3
幸いなことなのか、私の居る場所は先頭集団の中央付近であるらしく、なぎ倒される木々の破片などは降ってこなかった。
いやあ、すごいのよ。この団体様の悲鳴やら森が破壊される音やら。人の身で体験してたら早々に気絶してたと思う。スライムで良かった。
単細胞生物なのに五感が生きてる理由はわからないけれど、聞こえるんだからよしとしよう。元々こんな体になったのだって理不尽だからね、今更超理論が来たところでなんぼのもんじゃいですよ。
しかしどこまでいくのかなー、止まってくれないとこっちも動きようがないぞ。
などと思っていたら、今までは感じなかった横Gが一気にかかった。これは運搬体が急速に向きを変えたという事であるが、方向転換させる何かがこの先にあるという事でもある。
「おし、成功だ!」
「さすがミハル様ですわぁ!」
「ん? 何かあの角の──」
一団の足音に負けずに届いてきた声。どんだけの声量で怒鳴ってんだと思うが、それよりもこれが天啓ってやつか。
名前からして思いっきり転生者だ。こういう流れで出会……出会ってないよね! 角ハマって抜け出せないから草食タクシーごと遠ざかってるんですけど!?
い、いや、いつ降りれるんだこれ!
「……っちは泉の!」
「うわああああ!! やっちまたああああぁぁ!」
「わー」
しかもなんか聞こえる!
ミスった系の叫びが聞こえる!
ど、どうなるんだ私!!
「ブモオオォォォ!!」
どうやってこの状況から抜け出そうかとわたわたしていたら、一際大きな鳴き声が聞こえた。
いや、違う。こいつらの声じゃない!
え、だとしたら何?
「あ、あれは!」
「うっそだろおぉぉ!? あれ山神?!」
え、何? 山神?
都合よく説明してくれるのは良いんだけど私にはさっぱりわからない! 視界はぶるぶる揺れて気持ち悪いだけなんだけども!
そのままばるばるしていたら急に開けた空が目に入ってきた。ああ、綺麗な青空だ。
視界がゆっくりとめぐっていく。林立する木々に、光を反射する澄んだ水。泉とか言っていたか、森林の中の清涼だなぁ。こういう癒し空間は休日に訪れたいところですよね。
そして、その中央に鎮座している鹿のような猪のようなヒヒのようなひときわ大きな生物。あれだな、生きろ的なキャッチコピーが付いていた某アニメ映画に出てたよねっていう風貌だ。これはアウトですよ。
そんなことを思っていたら。
その生物の肩に着地した。
……え?
え、と思って山神氏の顔を見れば、彼もこっちを見た。
心なしか困惑しているように見える。そりゃそうだよな、いきなり草食動物の群れが縄張りに突っ込んできたかと思ったら、肩にスライム乗ってるんだもんな。私でも困るもん。
えー……どうしよ。
「お、おい、なんかスライム乗ったぞ……」
「そ、そうだな」
「ミハル様、それよりも山神ですわよ、あの村人が言っていた」
「わー、すごいではわっ!?」
なんか声がしたのでそちらを見れば、四人の人影。
男一人に女三人か。男性はワイシャツに黒のスラックス、明らかにラフすぎる。つまり、危機感のない現代っ子ってことだろう。
残りの三人は、一人が短髪で銀の胸当てをした革鎧、一人が黒のゴスロリのツインテ、残りが赤と黒のローブに三角帽子の背の小さい子。騎士か剣士ってのと、魔法使いはわかるけど残りが不明だしバランスがなんかおかしい気がする。
少し高くなった苔むした崖の上に立っているが、中でも一番小さな子が転んだ。と、同時に横の顔の上で白煙が上がり、体が震えるほどの音が鳴る。
「お、おまあぁぁ!?」
「あれはまずいぞ……」
慌てる男性と、剣を構える女騎士。
そして、白煙を上げながらゆっくりと動き出す山神様。う、うん、怒ってる、よね。
いやぁ、せっかく見つけた転生者だけども、これはもうどうしようもないね。
ラブコメなんて無理な話だし、山神様が暴れて世界崩壊かぁ。今回の依頼は滞在日数少なくて済んだね、一日もいなかったもん。
帰ったら今度こそ、仕事を辞めよう。その前にあの研修室で前の世界の資料を見てやる。賢者なんて呼ばれてる人もいたし、偉人伝か何かを調べれば簡略的でも生涯年表くらい出てくるだろ。
そんなことを考えている間にも山神氏は四人に近付いていく。
役割がきっちりしているのか、騎士とゴスロリが前に出ていて、その後ろで残りがわたわたしている。強い女の人がいるっていいよね。
さてはて、ここからどうなるのかな。
などと傍観者を決め込んでいたら、急停止した山神様が首を振って、その反動で私は宙に投げ出された。
え?
