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異世界出張でアフターケアとかなんですか?  作者: 概念ならまだしも実在するわけねーじゃん
2.人造人間

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23

他人の運転は昔から苦手だった。

それでも半日ならなんとかなったし、今生は作り物の体であるからか酔いも無かった。多分三半規管が無いからだろう。

しかしだ。いかに身体が丈夫であろうと、心まではそうもいかない。一日馬に乗っているだけでとんでもなく疲弊した。その日の宿に着く頃には足腰が立たなくなっていた。もう心神喪失だわこんなもん。


しかも、宿。

木で組まれたベッドにはマットレスも無く、ただシーツのようなものだけが置いてあり、それもそこまで清潔とは言い難かった。ロバート青年の弟子達は自分たちのマントにくるまって床に寝てる。その方が休めるとか宿の意味よ。

私は寝る必要が無いけども、とりあえず床に横になる。体を休めるためには、負担の掛からない体勢で休止している方がいいと、しわくちゃから聞いている。


横になった場所から上を見上げれば、丁度良く設置された窓から紺色の空が覗いていた。

月が明るくなってきているのか、星の瞬きが遠く見える。こちらの世界にも星座はあるのだろうかと考えた。

星の配列に意味を見いだせるのは、人間ならではの思考だったか。星の輝きにロマンを当てはめるには、惑星までの距離は邪魔でしかないし、星系の成り立ちや含有成分の知識は野暮でしかない。


なんにせよ、元の世界の星座もあまり知らないからどうでもいいんだけど。夜が長いといらないことをついつい考えてしまう。

そのままごろごろしてたら夜が明け始めて、起き上がった旅の伴に蹴りつけられた。出発するらしい。

もうちょっと扱いを覚えて頂きたいものであるが、雑兵なんてこんなもんだ。置いて行かれないだけ優しいと思うよ。


その後も同じような工程を経て、そろそろ慣れも出てくるかってところで王都についた。

そこからは完全に別行動。都に寄る事もなく、私を蹴り落とすと使者は目的地へ向かって走り去っていった。道中もあんまり喋ってくれなかったし、仲良くなる暇はなかったよね……あいつとは縁が無かったんだ。名前も知らんし。


さてはて、打ち付けた尻をさすりながらこれからどうしようかと考える。

放り出されたのは都を巡る水路の手前で、やっとこ舗装された道路に出会うかどうかって境界線の所だった。手前の丘の上から全体を見渡そうとしたが、さすがに無理があるほどには広大だ。城壁の外まで街が広がっているから、どこまでが敷地かもわかんないけど。

まあ、貴族のおうちは中央か城の近くでしょ。


ここの地形は何というか、攻められやすいけど守りやすいって感じだ。

周囲が川に囲まれているから、ある程度進軍は阻める。だが、十分と思える川幅は無い。流れも緩やかで、橋が木でできていることから深さも無いと推測できる。

しかし、人の住処が雑多に拡大されているため、薙ぎ払うにも労力が必要になるだろう。大通りはあるから、そこを突けば中央には早めに到達可能だけど、ことはそう簡単に運ばなさそうだ。

街の中央を囲む城壁から外へと六方向に回廊が延び、見張り塔に繋がっているんだが、あの上から弓なり魔法なり打たれたらただじゃすまん気がするわ。街を壊しても城壁内は守られる。


あと、城はいきなり突き出た崖と一体となって君臨している。単山というのか、イメージは富士山かな、周辺に同じだけの高さの造形物は存在しない。

自然を利用したというなら、そこそこ使える場所を選定したと言って良い。ゼロから作り上げたというのなら芸術点は良い値をつけてあげよう。見た目が好みでした。

なんにせよ、上からの攻撃でイニシアチブを取ろうという意図がこれでもかと見えていて、魔法を使えない身の丈からすればそもそも攻め入ろうという気持ちが萎える。街を取り囲む全体は盆地だから突撃はしやすいんだけども、城を墜とせる気がせんわ。しないけど。


ということで、住まいがある外縁部へは易々と侵入できた。

たまに警備らしい巡回兵がいるが、これといった荷物も持たない私にはあまり興味がないらしい。見慣れない顔だからと怪しまれはするんだが、服もヨレヨレで手ぶらなもんだから、浮浪者が増えたと思われて放っておかれる。

荷物のなさがこんな所で役立つなんて! 必要なものはポッケにインよ!


ここから城壁内部に行きたいところであるが、さすがに門兵が立っていて自由に行き来はできない。

かといって壁を登ろうにもあの高さはやばい。それに、忍び返しというのだろうか、御岳山のアレとは違って意図的に反り返っているから登り口も見付からない。そもそも攻略する気はないけども。


さてはてどうしたものか。

こういうときに頼ってしまうのが、我がスキルです。幸運よ、カモン!


「あ? ルノ……お前、ルノか!! 生きてたんだな!」


「おっ」


冗談で願ったら通じた奇跡。


「ボルトのおっさん」


「ははは、変わんねぇなぁ坊主! ……っと」


「数日で変わるものじゃ……あ、見た目は変わるかもしれません」


そういえば腕は無くなったことになってたんだった。

生えてたらビックリするよね。


「お前、それ……」


「詳しい話は落ち着けるところでしたいのですが」


「ああ、それもそうだな。ついてこい、仲間に紹介してやるよ!」


やっぱこの人は豪気というか陽気というか呑気というか。

普通だったらもっと不気味がるものなんだけどなぁ。どっかずれてんだよな。助かるけども。



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