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異世界出張でアフターケアとかなんですか?  作者: 概念ならまだしも実在するわけねーじゃん
6.ロリショタ

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66

そういえば前に、ハクとセイとロンに、私が女だったらどう思うって聞いたことがあったっけ。

その時の返答はこうだ。


「若様は……無理です」


「それで仕事の効率が上がるなら性転換してきてください」


「カシラはカシラですぜ!」


ハクはぜってー許さないと思った。


それでまあ、なんでそんなことを思い出したかといえばだ。

客人を招待した夕餉の席で、爺さんが女装を希望してきたからだ。

曰く、前に送った衣装を身につけてほしいと。スーちゃんに言っていた。スーちゃんに。なんでかスーちゃんに。いやわかるけど!


「ほら……あの、桃色の衣装があったじゃろう。ユウロウもそれが良いと言っていた」


「舞台で着たやつですか?」


「おお、そう、それだ」


「ううん……シンはどう思う?」


「良いんじゃないか? 見てみたい」


「じゃあ着る」


しぶる素振りの男の娘が瞬間掌返しした。

交渉にきていた爺さんが良くやったというようなウインクを飛ばしてくる。ごますり完了。

見たいというのも本当だ。結局、舞台を見に行けたの一回だけだったし。その時はピンクじゃなくて薄青だったか。あとは衣装替えで制服っぽいのも着ていた。もう昇天するくらい可愛かった。フィーバーした周囲のオタ芸が視界に入らなければそのまま福利厚生のお世話になっていたかもしれない。あれは冷静になれたわ。


「じゃあ、着替えてくるね」


えへへ、と、はにかみ笑いを浮かべて衣装部屋へ移動するスーちゃん。

残されるのは爺さん達とワンハェ氏とウーオン氏。それから呼んでもないのにやって来た四子と五子。あとは北伯に挨拶をしたいらしい皇都の文武両官から二十人ほど。割り当てられた屋敷の一番広い部屋を大急ぎで整えて、なんとか全員押し込んだ。料理は材料が無駄に余っていてよかったわ、かさ増しさせてもいるし、足りなくなるようなことにもならないだろう。


「ところでシンよ、明後日には皇都で継承の儀式があるのだが、見に行くか?」


思ったんだけど、生前退位みたいなもんよね?

家督を譲って隠居ができるんだなぁって少し不思議ではある。まあ元がゆるふわゲームやろうし、細かい設定をつっこんでも無駄かな。


「そうですね、歴史の転換点ですし、せっかく近くにいるのですから立ち会わせていただければ」


「そうか、では参加できるように手配しよう」


「ヨウ伯、さすがにそれは厳しかろう。いくらなんでも宮中儀礼までは覚えていまい」


え、宮中儀礼?

ちょっと待て、遠目での見学でなく参加!?

何考えてるんだこの爺さん! 無理だよ!!


「シンならば問題なかろう」


「問題しかなかろうな」


「だが……行きたいのだろう?」


「……失礼があってはいけませんので、やはりご遠慮申し上げます」


「むう……わしの出番もあるのだが」


それを見に来いってか。

遠目なら良いけども! 近くにいなさいとかいわれそうだから嫌です。一般市民が行くような場所じゃねぇ!


「親父殿、でしたら我々が同行いたします」


「末っ子を可愛がる気持ちはわかりますが」


「むう……シンに見てもらいたいんだがのう」


おじいちゃん孫娘好きすぎでしょ。不審に思われるからやめて。


「ご好意嬉しく思いますが、やはり国を挙げての大事に未熟な私が挑ませていただくなど、恐れ多いので……」


「仕方ないか。ではお前達、明日出立だから、それぞれ支度しなさい」


北伯の指示に礼を返す二人。勝ち誇った顔をされたが、まあここは仕方ないよね。だって本当に礼儀作法を知らずに参加だなんて、爺さんの顔に泥を塗りたくるようなものだし。

世話になっている手前、見に行きたいという野次馬根性だけで国事を台なしにする気はない。

立ち上がり、それぞれの部屋へ引き上げる二人と、それに倣って宴から暇をする官吏達。これでようやくワンハェ氏とウーオン氏と会話ができそうだ。

席を変えた辺りでスーちゃんが戻ってきた。女の子にしか見えないんですけど。そのままユウロウ師に導かれて上座へ移動していたので、目が合ったときに頑張れと念じておいた。きっと受け取ってくれているに違いない。