またしてもぐるりと回る視界。
気が付けば、ゴスロリの顔が近くにあって、腰の下あたりにもにゅっとした感覚があった。いや感覚的に腰の辺りね。
そういえば遠目に見てもこの子は巨乳だった気がする。
「あら、何かしらこれ」
「山神の手下か?」
「いや、どう見てもスライムだろ……ちょっと待ってろ」
うわ、なんか注目されてる。
というか、山神氏が泉の中に沈み込んでいってる。用が終わったから帰るってことなんだろうか。
いや人を妙な境遇に押し付けといて何逃げようとしてんすか。
「ステータス……山神の肩に乗ったスライム。ヌゥルの群れに誘拐されたあげく山神の肩に乗ったスライム。強運値が異常なほど半端なく高く、山神にすら存在を認められた」
「なんですの、それ」
「うわぁ、すごいスライムさんなんですねぇ」
「山神が存在を認めるって……まあ、敵意も感じないし、どうするミハル」
わらわらと集ってくる四人組。
「うん……連れて行くか。こいつが居れば山神が俺達を襲ってくることもないだろう」
「そうだな」
女騎士さんと転生者がブレインなのか。
というか役割偏ってんな。騎士さんいなかったらこいつらどうするんだ。
「あれ? ステータス変わった……分析スライム? 転生者一行の役割を分析するスライム。どんな状況にあっても冷静沈着」
おおう。
そのステータス表示はずるくないか。
「速攻で進化したんだが」
「それよりも、スライムって思考するのか?」
「きっとミハル様のお導きにより進化したに違いありませんわ!」
いやそれは違う。
「あれ、なんかコイツ眉毛ないか?」
「皺が寄ってるのか。確かに眉毛に見える」
「はわー、かわいいかも……」
「難しい顔してるぞ」
「ん、またステータスが……表情筋スライム。体表の状態を変化させることで表情のようなものが出るスライム。喜怒哀楽が表現できる」
「喜怒哀楽……」
「ねえ、この子飼うの? 名前はぁー?」
ゴスロリの胸から、今度は魔女っ娘の腕の中に移動する。おや、この子は見た目に寄らず良い弾力をしている。というか多分、私が最も鑑賞するのに好ましいと思う胸の形をしていると思う。
いいか、おっぱいとは大きさが全てではない。大小だけで物事をはかろうなどとは器の小さい者がすることだ。
いくら大きくても垂れ乳なぞ論外だろう。形状も、釣り鐘型、新幹線型、お椀型など様々ある。
私的に最高なのはお椀型の中パイ、それが横と下からの支えなくレースのポンチョで乳輪が見える見えないのギリギリラインに隠れている服が良い。ハミチチもいいけど下乳が一番だ。胴体との接合部付近に汗が留まっているのが見えるのが良いから大きすぎるのは駄目なんだ。わかるか。
この子がそういう服装したらいの一番に懐くぞ、私は。
「またステータス……あ、うん」
すごい複雑な顔で見られた。
「なんだ、どうした」
「いや、何でもないっ! ああ、そうだな名前だな、スライム……スラ……ラス、ラスリーでどうだ」
「素晴らしいと思いますわぁ! さすがミハル様!」
「ラスちゃんかぁ、よろしくラスちゃん!」
女騎士さんは何でも良いみたいにため息をついていた。
嬉しそうに私を抱きしめる魔女っ娘、その腕から転生者が私の体を引っこ抜く。乱暴はやめていただきたい。
「ほら、一旦村に戻るぞ。そしたら新しい仲間に自己紹介な」
「わかりましたわ」
「はぁはわっ!?」
「おっと! 気を付けろアミ、また散発する気か」
「えへへー、ごめぇん」
わいわいしながら後に続いてくる三人を軽く無視して先頭を歩く男。
あの中にはいらんのかと少し不思議に思っていたら、ちょっと距離が開いたところで鼻の穴を広くした彼が耳打ちしてきた。
「な、なあ、お前オスなの? アミのおっぱいどんなだったんだよ……あとイェルミナも」
ああ、はいはい。そういうことね。
堪能してるのを羨ましく思ってみていたのね。羨ましかろう!
やはりさっきの胸語りはステータスに何らかの影響を与えていたようです。他の誰かに見られないうちに変更されることを祈っておこう。




