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異世界出張でアフターケアとかなんですか?  作者: 概念ならまだしも実在するわけねーじゃん
6.ロリショタ

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さて、面倒臭くて回りくどいことはここまでだ。

これからは好きなようにしたいと思う。とはいっても、一人でできるようなことではないので、継続して他人をこき使おうとは思っているけれど。


さあ、ここで一つ問題。

といっても解答はすこぶる簡単なんだけど。私はこれに気付くのがすごく遅かった。ここら辺の能力差に落ち込む訳なんだが、それはさておき、私達の立場での一番のメリットはなんだ、という話だ。

色んな世界に出張に行っては、神さま連中の願いを聞き届ける。報酬はもちろんデカい。だけどそれ以上に特異なのは、私達自身がチートになることだ。

長いこと異世界で過ごしてやっと身に染みた。経験とはかけがえのない財産だ。身についているかは疑わしいけど武術も習ったし、この国の文字も習ったし、理解はできなかったけど妖術道具の設計も見た。

前のところから持ってきた知識は少ないけど、少なくともイズイナート公爵とやりあった経験は活きている。あと壁。こうやって少しずつでも積み上げていく、それらを次の世界で利用する。言語やら睡眠食欲痛覚の無効など単なるオプションに過ぎない。成長式チートというのか、それが一番の強みだろうよ。


だったらもう戦闘経験積むしかないじゃん。

今回は現実世界へのデメリットが設定されていないというのだから、もう裏稼業なり非人道的な事だったり戦争の立役者になるしかないよねっていう。いや本丸は小皇区の廃止だけど、ついでにそれくらいしても失うものもない。どうせゲーム世界なんだし、多少シナリオ崩壊させたって大丈夫だ。


しかしまあなんだ、ここまで来るのも大変だったよなぁ。

饅頭屋に生まれて、北伯に拾われて、色々勉強して、北縲へ行って、店ゲットして玄馬行ってスーちゃん宥めて栂行って、ディナトロ行ってベルレイツ拾って中央区行ってスーちゃんのアイドル活動見れなくて全国行脚して。そんで小皇区で閏の王子ですよ。多分、人によっては波瀾万丈というのだろうけど、実際、もっとイベント用意しておけよと思わんでもない。いやね、ゲーム世界の舞台はまだ到来してないとは言え、ここまでのメインイベントは身内のゴタゴタだぞ。セルフプロデュースしかしてないんですけど。プロデューサー私でプレイヤー私だ。自業自得とも地産地消とも言えるが、得られたものは大量のホモ達である。このホモ量産レーンどうしよう。


そんなことを悩みつつ現在。

二馬力発揮したアルパカにつられ、目指す先は陽気な酒飲みがいたあの町。名前は知らん。フォンの母君が静養しているらしい景色が綺麗な気さくなのんべぇの町だ。

他の馬車が北領を目指す中、あえて道を逸れたのは単に囮として動くためだ。本当は立ち往生しているはずだったんだけど、予定外にアルパカが屈強だったので目的地を変更した。行く先が東領であれば、他方から見れば子供同士で交流があるから向かったと思うだろう。

ソンフォンを巻き込んでしまうのは申し訳ないと思うが、遅いか早いかの問題でもあるので、むしろ積極的に自陣に引き込もうと思う。友達のよしみで味方してくれないかなぁ、なんて。巻き込んだ方を恨みそうだから敵対関係かな、初戦の相手が才能あるイケメンとかつらたん。ぶっ潰してくれる。心の中では来いやゴラァと思ってるけど表側は至って冷静です。冷静に見えてると良いな。


「カシラ、後ろからきてやすぜ」


「ん。思ったより動きが早いな」


既に日も昇りきり私達の足は中央区の端の方まで来ている。単独行だったら既に東領入りしているんだろうけど、今回は森山を突っ切るわけでもないのでノンビリした行程だ。

明け方に小皇区を出立したら早馬でこれくらいだろうか。手回しの良さが伺える。手続きやらなんやらをすっ飛ばし、口頭の命令で出張ってきたんだろう。


「んで誰が来ている」


「……あっ」


ん?

報告してくれたロンが瞬時に青い顔をした。

え、なにそんな、まずいやつが来てるんですか。ロンが青ざめるようなやつって誰だよ、北領の二兄でもこうはならんぞ。


「か、カシラ! ユウロウ師匠です!!」


「……あっ」


わ、忘れてたあぁぁぁぁああ!!

そういえばあのおじいさん小皇区に置いてきたまんまだったよ! スーちゃんに同行して一緒にこっちに来てたんだった! 夜逃げにいっぱいいっぱいで完全に頭から抜け落ちてたわ!


「に、逃げっ」


「カシラァ! すいやせんっ!」


「ああぁっ!? ちょ、おまっ!」


逃げた! ロンが逃げた!

っていうか周辺にいたはずの全員が隠れた! こんな孤立無援!!


「シン! 貴様ああぁぁあ!!」


「いやああぁぁーーーー!?」


もう既に並走してるんですけど!?

窓の外に憤怒の形相のユウロウ師がいるんですけど!!

