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さて、どうしようか。
一日ずっと考えて、出てきたアイデアは三つくらいしかなかった。無念である。
そもそもね! そういう事が簡単にできるなら実績不足なんて言われなくても済むんですよ!
そんな怒りと共に一つ目の思いつきは即実行に移すことにする。
つまり、神話創作みたいなものだ。
都合、栂に留学したことになっている……というか逗留していたし、向こうに何人か残して情報を仕入れられる伝手は作ってあるので、そちらで収集した宗教話としてしまえば問題ない。流用するのは仏陀の逸話だ。まるパクげふんげふんリスペクトした内容をでっち上げて流布し、それに伴って彼の仏像もとい石像を作る。偉い人だから像を作ったとすればいい。
罰当たりですか? それこそ今更だ。
少年の名前は楊錧司とでもしておこう。適当である。容姿は薄い体付きの青年に至らない幼さと精悍さを秘めた、女人の如き優しい表情のスーちゃんのような少年としておく。これで石像を作る時は自然とスーちゃんに似たものができあがるはずだ。
スーちゃん像を作りたかっただけじゃないです。本当です。
まあ、製作陣営の人選はスーちゃんのファンを優先しますけどね!
ということで、これしたいってのをハクに丸投げして、次だ。
やはり妖術道具を作った際の功績は大きい。
だが、私には魔法的な素養が一切無い……いや、正直にいうと工業的な組み立てもさっぱり分からない。説明書があればカラーボックスの組み立て程度はできるが、逆に言えばそのくらいしかできない。要するにちょっとだけ器用っぽい人ってことだ。もの作りをするに当たっては役立たずも良いところである。単純作業を割り振ってもらいたい。いや、そうじゃないわ。
ともかく、誰でも使える便利な道具はポイントを稼ぎやすいというわけだ。
作るのは別の人に任せるが、アイディア出しはできる。今までもしてきたしね。なので、今度ばかりは共同開発として私の名前も連名してもらう。ズルとかいわない。
スーちゃんは小皇区に行く前に、少しでも飛行船を作っておきたいとかで頼れないので、一般の研究員を雇うことになる。少なくとも、忍者部隊と比較して妖術分野で抜きん出ているメンバーを揃えたい。特化型だね、六子もスーちゃんについているから使えないし、人集めが一番難航しそうだ。
そして、地方開発。
ユウロウ一派がかなり張り切ってくれてはいるが、魔獣との戦闘の果てが見えない。なので、一般市民からも徴兵、もとい警備隊として登用し鍛えていきたい。
なに、うちの社員になったら社訓と私の名前を毎日読ませるだけだ。これで知名度も少しは向上するはずである。千里の道も一歩から。時間が無いのでちょっとプラスになればいいな程度の話だ、本命は先の二つである。
「あ、そうだ。リオ」
「はい、なんでしょうか」
お前もすっと出てくるようになったよね。
「ブンヤに枠を発注しておいて」
「何をなさるんですか?」
「ちょっとした啓蒙活動だよ。楊錧司の宣伝と、ユウロウ武門宣伝と」
「そこはヤンシンでいいのでは? 貴方自身の名前を出さずに功績にはなり得ないでしょうに」
いや、それはその……そうなんだけど。
「晒し者になるのはちょっと……」
「……難儀な性格ですね」
分かってるよ。
責任負いたくないんだよ。
もう無理だから開き直った方が良いんだろうけど。
できる限りの抵抗を試みたい。ほらあるじゃん、業界では有名なんだけど、その界隈を出たら全くの無名とかそういう。そんな人に私はなりたい。地方のいまいち人気の無いゆるキャラみたいなのになりたい。
「あ、ゆるキャラ作ろう」
「な、え? は? なんですか?」
「街おこしだな。御輿も良いかもしれない。御柱祭やる?」
「………。一覧に書き起こしてください。詳細を補記いただければ検討します」
考えてくれるだけ、私の思いつき受け入れようとしてくれているのか、面倒だからいなされているのか、微妙なラインだ。とりあえず書いとこ。
トマト祭りと牛追い祭りっと。
「娯楽のない世界に娯楽をかぁ。将棋っぽいのも囲碁もあるしなぁ、トランプ持ち込もうかなぁ。ボードゲームなら双六と花札もいけるか……絵柄を覚えてないな。あ、札ならカルタと百人一首……むむ、色々出てくる」
思い付く限りを羅列していく。
電子ゲームは無理だけど、アナログでも色々とものはある。アウトドアはあまり知らないけど、インドアだったら用意はできそうだ。大喜利とか文化は違うができなくはない、と思う。
むしろなんで今まで出してこなかったんだっけ? あれ、どっかで披露してたっけ? 覚えがない。多分忙しかったんだろう。暇が無いから遊ぼうという発想が出なかっただけかもしれない。
「段階的に発売? いや一気にいっても良いか……いや、遊び方を知らなきゃなにもできないな。リオ、札類の早期開発と遊戯の規則を武門全員に落とし込むぞ。それからダンボール」
目の前でポーカーフェイスしているリオに話し掛けたら無言でメモ用紙を指差してきた。
わかったよ。書くよ。
そうだ、自分が使わないから無視していたけど、便利な妖術道具は水洗トイレにしよう。ついでに風呂を新型にしたい。シャワーつけよう。ポンプ機能はどうしたらいいか分からないから頭のいい人にぶん投げよう。色々とできそうなことが俄然湧いてくる。今まで何してたんだ私は。鍛錬に時間を費やすとか馬鹿だったんじゃねぇの?
