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異世界出張でアフターケアとかなんですか?  作者: 概念ならまだしも実在するわけねーじゃん
2.人造人間

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13

どうやら眠っていたようで、肩を揺すられて目が覚めた。辺りは明るくなっていて、予想通り明け方部隊が到着し、既に展開しているようだった。

気を遣われたのか邪魔だったのか、朝日が差してくる程度の時間帯までは放置されていたらしい。


「少尉殿、起きました」


隣のボルトのおっさんも肩をつつかれている。靴の先とか死体確認ですか、その人ちゃんと生きてるんでやめたってください。


「ん、んむぅ……」


おっさんが出すべきじゃない音を発して目を覚ます三十四才。ちょいちょい言葉にロリみがでるのは誰の趣味だよ。

まぶたを開け状況を察したか起き上がろうとして悲鳴を上げるボルトのおっさん。忙しいね、君は。


「そのままで良い、寝たままで構わん」


少尉と呼ばれた若旦那が手を出して押しとどめる。揃いの軍服に銀の胸当て、少尉さんだけ短いマントを身につけている。鎧面積が少ないってことは機動力重視、後衛か待機中ってことか。

短く刈り込まれた茶髪に、済んだ青い目、角張った顎のせいで顔面が大きく見える。太い眉は横一文字、誠実そうな青年だ。


「私は第二大隊所属、第三部隊のカルリツ少尉だ。合図が出たため我らだけ急ぎやってきた。貴殿らは見張り担当であろう。何があったか報告せよ」


大仰な言い方だけど軍隊ってこんな感じなの?

目でボルトのおっさんに合図しようとしたら面食らった顔をしていた。この口上は常識じゃないんだね……。


「私達は偵察部隊です。私はルノであちらはクラインボルト。昨晩、屋敷の見張りをしていたところ対象と思わしき女性に襲撃されました」


「なんと!」


「そのため、合図を送った次第です。一名が死亡しました」


「ああ、その報告は受けている。体が半分になっていたようだ。痛ましい……」


ああ、やっぱり折半だったのね。

後半分がどこに行ったとか気が付きたくないです。


「襲撃者の姿は分かるか」


「暗かったので正確にはなんとも。ただ、髪が長く黒の服を身に付けていました。それから、目が光ります」


「なんとおぞましい……!」


正直アレは怖かった。

できることなら二度と見たくない。


「お、おい、ルノ」


「はい?」


「なんで、女って分かったんだ?」


は?

ボルトのおっさんがなんか言ってる。

あれ? 女の人だったよね?


「髪の長い女、そう言われれば頭の部分はそう見えなくも無いが、胴体は円筒形で腕は無かったぞ」


うん? うん……そうだっけ?

思い出せません!


「よくそこまで見えましたね」


「夜目は利くんだ、傭兵だからな」


そりゃ便利だな。

必要な進化を遂げた人間は鋭い。おそらく、ボルトのおっさんの言い分が正しいだろう。こっちは先にディナさんがいるという刷り込みがあった。見えなくても、女性と思ってしまった可能性が高い。


「なにはともあれ、頭髪のような長いものがついているということか」


「ああ、さすがに何であったかは分からないけどな」


いやいや、あれだけの邂逅で、しかも腕に大怪我しながらそこまでちゃんと見れてるなんすごいわ。

私には真似できない。


「今は屋敷内にいるのだな?」


「恐らくは」


「よろしい。では確認のため、何名か突入させよう」


……うん?


「ちょっと待ってください、危険です!」


「しかし、留まっているか分からないのだろう? 調査が必要だ」


「死者が出るような相手です! 妙に刺激しない方が良い、本隊の到着を待つべきです」


「居なければ? ここ待機し無駄な時間を過ごすことになる。なに、確認だけだ」


ニッコリと笑み、副官だろう、近くに居た揃いの服装のにいちゃんに指示を出すカルリツさん。

忠告はしたし、その上での判断であれば口出しは無用。軍隊式であれば、これ以上は上官命令に背くことになる。

彼の言い分は分かるし、判断としては間違っていないと思う。だけど納得がいかない。


「少尉、相手はとても素早く、一瞬で接近してきます。その間に一名は亡くなり、他の者も負傷しました」


「分かっている。だから慎重に事を運ぶさ」


「えと、せめて明かりを、明るいものを持って行ってください! 苦手なはずです」


「うむ、そうか」


頷いたが、照明を持って行くような指示は出さないカルリツさん。

副官もこちらの話はまるっと無視。その後、簡単に挨拶をしてカルリツさんはテントから出て行った。私達はしばらく待機だってさ。


「え、ええー……」


思わず口から飛び出す愚痴。

ボルトのおっさんを見れば、苦笑いをしていた。


「こんなもんさ、坊主。若い奴らは老いぼれの話なんざ聞きゃしねぇ」


「いや、僕はまだ若いんですけどね……」


「見下してるって事だ。自信があんだよ、失敗なんざしねぇってな」


あー、若者特有の根拠無い自信ね、はいはい。

その勢いで乗り切れればたいしたもんだが、敵があれだ、上手く行くはずないだろう。上が虚栄心に満ちていると部下が無駄に死ぬよね。ヤツの見栄にためにお亡くなりになる兵士の皆様に合掌です。

というか、私らがアイツの指示を聞く必要あるのか? ここが軍隊で正式な入隊を果たしているならまだしも、軍規も知らないし恐らく所属が違う気がする。部課とかじゃなくて、雇い主が。

あっちは婦人の私兵じゃない気がする。知らんけど。


「おっさん」


「なんだ?」


「早めに撤退しませんか? 後任が来ていますし、負傷兵が前線にいても足を引っ張るだけでしょう。物資だって無限じゃないんですから」


「ああ、そうだよな。街だって遠いわけじゃない。あのカルリツとかいうのが怪我を慮っているならまだしも、動けるヤツは後退させた方が良い」


「おっさんも行きますよ」


「怪我人を動かすのかよ、容赦ねぇな坊主は」


「傭兵を引退するにしろ、死ぬことはないでしょうに。囮になるくらいなら、第二の人生を謳歌していただきたいですね」


「それこそ若者の傲慢だ」


声を上げて笑うボルトのおっさん。

こいつ、ここで死ぬ気なんだけど。

確かにもう片腕は使い物にならないだろう。縫合したとて動くかは定かじゃない。壊死するのが関の山だろうから、切り落とすのが慈悲だと思う。

そうなれば傭兵家業を続けることができず、なおかつ、ある程度いい年こいたおっさんが今から別の職種に就こうとしても選択肢が多くあるわけじゃない。

ならばどうするか。花道を作ろうとしたって不思議じゃない。


「しばし待機と言われちゃいましたから、待ちましょう」


「度胸だけは認めるが、帰った方が良いぞルノ。お前の考えは正しい。俺の勘もここから逃げろって言ってるよ。だが……分かるだろ」


分からないって言ったらどうなるんだろう。訥々と説明されるのだろうか、おっさんが死にたい理由を。

何も言えなくて黙り込む。

それからしばらくして、外から悲鳴が聞こえてきた。金属がこすれ合ったか、やかましい音を立てるものがテント横を通り過ぎ、街の方面へと消えていく。

誰もここへはやって来ない。あー失敗したんだなって思ったけど、フォローする気にもなれなければ逃げる気にもなれなかった。


勇者探してマスリオさんに託さなきゃいけないんだけどねぇ。

目を離したらボルトのおっさんが死に急ぐでしょ。そう思ったらなにもできなかった。

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