25
翌日、準備ができたと知らせがあったとのことで、おっさん達と三人連れ立って酒場から城門へと移動した。
「……ついてきてるな」
「ああ」
「何がですか?」
「リク坊だよ。諦めきれんらしい」
気付くとかさすがやなぁ。
それなりに周囲へと注意は払ってるつもりだけど、おっさん達みたいな察知能力は無い。しかしこの二人がいれば警報器がなくても大丈夫そうだ。
「リクト君も連れて行ったら良いんじゃないでしょうか。ほら、子供ですし一人増えたくらいどうって事ないでしょう」
「まあ、そこはそうなんだが」
「アイツ生意気だからな、ワガママ通してやりたくないんだ」
ああ、そういうこと……。
性格に難有りって事ね。
「そもそもなんでマスリオ様に会いたいんでしょうか」
「ずっと憧れていたらしいぞ。だから、お前が取り入ったのを見て腹立たしかったとよ。体でも使っただろうってな」
「臓器提供してませんよ」
「そういう意味じゃねーけど、その方が喜びそうだよな、賢者って」
「あれで性欲があるとは思えねーしな」
そんな雑談を交わしながら石畳を行く。
あ、そうだ、アレの話をしておかないと。マスリオ氏を拉致できるタイミングがいつかわからない以上、先に根回ししておかないと万が一の時に困るのはこっちだ。
「お二人とも、近い内に僕の故郷に来ませんか」
「唐突だな」
「実は賢者様も招待したくて。すぐに帰れますし、どうでしょう」
「……お前の故郷って事は、飯が美味いのか?」
期待を込めた眼差しを向けてくるおっさんとおじちゃん。
どんだけハングリーなんだ君達は。
「まあ、そうですね」
魔王様の国のことなんだろうけど、私が作った飯を感動するわけでもなく普通に食っていた辺り、基準は高いだろう。
私は食ってないからわからないが、反応的に間違っていないはず。
「よし、行こう。拠点探しもしなきゃならんしな、候補地に入れさせて貰うぞ」
あそこ拠点にしたら人間から依頼来なくなるぞ。
「えぇ、まずは見てから決めてください」
「ああ、もちろんだ」
飯が美味いって理由で決めかねないから恐ろしいよな。
魔物とか関係なさそうだもん。
そうこうしているうちに門に辿り着いた。
相手はまだ来ていないみたいで、しばしそこで待たされる。取引があるといっても許可がないから入れないのね。
やがて正面の大通りから三個小隊を引き連れて、地が赤い馬車がやってきた。扉や窓枠の縁取りは黒で、補強と装飾のための下部の飾りは艶消しの銀。車輪が大きめで車高が高く、遠出には向かなさそうだ。
こちらの世界の馬車は基本的にクーペ。もしくは箱型キャリッジ。街中だから二頭立てが限界なんだろうけど、引いている箱がでかい。クーペは二人乗りなんだけど、あれは四人乗りっぽいよ。あれなんて呼べば良いんだろう。ワゴン? ハイエース?
「おでましだな」
「あの車ってこたぁ、ご本人様登場か。派手に来やがって、何のつもりだ」
「護衛も多すぎる。なんか企んでやがるな」
だよね。金を受け渡すだけなら執事とか使用人を使えば良い。
まずもって本人が来ている時点で何かがあるとみて間違いない。そして護衛の数。ちょっとそこまで行ってきます程度にしては多すぎる。王都の治安が悪いわけもなく、特に壁内なんて安全極まりないだろうに。
それに、このまま外へ行くというのも考えづらい。車高が高いという事は重心も高いということであり、舗装されていない道を進むには不向きであるからだ。
ということ考えると、総合して怪しいって話になる。
「相手方の出方を見るしかないが、迂闊なことはするなよ、ルーデス、ルノ」
「わあってるよ、お貴族様と揉め事なんて御免被りたいからな」
「いざって時は逃げに徹しろ。金はなくても構わん」
「ヒュー、男らしいねぇ」
「言ってろ」
こういうときにも余裕綽々とか場数踏みすぎだろうよ。
私はもうこの後の展開がどうなるか憂鬱すぎて軽口一つたたけやしないいよ。
心の中で身構えながら接近を待つ。門から少し離れた場所で馬車は停まり、開いた扉の中からマスリオ氏が飛び出してきた。え?