怖い!






自走してきたハッスルじいさんに怒られて街道脇で正座している。

それを街道を行き交う人達がチラチラ見てくるが、声をかけてくる人はいない。誰か助けて。

くっそ、なんで普通の人間が砂埃起こる速度で走れるんだよ。思わず素で涙が出ただろ。


「まったくお前ときたら、いつの間にか姿を消しておるし、わしに同行を願ったと思ったら、いつの間にか帰郷の途にある。振り回されるこちらの身にもなってみろ」


このような調子で言葉責めだ。先刻まではプロレスごっこをしていたので節々がおかしな方向に曲がっているのではないかと気が気でない。

っつーか反撃なんてできなかったし一方的な攻撃はむしろ拷問に近いものがあったと思う。


「聞いているのか、シン」


「謹んで拝聴しております」


「お前はいつもそうだ、口だけは一人前に動く」


他にどうしろと。

口以外に一人前になれる部分がないんですけど。


「ろくに食わんからからだもできん。いまでは、スーちゃんよりも貧相ではないか。そんなていたらくで守れるものか」


「……難しいでしょうね。ですので、ユウロウ師にはスーについていていただければと」


「……チェンより、貴様の所を破門をされたと聞いた」


え、破門?

ああ、解雇だから同じようなもんか。表向きは武門なのだから、出て行くとなれば卒業か退学かってことか。


「あやつには将来的にわしの後を継がせても良いくらいの才覚があった。それをかすめ取っていきながら、今更何を考えている」


「チェンがいてはできないことです」


「スーちゃんとも離れなければならないことか。シンよ、前にスーちゃんが家を飛び出したとき、その原因が何であったか覚えているか」


そりゃまあ、忘れるようなことでもない。


「同じ事をしておるではないか。シンよ、わしは貴様の行き先に不安を覚える」


「師匠に気にしていただかなくとも……」


「そうではない、貴様が何をしでかすか気が気ではないのだ。最年少で独立した弟子を気にかけるなという方が無理だろう」


ああ、そういえば看板を分けてもらった立場なのか。

別の名前ではあるが流派と言われては否定できない。親子みたいなもんなのだろう。血脈は受け継がれているみたいな。忌々しい。


「既に引退した身ではあるが、貴様の下にいる高弟共に負けるわけでもない。しばらく同行させてもらう」


「えっ。え、いや、それならスーの……」


「そちらはヤントウの所へ行ったのだろ。ならば問題ない。北領にはヤンリーもいる」


そういえば負けてましたね。そうじゃないわ、なんでこのおじいちゃんついてくるの!?

そんなオプションいらない!


「隠居を労うがいい。して、どこに行く」


こちらが良いとも悪いとも言う間もなく、私を担ぎ上げて馬車にインするマッスルおじいちゃん。どうやったらこんな屈強になれるのか。

つーかどうやって排除するんだこれ。ある意味で頼もしいとは思うんだけど、今の状況だとちょっと困る。

仕方ない。対面に座して、視線を落としたままご報告だ。


「東領に向かいます。俺はそこの次期領主と面識がありますので、ちょうど良いと思います」


「シンよ」


今度はなんだよ。


「お前のことは、どれだけの者が知っている」


はい?

このじいさんとは肉体言語でばかりやりあっていたからか、こういったやり取りで裏まで読み取るのは難しい。

私の事って何を示しているのか。


「どれほど有名か、ということであれば、さほど名前は売れていないかと」


「ああ、いや、そうではない。貴様の性別だ」


なんで今更そんな話題が出てくるんだよ。

会話の行き着く先が不透明なんでけど!


「若様と呼ばれたり、王子の位をいただいています」


「……そうか。自身から話すことはないか」


それ自分は知っているって主張なのかな?

だからなんだっていう。もうほぼ身内関連にはバレてるからどうでもいいっつーか、女と知ってる連中が関係なく接してくるから特段意識するような事柄でもないっつーか。


「不思議でならんのだ。貴様には特段これといった才覚があるわけでも、人の上に立つ器があるわけでもない。だが、考えるほどに貴様以上に武門を広げられる人物もまた思い付かん」


相変わらず対人評価が低いなぁ。

本当のことなのでどうしようもないけども。


「ヤントウを頼っているかと思えばそうでもない。貴様は一体何者だ」


ああ、ただの女子供ができることじゃないって言いたいのかな?

そうなっちまったんだから仕方なかろうよ。私だってこれほどの規模になるとは思わなかったさ。適当に人任せにしたらこれだよ!


「単なる饅頭屋の子です。何かあるとしたら、人に恵まれる運を持ち合わせていたということでしょう」


「……そうか」


それきりだんまりを決め込む師匠。

本当のことを言ったとて、今とほぼ変わりない肩書きというか、歳を取ってるだけでモブだったし、むしろ今の方が立場は上なんじゃないかと思う。

そう考えれば、知識チートがあったとはいえ、こんな風に人を従えているのは運が良かったとしかいいようがないだろう。


馬車は少し足を遅くして、それでも目的地に向かって進んで行った。

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