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異世界出張でアフターケアとかなんですか?  作者: 概念ならまだしも実在するわけねーじゃん
6.ロリショタ

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83

馴染みの二人に挨拶をしようと、入門を果たした彼らに近付いたら、瞬時に顔を青くしたウーオン氏に詰め寄られて腰に布の塊を押し当てられた。なに、なに?


「シン、お前、なんでそんな平気なんだ……」


「あーあー、でたよ、オンの過保護」


「うるさい、抉れてたんだぞ、こんな状態で動き回るなんて馬鹿のすることだ」


よくわからんが馬鹿にされたことだけは理解できた。馬鹿ですみませんね!

ちょっと見せてみろとワンハェ氏に言われて、嫌そうな顔をしたウーオン氏が腕の力を緩める。ぺらりとめくれた布の先、私も今初めてじっくり見るけれど、確かにこれ抉れてるわ。ミンちゃんほどの惨事ではないけれど、ちょっとした擦り傷程度と言い張れない位にはピンクっぽい黄色な中身がチラリしている。


「うわっ、なんだこれ! おいシン、痛みはないのか!」


「ない」


「振り切れると痛みを感じなくなると聞く。シン、迎えは良いから大人しく寝ていろ。再生するまで動いてはいけない、血を失いすぎる」


そうか? うろうろしてるけど平気だしなぁ。

しかし各所が血みどろ過ぎて自分の負傷具合がわからんかった。忍者部隊の誰も教えてくれないし。

でもそうか、治療の専門家が休めと言うなら休んでいようかな?

ああいや、そうじゃないわ。


「それより、俺を連れ戻しに来たのか?」


「は?」


「いや、大規模戦闘の気配ありとの伝令があり、治せる者がいるだろうと飛び出してきた。こいつは物見遊山だ」


「なんだー、シン君。連れ戻してもらえると思ってたのか? 構って欲しいなんて、殊勝なところもあるじゃないか」


え!? 追捕しにきたんじゃないの?!

かまってちゃんじゃないし!


「そ、うなのか……」


安堵した体を取るが恥ずかしい!

ニヤニヤ笑ってくるワンハェ氏がうざったい!


「小皇区を拠点に各地で活動する商人もいる。雰囲気が合わず、出ていくものもいる。いちいち連れ戻すなんて金の掛かること、国がするわけないだろ」


あーそうですよね!

自信過剰ってわけじゃなかったんですけどね! 直前まで捕まってたしさぁ!


「連れ戻されないと聞いて、安心した」


「……戻る気はないのか?」


「そうだな、納めた分を取り返せないのは癪だが……」


「牢屋に入れられてたって聞いてるんだけど、シン君何したの?」


わ、わー。

わざとらしく探るような目をしている事から冗談の類いなのだろう、わっくわくのワンハェ氏の頭にウーオン氏のチョップが下る。


「答える必要はない。暇ならハェ、シンの看護をしてやれ」


「おう、任せておけ。ついでに出奔理由を根掘り葉掘り聞き出してあることないことあんなことやそんなことまで謂われのない噂を尾ヒレ背ビレ胸ビレつけて誇張誇大に拡大解釈してから流布してやるわ」


無言の手刀が炸裂した。


「それもう創作だからな」


「浪漫と言うんだよ。なあ、シン君」


「迷惑なんでやめてください」


「君が伝説になるんだ」


人で試すな。自分を犠牲にしろ。

白い目を向けたらケタケタと笑われた。この人のギャグセンスはおかしい。ブラックジョークが過ぎると周りから嫌われるぞ。


「じゃあ俺は現場に行ってくる。任せたからな」


「おう、頑張ってこいよ」


「お願いします」


ため息をついた大人なウーオン氏が救護場所へと向かう。先導に一人の忍者部隊を召還しつけておいた。万が一があっても良くない、ついでに護衛もして貰おう。

さて、私は彼の相棒と残されたわけだが。


「そんじゃシン君、二人きりになれるところに行こうか? いやー、一度君とはじっくり話してみたいと思ってたんだ。オンについてきて正解かなぁ」


軽薄な笑みが消えない。

一見すると親しみの籠もったそれは、楽しそうな目の奥に真剣な光を宿している。


「楽しくおしゃべりしようねっ」


「……そーですね」


思わず棒読みになったのは仕方ないことだと思う。






ここでの自室に通してお茶をふるまう。

御菓子の類いは作らなくなって久しい。お茶請けになるものが干し柿ぐらいしかなかった。何もないよりましだろうか。

しかし中国茶器は面倒で仕方ない。簡易的に急須を使っているので味は数段落ちているが、それなりに美味しいから許してほしい。淹れられないわけじゃなくってね! そこまで気にする間柄でもないっていうか緊急事態だから目を瞑ってくれるかなって。