「さて……お待たせいたしました」


「とんでもない。本日はお招きいただいて感謝するよ、ヤンシン殿。お陰で皇都のお役人様方と知り合いになれた」


「……こいつの軽口は気にするな、親父さんの部下がいたみたいで、傅かれていい気になってたぞ」


見てたから知ってる。

中央の権力ほどひどいもんはねぇなと思ってた。


「なに、オンだって客にごますりされてたじゃないか」


「それで態度を変える気はない」


「お二人は相変わらず仲がよろしいようで」


「妬けるかな?」


「羨ましく思いますよ。……それで、百一王子とはなんでしょうか」


早く話せとばかりに話題を振れば、ワンハェ氏が肩をすくめた。


「なんてことはない、皇家が目をつけてるってだけの話さ」


「……は?」


「もとより、ソンフォン殿もいるし、今年から南領伯令息も来るということだし、四方伯の子が集まるというので、誰になるかという話題はあったんだ」


いや聞きたいのはそこじゃねぇ。

目をつけられてるってなに!


「最有力はソンフォン殿だったな」


「殿下に気に入られてるんだって? 良かったじゃないか」


いやいや! だから!


「その……百一王子になることで弊害がありませんか」


「……どちらとも言えないだろう」


「当然ながら、良い面も悪い面もあるさ。それを上手く捌けるか試されてるということかな。ちなみに、北伯も百一王子をしたことがある。その関係で、未だ陛下と懇意にされているというわけだね」


あ、ああー……そういう?

共に学んだ仲だと。変わらぬ友情ってやつですね、はいはい。

うっわーどうしたもんかー……既に火中の栗のような……。


「その、最初から存在したんですか、閏の王子とやらは」


「いや、どこかの年で……皇位継承の諍いが起きたんだったか」


「穠遥帝だ。第二王子に継承させないと示すために最後に据えたんだ。偏に、侮辱の意味もあったのだろう」


「だが、皇族が就いた王子位だったもんで、順列として純粋に最後尾とはいえなくなったんだな」


はぁー。よく分からないが、なんしか特別っぽい感じなのか。

変な警戒をされていると思えば良いのかなんなのか。誰が決めたんだよこの順列。


「まあなに、ヤンシン殿なら関係なかろうよ」


「単に北伯の子だからと指名されただけかもしれん」


「まあ、ここ十回くらいは臣籍降下した皇族が名前だけ出していたし、有名無実みたいなものさ」


全然慰めにもならん情報ありがとよ。

なんだかなぁ……。


「納得いってないか」


「ええ、実際に北伯には実力不足と言われてきましたし……」


「ははぁ、そりゃあ北伯基準だな。良いかヤンシン殿、貴殿の考えた天女香味、ありゃあ中央政府にとっては苦々しい代物だったぞ」


は?

え、なんで?


「塩税だよ。藜では北領だけが海に面していないから、塩が手に入らない。そこで北伯が陛下に交渉して、北領における塩税の軽減を約束させていたんだ」


「そこに、ヤンシン殿のところから、塩じゃない塩が売り出された」


「塩の販売は課税対象となるが、商品は塩じゃない。かといって北領宛ての塩に税は増やせない。転売なら裁けるが、そうではないしな」


「商品としての値段は塩より安いが、塩よりも美味い。そうなると逆に塩自体が売れなくなる。北領だけなら別に良いんだが、それが全国に広まったものだから、結果的に税収が減ったんだ」


「まあ、微妙にって所らしいから、そこまで危険視はされてないだろうけどね。巴味に香味にその他諸々、天女調味料の良さは知っていても、歓迎しがたいんだろうよ」


え、ええー……初耳なんだけど……。

誰もそんなこと一言も言ってなかったじゃん。塩税とかセイが知らないはずないんだけど。これあれか、私が隙を突いた的な解釈されてるのか? 偶然です!

しかしそれで売れてたのか。納得した。そこまで売り上げが伸びてる理由が分からなかったんだよね、実は。売れてるからいっかー! みたいな。


「まさか、考えた本人が知らないとは」


「偶然か……上手くいってよかったな」


本当に。

知らずに首の皮一枚でぶら下がっていたのかと思うと今更ながらに背筋がゾクゾクする。


「有意義な話でした」


「いやなに、ヤンシン殿と交流をもてるのならば、このくらい」


「気を付けろよ、ヤンシン殿を通して、殿下やソンフォン殿に取り入ろうとしているんだ」


「わかります。それくらい強かでないと、小皇区にはいられないでしょうし」


訳知り顔で頷くと、ワンハェ氏は大いに笑った。

隣でウーオン氏は苦笑いをしている。


「そういう事だ! 仲良くしよう」


「ええ」


差し出された手を握り返す。その握手に満足したワンハェ氏がにっこりと笑った。

少なくとも表立って対立してくることもあるまい。

さて、明日から少しずつ動こうかねぇ。


いつもお読みいただきありがとうございます。


台詞が長すぎて誰が喋ってるか分からん

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