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どうしたもんかなぁと思う。
いや、状況は大体わかった。要するにじいさんがいけないわけだが、だからといって彼を排除すればお終いって訳じゃない。
霧が発生し続ける遺魔法の仕組みを解明しないと、誰にも対処できない世界だけが残されることになる。
現状の推理からいくと、全書さんが魔法の媒体で、ヤツを燃やせば消え去ると睨んでいるんだが、万が一間違っていたら解決法も同事に消える。あれよ、ほら……。
索引機能をインストールしたじゃん?
アレはね、有用だったんだけどね、読めなかったよね。もう本当読めなかった。うっかりしてた。音声読み上げ機能とかないと無理だった。単語が調べられても解説が読めなかった。
もう自動翻訳機能をつけてくれないかなって提案したら、元からついている機能が優秀すぎて変な感じに改変されるかもって、そうなると話すこともできなくなりそうで、試せない。
んもーぉうっ! 手詰まり感! これもう動けるようになるほかなくない? 手足をニュッと、こう……バケモノにしかならんのでやめよう。
「ということで全書さん、外の霧を消してみませんか?」
「ハッハァー! 君はどうしてなかなか、賢いのか愚かなのか。小狡い性格なのだな。面白い」
ストレートに要望を述べたら面白がられて終わった。
協力はしてくれるんだけど、思った以上の事はしてくれない。何かしらの線引きがあるのだろう。それに触れないラインでもっと大胆な欲をつきつけていきたいものだ。
ともかく、どうすれば良いのかわからないので知識を蓄えようと図書館にやってきた。ここには色んな本があるわけだし、転生者と仲良しだった全書さんがいるわけだし、ヒントを得るとしたらここしかないと思う。
「うーん、しかしわからん」
「なにが知りたいのかね? 魔術の基礎でも覚えるか、言語の勉強をするか、歴史でも良いかもしれない。そうだな、君が興味を持ちそうな王室の歴史などどうだろうか、既に滅んだ王家の話ではあるが、人間はすぐに戦争を始めるから、数百年の歴史と言えば驚異的な数字だろう」
千年単位で血統保持してる国を知ってるんでいいです。
それにこっちの歴史を覚えたところで試験に出るわけでもなし……全書さんが語りたいだけでしょ。
「その国はおおよそ安定していてね、次代の王も聡明で更に続く千年王国の夢はほぼ確実とされていたのさ。そして何事にも優秀な王子は娶るに相応しい女性を欲して国中の貴族の娘、商人の娘を招待して舞踏会を開く事にした」
黙ってたら勝手にしゃべり出した。
止めると脱線がひどいので、放っておいて近くの本棚を漁る。なにかないかなぁ。
「そこで現れた一人の女性に目を奪われたわけだな! だが彼女は真夜中の鐘が鳴ると外へ走り出した」
……ん?
なんか聞いたことのある顛末なんだが……。
「……シンデレラ?」
「ラミィもそう言っていたな。十二時の鐘で魔法が解けるから帰らなくてはならない! 時間制限のある魔法とはなんだ? 魔法使いの寿命だ! 彼女は二度と同じ魔法使いに会うことはなかった」
「待ってください、彼女が魔法をかけられたのは同情されてですか?」
「そうだ、ラミィがいう物語と同じだった。きっと君が知るものと同じだろう」
「ガラスの靴が残されていたんですか」
「そういう事だ。魔法が残った、それをヒントにラミィ遺魔法を作り上げたのだからね」
え、えぇー……?
いや確かに、魔法使いがいないにも関わらず魔法が解けずに残っているけどさぁ……どこら辺がどうヒントになるんだ?
「そして、彼女を迎えた王国はその代で滅んだのさ」
「は!?」
ちょっとまって、私の知ってる話と違う!
「めでたしめでたし、ではないんですか? シンデレラは良妻賢母で王を支え国を愛し……」
「もちろん彼女はそうだった! だが、魔法は一人を幸福にし他の誰かを不幸にする。魔法に縋った幸せは、別の不幸を呼び寄せる」
エラちゃんもそんなこと言っていたっけ。
じいさんを幸せにして、その代わりに一族の女性が呪われてて、そういえば世界規模で見れば霧に覆われているから、生活も不便なのか。
つまりマッチポンプ。ミルトガングのじじいの大規模マッチポンプがこの状況の正体か。
「ミルトガングのおじいさんを排除してもらえませんか?」
「ハッハァー! 君は直情過ぎるな! しかしどうやって本が人を排除するというのかね」
やってはいけないわけではないが、方法がないらしい。
とはいえ私も魔法は使えないわけだし、外の世界では単なる日記帳だし、こうなったらやはり手足をつけるしか……エラちゃんに暗殺者をさせるわけにはいかないしなぁ。
「まあ、悩み給え。それよりも、知りたいことがあるんじゃないのかね」
いや、別に……知りたいことはあるんだろうけど、なにを知ってた方が良いのかがわからない。
情報が欲しいけど、どの情報が必要かわからん。もうわからん! なんなの!? 頭脳労働苦手なんですけど!!
「結局、遺魔法ってなんなんですか」
「ラミィが生み出した、魔法使い本人が亡くなっていても発動し続ける魔法だ。魔法の発動には生命が必要なことは話したな? それがいらない! さあ、それがどういう事か、君にはわかるかね? ガラスの靴は残されたのだ、それは何故だったろうか」
魔法使いが死んでいるのに残される魔法。
そもそも魔法がどういうものか知らないのに答えなど出てくるのだろうか。
ぬう。いやもう無理だしその件は一旦放っておこう。何かしら調べてたらそのうち回答がひょっこり出てくるだろ。
っつーか答えろよ。質問に質問で返しやがってうぎぎぎぎ。
「そういえば、ミルトガングの製品って蒸気機関を使ったあれこれなんですよね? んん……エラちゃんのお兄さんとお父さんはなんの仕事をしているんですか?」
「それは本人に聞くのが良かろう。というか、そんな些事など知らん」
そりゃそうか。
いくら全書さんといえども限界はあるわな。
「遺魔法の発動媒体ってなんですか?」
「他の魔法と同じだ。そこは変わりない」
ん?
んんん??
あれ、画期的な別の方法だったのでは……?
うん、うん、そう、あれだ。人の考える事ってのはそこまで突飛にはならない。生活環境は影響するかもしれないけど、知識の幅とある程度の常識、そこから培われる想像力に大した差異はないからだ。
同じ物語を知っていたということは、同じ世界もしくは似通った世界に居たということ。つまり、ラミィさんと発想力はそこまで変わらないという前提ができあがる。
本人が死んでいても、生命力を使って魔法が発動する。
じいさんに関わる一族の女性が呪われる。
「もしかしてですけど……その、ラミィさんのファミリーネームって、ミルトガングですか……?」
「そうだな。見当がついているようだから付け加えるが、ミルトガング社の創始者はラミィの息子だぞ」
ほ、ほへー。
自分の息子に魔法をかけたのか……そりゃ可愛いだろうなぁ! あんな見た目の子供ができたら溺愛する気持ちもわかるかな! 転生者ァ!!
一つの暴走した家族愛が引き起こした悲劇。
裏舞台を知ると喜劇にしかならないが、これで方針はほぼ決まった。
やっぱじいさんを排除するしかないわこれ。