「やっぱりルノ君だ。お久し振り」
「え、あ、はい」
ニコニコ顔で手を振りながら近付いてきたマスリオさんが私の両手を取り、ぶんぶんと上下に振りたくる。そんな熱心に握手しなくとも。
不意を突かれて傭兵二人も固まっている。そんな面々の所へ例の伯爵もやってきた。出遅れ感があるが、そこには突っ込むまい。
「おお、本当にルノがいるとは。さすがは賢者様、人物特定の新魔法をこうも容易く作るだなんてな」
「だってルノのご飯食べたいし」
君達は胃袋掴まれすぎだろう。
マスリオさんに至ってはその為に偉業達成してるし。新魔法とか体系外のものであれば一つ作っただけで歴史に名前が残るっていうぞ。一周回ってバカなんじゃないか。
ああ、ということは、私が来ていると気が付いて、ここへ来ざるを得なかったのか。ということは、伯爵も私に用があるんだろう。
「すみませんね、わざわざ来て貰っちまって。例の報酬、いただいても良いでしょうか」
「あ、ああ。おい、取ってこい」
「はい」
傍らの老執事に指示を出すバゼル卿。
白髪をビシッと決めて、流行が二つ遅れたスーツの男が馬車に戻る。ここで出てくるかセバスチャン。
あとマスリオさんはいい加減手を話しやがれください。
「あー、それで、マスリオ様は何しにいらしたのですか」
「ご飯作ってくれる人になって?」
おさんどんをしろと。
というか母親か? 言葉が足りないんだが、それは。目的は完全に集約されてるけども。
「マスリオ様は今、バゼル様のところにいらっしゃるのでしょう? でしたら……」
「ルノなら歓迎するぞ。うちの料理長になって貰ってもいい」
おいおい、今の料理長に恨まれるだろうが。
新参者を上に据えるのだったらある程度の評判のある人にしなさいよ。ありがたいけど頭が痛いだけだわ。それに。
「僕はクラインボルトさん達と仕事をすると決めていまして……せっかくのお申し出なのですが」
「え、じゃあ俺もそっちいく」
来てくれるのは良いんだけど、バゼルさんの表情的には良くないよ。自分の所で研究を続けてほしそうだよ。
それにお前、傭兵できねぇだろ。
「ご主人様」
そこへ、荷物を持った老執事が現れた。
金が入っているだろう袋を携えている。大きさは大の大人が一抱えする程度。金貨だとしたら一財産だ。
それ受け取り抱えるバゼル氏。仕掛けるとしたらここか。
「むう、重いな。ここまで来てくれ」
「……いや、悪いがこの門のこっち側に置いてくれないか? しばらくは離れてるからよ」
「なんだ、直接渡してやるぞ」
貴族から直接、っていうところがミソね。そう言われて断ったら不敬になる。それで激怒するっていうシナリオも存在する。
「マスリオ様、すみませんが受け取って来ていただけませんか?」
「ん、わかった」
何もわかってないだろうけど。
言われるがまま、袋を取りに向かう賢者。困惑するおっさん。その袖口からナイフが落ちて地面に突き刺さる。
簡単な罠だけど、受け取り時に襲われたことにして一網打尽を狙っていたのね。周囲に静けさが満ちるけれど、マスリオ様は気にせずに報酬を鷲掴むと、思いがけずそれ片手で持ちながら先程ボルトのおっさんが指定した場所に置いた。
「やってきたよ。だから、ご飯作ってくれるよね?」
そんな食いしん坊キャラでしたっけ?
まあ、仕事はしてもらったので了承する。
あまりのことに呆気にとられる伯爵を後目に、素早く中身を確認した傭兵達が荷物を担ぎ上げた。
「取引成立だ、じゃあなバゼル卿!」
目で合図が来たので伯爵が居る方と反対側に走り出す。もちろん、ボルトのおっさんもルーデスのおじちゃんもだ。
ちなみにマスリオ氏は何事かわからないのについてきてる。本当にこっちに来るつもりなのか。体力なかった気がするんだけど大丈夫だろうか。
おっさん達に並走すれば、背中をばしりと叩かれた。
「よくやった!」
それが賞賛であると証明するように、後ろから伯爵の護衛が追いかけてきている。
賢者を取り戻すためかわからないけど、マジな顔してるんで怖いです。
「とにかく逃げ切るぞ! んで、とっとと出発だ!」
「二度とこねぇよこんな街」
全く以て同意見だ。
頷こうとしたとき、角から出てきた少年とぶつかり倒れ込んでしまった。位置的にボルトのおっさんを巻き込んでしまい、一緒に転がる。
ルーデスのおじちゃんも足を止めて戻ってきた。手を差し出して引っ張り上げようとしてくれる。
「てか、リクト君? 離してください」
「うるさい!」
いや、うるさいとかじゃなくて!
腰から下をがっちりホールドされていて起き上がることができず、そうこうしているうちに追いついてきた兵士の一団に囲まれてしまった。ガッテム!




