのか。多少のニアミスはあるといえ。


まあ、なんだ。

ちょっと体調崩しただけなら良いんだけどね。こんな医療設備もちゃんとないような場所で発熱って、しかも鍛えているはずの人が真っ先にって。

言いようのない不安があるんだけど、どうすることもできない。

だからとりあえず、リタさんの頰の辺りに移動した。溶けた。距離を置いた。

今は祈ることしかできないようです。




わーい!

ほんとにブクマしてくれた人が居たようです。

いい人がいたものだ。


お読みいただきありがとうございます。

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