つーか、もてなす側といえ怪我人に準備させるとかどうなんだ。


「うん、それなりの味がする」


「舌が肥えていらっしゃる」


「そりゃねー。それを知っててこんなのを出すくらいだから、シンだって相当の心臓強者だよねぇ」


そういうわけじゃないけども……。

いちいち格式張る程の、利益を生むような関係性じゃないし。


「まあ、それはどうでも良いんだけどね。ところで、うちの兄貴を雇ってくれてありがとう」


「……は?」


「あれ、ご存知ない? それともとぼけてる?」


え、何、兄貴?

ワンハェ氏って一人っ子じゃないの?


「んーと、君んとこでハクって名乗ってる軟派なのがうちの兄ね。オヤジもさ、見切りをつけた駄目男なんだけど……小皇区で偶然会って、ビックリしたんだよね」


「身内が同……いや、格下の王子の下にいて、そりゃあ驚いたでしょうね」


「場合によっては家同士の争いに発展するしねぇ。うちは中央所属だし、北の家の使いっ走りなんて、勘当されてなきゃ衝突必至だったね」


ああ、そういう面もあったのね。

ハク! そういうリスク抱えてるなら最初っから言っといてくんない!?


「でもさ、別の面でも驚いた。うちじゃオヤジの金で女を買って遊び回ってた兄貴が、仕事楽しいって笑ってたんだからさ。色んな事を経験させてもらって、嫁もできて、オヤジに返すって金袋渡してきてさ。貧乏だからって、そりゃ少ないけど、オヤジ泣いてたよ。一平だって、あいつから返されるなんて思ってなかったってさ」


……ハク。

女の子に貢いでないで全額返済に回せよ……。

絶対に遊ぶ金の方が多いだろ! 受けた恩を換金しろなんて言わない、感動してるオヤジさんが可哀相だから! バレたらまた親子の溝が広がるぞ!!


「だからさ、兄貴のこと頼みます。オレが言えた義理じゃないんだけどさ」


照れたように笑うその顔に曖昧にしか頷けない。

あんた騙されてるよ……。


「それはそうと、なんで捕まったんだ? あのパーティー? から抜け出してただろ」


「ああ、そこまでわかってるのか。西の方できな臭い動きがあるっていうから、見に行ったんだ」


「情勢くらい気を付けてただろ? 怪しいところに近付くなよ」


「で、帰りに西領蜂起の立役者じゃないかって勘違いされて捕まって牢屋送りだった」


「なにそれ、わけわからんね。閏の王子だから警戒されたって事?」


「さあ? 時期が悪かったんだろうな」


ディナトロの家出将軍に会ってたからだろうけど、そこまで伝える理由は何もない。

わからんで通せばなんとなかるさ!

実際にどんな思惑があるかなんて知らないしね。ぼくわるいおうじさまじゃないよ。

言うことを言ったのでお茶を飲む。うむ、我ながら手抜きの味がする。


「それはそうと、ユンミンツィエが陛下に輿入れするって」


「ごほっ!」


「うわきったね!」


今の絶対にタイミングを見計らっただろ!

ニヤニヤすんなし!


「そ、そうか、殿下とついに……」


「いや、陛下」


……ん?


「え? いや、殿下」


「へ・い・か。おっさんに身売りしたの」


は、はああぁぁぁあ!!?

いや確かに生身でいけば陛下の方が順当ではあるんだが! 目の前にガチの王子さまがいて手が届く範囲だってのに何故そっちに向かった?!