あと釣りをしてみたい。
競馬場計画を書き込んで、それをリオに渡す。めっちゃしかめっ面だ。そして、一つ頷いてリストを突き返してきた。
「半分以上が理解不能です。釣りは勝手に行ってください」
あ、はい。勝手に行きます。
しかし一晩中考えていたのが嘘のように色々と出てきたわ。自分が最初のアイディアマンではないんですけどね! 何もない人生だと思っていたけど、自覚しているよりも色々と身についていたみたいだ。あ、パズルも書き足そう。
「……シン様、それ、ほとんどが実益のないものばかりですよね。そんなものが本当に売りものになるんですか」
「うん? いや、北縲もそうだけど、藜全体の人口は増えているでしょ? それに食糧の供給だって充分に間に合ってる。物流全体が改善されて、地方でも魔物が減少して、人の領域が広がった」
つまるところ。
「人は増え続けるよ、確実に。小金持ちも現れるさ」
お金に余裕ができれば時間もできる。時間が生まれた時に、手を出すものとして娯楽があれば良い。アイドルでも良いんだけどね。どうもこの北領民は頭を使いたがるから、少しでも挑みたいと思わせる難題が好ましい。
初期投資については何をするにしてもついてくる。比較的少なめで済むんじゃないかと思う。いや紙か……また恨みを買いそうだ。
「コンバイン……」
「……はあ。実現可能な範囲で収めてください」
え、全部実現できるけど。空想の産物なんて一つも提示したことない。
いや、道具の進化的に一足飛びではあるか。まずはどうやっても手こぎ式なのか。人間の力量の範疇で収まる辺りから開発に着手だな。
「妖術道具の製作部門あるよね? ちょっと強化して、あれこれ作ってもらいたいんだけど」
「はあ……。セイ先輩の苦労が忍ばれます……」
どういうこった。
いや、自覚はしてる。やろうぜっつって他全部はお任せだもんね。言い散らかすだけの人が上司とかやるせないわ。私です。
「補佐で十人くらい使って良いよ」
「セイ先輩の部隊は二十二人でしたけど、それより少ないんですか?」
「え、そんなにいるの? 何してんのそいつら」
「……シン様の要望に応えるべく、日夜東奔西走していますよ。あの方々は貴方の補佐業務をしつつ、各地に走り回って情報収集もしていますから」
どんなだ。
え、情報集積って別部隊はなにしてんの? 今の話だと直属部隊って不眠不休じゃない? 真っ黒どころか。ちょっと勤務形態の見直しが必要かもしれない。
「人の使い方が悪いの? セイって」
「ハク先輩の尻拭いやロン殿の助力もしていらっしゃいますからね。あの方を見ていると、陰日向に支えるとはかくあるべきと思えます」
それ嫌味よね? 額面通りに受け取っておこう。
っつーか、セイはそんなことまでしてたのか。ロンは助けてやってほしいけど、ハクは放っておけば良いのに。いや、尻拭いということは、あいつもやりっぱなしなんだろう。
「ハクの所に後処理が得意なやつを何人かつけておいて。ハクの代わりになるだけの人数を割いていい」
「かなり取られますよ」
「じゃあ、ハク自身にやらせるしかないかな。仕事しないで女遊びばかりしやがって」
それが仕事の一部なら良いけどね、そうじゃないことも多いからね。
っつーか嫁さんいるだろ! 監視役につけておく? いやいや、これ幸いと仕事中にいちゃつきかねん。むう、仕事量を減らすか、専任させるしかないだろうか。色々器用にこなすやつだし、使い勝手は良いんだけど……依存するのは良くないね。私が見ていないだけで、ハクを支える人達が優秀なだけかもしれないし。
「セイに時間ができたら来るように伝えてほしい」
「あんた鬼ですか」
失敬な。人間です。
あれ? そうだよな?
「ともかく、北領へ貢献しないと小皇区に行く前にお役免除になっちゃうよ。急がないと」
「……はあ……使えそうな新人、各所から引っ張って来て良いですか」
「編成は任せる。ただ、人が不足して動けなく部署は別の人材を放り込むか、部署自体を潰すかよく考えるように。そういや西と南は店舗潰しただろ、余ったやつを引っこ抜けば良い」
「あそこらへんは根性なさ過ぎて再研修対象でしょう、ロン殿とテツがつきっきりです」
そこまでだったのか。無事に研修を切り抜けて立派なガチムチになってもらいたいものである。
人材の補填を真っ先にしないとなぁ。
こればっかりは運任せだ。スキルがあるからなんとかなるだろう。なるよね? 最近は恩恵を受けていない気がします。