枯れ専? もしくはオヤジ専? いや、陛下には側室含め五人の妃がいるっていうから枯れてはないのか? いずれにせよ。


「十二歳で輿入れって陛下の女の趣味……」


「言うな、わかってる」


わかってくれるか。


「冗談はさておき、そのせいでシンが小皇区を出て行ったって噂話もあったな。流したのはオレだけど」


お前かよ。完全に作為じゃねーか。


「仲良さそうにしてただろ。あの冷徹美人のミンツィエが、他人に関心のないミンツィエが、シン相手には感情を動かされてるって話題になってたからな。オレ発信で」


完全にお前の一人芝居じゃねーか。

それ君だけが騒いでるんじゃない? 周囲との温度差がありすぎる気がしてならない。


「お前と良い雰囲気だったのにな……気持ちはわかるよ。惜しい相手だ」


あ、ああ、そういう事か。

こいつは私がミンツィエに気があると思っていたのか。

そりゃ美人で武人の才媛ったら喉から手が出るほど欲しいって人が多いでしょうし。ハクみたいにツンデレ嫁がほしければ中々の好条件だと思う。いやミンツィエはツンというより他人を信用してないだけか。


「嫁探しは振り出しだな。そこの所、お前はどうなんだ」


「これでも引く手あまたでね。婚約者候補が十数人」


そういえばこいつイケメンだった。

くっそう、顔面と親の地位があるやつは得をする!


「で、シンが思うに、陛下に請われたからって、ミンツィエ嬢は参内するかい?」


「……ないだろうな」


何かの企みがある。

普通に考えれば権力がなければ難しいことと推察できるが、自身も武門をほぼ自由に扱えて父親が国師で婚約者になれそうな位置に殿下がいて、それでも足りない事となると対象が絞られるだけに難しい。

展開予測は可能だけど、規模が大きくなるだけに対応が煩雑になるっていうか。強制的に後手に回らざるをえないっていうか。

それが戦略だというのなら、自分が女あることを余程上手く扱っていると言って良い。ミンツィエならおそらく、王妃も側妃も上手いこと丸め込むだろう。国益と思わせつつ、彼女達の権利を侵害することなく、心情を害することなく、皇帝に信頼されつつ……え、あいつ国家権力相手に大立ち回り頑張りすぎじゃない? 新人さん頭切れすぎて逆におかしな事になってるんですけど。


「彼女の考えが気になるけれど、単純に自分の子供に権力を持たせようって腹じゃないだろうね。そのくらいなら自分でするだろうし。かと思えば、脇が甘い。ミンツィエにシンがつかなくて良かったって、そう思えるね」


「ん? そこまで隙が少ないわけじゃないだろ」


「シン君は甘いけどねぇ……兄貴がね」


ワンハェ氏、意外とよく見ている。

頭軽そうに見えて切れ者とか、ギャップにやられる女子がいるんだろうな。私的には遠巻きに眺めていたい。腹黒に巻き込まれたらすっごい面倒臭い。


「まあ、単純に考えれば武力だろうな。だが、禁軍は陛下のものだし、側妃が自由に使える兵力なんて……国師の権力も合わせて戦場にでも出るつもりなのか?」


「……妃兵隊」


「ん?」


「妃直属の兵隊だよ。普段は出身家の私兵が警護もするし後宮警邏は女官の仕事だけど、妃のいずれかが戦場に赴く際に指揮できる特別隊がある。宦官が主体らしいから、そこまで強くはないんだけど……」


「……賭けたか」


「私兵の方がよっぽど役に立つ……いや、戦場が選べるか。家の名前ででるときは懇意にしているなどの理由が必要だけど、妃であれば国の事情でどこにでも行ける」


えー、そこまですんの?

ミンツィエの強さならコネで入隊した上で実力で上官席もぎ取れそうなのに。

つまり、今からじゃ時間が足りないと。反則技を使ってまで国が保持する兵を指揮できる立場になりたかった理由って一体。


「何をするつもりなんだろうね」


「有事の備えってだけなら良いんだけど、そうもいかんやろなぁ……」


私の呟きに、ワンハェ氏が難しい顔で考え出した。

すぐにはっとしていつもの笑みを貼り付ける。


「それよりも! シン君は寝てないと!」


「今更?」


「オンが戻ってきたら怒られちゃうからさぁ、ほら、ベッドまで運んであげるし」


あっという間もなく抱き上げられて、さっさと寝床に押し込まれた。こういう手管で連れ込んでいるのか、別に勉強したくはなかった。手慣れてやがる。


「まずはおやすみ、シン君」


いや寝なくて良いんだけど。

しかしまぶたを無理矢理閉じられてぽんぽんとリズム良く撫でられると、不思議と落ち着いてきて数年ぶりの眠気に襲われた。うっそだーん! 睡眠欲なんてないのに!


「君は少し休んだ方が良い。良い夢を」


何かが額に触れた気がした。


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