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異世界出張でアフターケアとかなんですか?  作者: 概念ならまだしも実在するわけねーじゃん
6.ロリショタ

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仮拠点に戻ってきて、更生の進捗状況を確認したら店長は本店勤務でも良さそうな位の実力者になっていた。元より筋肉トレーニングによる連日の徹夜で根性がたたき直されていたこともある。彼は立派な社畜に生まれ変わっていた。いや、それは語弊がある、仕事に生きる真人間になっていた。


中央区の視察はこれにて終了である。一番の懸念事項についても事前準備をすることができたし万々歳だ。ついでに新商品の売れ行きを確認してみたら、たったの一週間で南領の半分近くの地域まで浸食できていた。リピート率は百パーセント、上々である。

このままの勢いで売り上げを伸ばしていって貰いたい。

書類上でも異常事態だと分かる程であるが、方向修正する気はない。知る人が見れば危険性を指摘した上で発売中止を求めてくるだろうが、南で売ってる分にはまず誰も気付かないだろう。

懸念すべきはミンツィエ殿とソンフォン氏か。この二人に絞って情報を集めたところ、私の持つ忍部隊と同規模の情報収集集団を保持していた。特にユン師のところから人材を引っこ抜いているミンツィエに関しては、うちの忍者部隊と同等の力量を持っていると見ても良い。うちの子のがすごいと思うけど!

相手の戦力をすっぱ抜いてはいるが、向こうも同じ事をしているだろう。かつ、多少の偽装が混じっていると考えた方が良い。ある程度の情報を意図的に流すことによって、牽制を行うのは情報戦における常套手段だ。過小評価は良くないが、過大評価もまたよろしくない。匙加減は難しいが、振れ幅の想定とそれぞれのレベル帯に応じた対策を考えておけば暫定措置としては間に合うだろう。しばらくは状況見守りで良いと思う。


つーかね、新人さん向けには妨害が必要だから備えるにしくはないんですよ。ソンフォンだよ! お前なんなの?! なんで同規模の部隊を持ってるの!?

確かに攻略対象の一人なんだろう。でもだからってこんなことある? 明らかに他の対象者よりも目立ってるというか、戦力の素地がでかい。そりゃあ陛下と比べたらなんてこたないですけどね、他の連中からすれば強大すぎるライバルだろう。制作者が贔屓してるのか? そうなんだな?

というか他の攻略対象って誰なんだろう。元ネタを知らないからなんとも言えないが、それっぽいのは何人かいるっちゃいる。

そういえば、新人さん達は乙女ゲームするんだろうか。シナリオを知っているならば、改変くらいはしそうではあるが。ヒロインって誰なんだろうね、一回は接触しておきたいが、こればっかりは情報がない。同い年でどこかの姫さんの側仕えって事だけはわかってるけど、そんなの何百人と存在する。絞りきれるわけがない!


まあ、本番は小皇区に入ってからだ。できることは限られる。

その仕込みも上々だし、北領に戻ろうと思う。あとは年齢制限解除までのんびりと過ごせばいい。スーちゃんも放っておきっぱなしだし、しばらくは一緒に過ごすことになるだろう。


さて、帰還ルートであるが、街道を使うかは悩みどころだ。なぜかといえば、新人さん達とかちあう恐れがあるからである。

現在は全国ツアーでの遠征中、それなりに戦える美人さん達揃いのようだが、女性ばかりの旅路で注意すべきは魔物だけではない。男も敵だ。賊は元より、町や村の警備をしている兵士も危ない。荒くれ者だっている。芸者イコール春売りと思っていてもおかしくない連中だ、麗月楽団など旅する売春婦くらいの認識しかなかったとしても不思議じゃない。

そんなやつらがはびこる場所をわざわざ通るだろうか。ユン武門の護衛があったとしても、リスク回避をするなら大通りを通る。腐っても街道、人の流れのある町はそれなりに治安は良い。中央からの派兵があるからね。


ということで、会わないためには細道を行くのが良いということになる。無論私の身辺が危険にさらされるわけだが、今まで子供一人でほっつき歩いていても事件が起こったことがない。たぶんない。事件であると気付けなかった事があるかもしれないけど、最終的に好き勝手できてるから、きっと平凡な人生なんだと思う。

ぶっちゃけ新人さんとすれ違うからなんだって話なんだが、なんていうかね、ミンツィエ殿に見付かったらその場で殺されそうな気がするんだよね。

こっちも鍛えてはいるが、実力がそこそこないので抵抗が間に合わない可能性が高い。忍者部隊の介入も間に合うか微妙だろう。

単なる勘だけど、こういうときの感覚こそ侮ってはいけない。


「で、ロン」


「呼びやしたかカシラァ!」


街を出て街道沿いに進み、人気がなくなったところでロンを呼ぶ。

すぐさま反応して現れるが、コイツちゃんと寝てるんだろうか。


「ここからは裏道を行きたい。道順の選定と先導を任す」


「へぇ! こっちです!」


「注意事項! ユンミンツィエの配下と麗月楽団に絶対に会わないように!」


「わかりやした!」


猪突猛進だが、こちらの意向は最大限に考慮してくれるから、これで大丈夫だろう。先走る前に伝えられて良かった。

走り出すロンを追い掛けるようにパカたんがスピードを上げる。視線の先は森だ。私は身を縮ませた。ナチュラルジェットコースターの恐怖は身に沁みている。






そしてそれは唐突に現れた。


「お逃げください!」


「ミン!?」


前方上方から少女が振ってきた、と思ったら左側面から寸鉄が数個飛んでくる。勘付いたアルパカが体を捻って私ごと回避したが、それを織り込んでいたかのごとく、四肢を束縛するように縄が地面を這っていた。

視界の隅に事象を収めたのは一瞬、こちらが判断する前にパカが跳躍する。絶対にその体勢からは無理だったろ! と思うのだが、こいつは無理を押し通す性格だ。性格だけで物理を無視してくる辺りが私の騎乗動物である。


「チッ、次手だ!」


「シン様……!」


「カシラァ、どうしやすか!」


いや、どうするもなにも!


「敵は何だ! 撃退を──」


「ハク兄の配下ですぜ!」


「セイさんもです!」


「どういうこと!?」


ミンツィエ殿かと思ったんですけど?!

まさかの身内かよ!

その驚愕に動きが止まったところを狙って、首に縄が回される。そのまま後方に引っ張られ、落パカした!


「カシラァ!」


「ぐっ、そ」


そのまま引きずられそうになるところ、足を地に押し付けて力の掛かる方向へと飛び上がる。それで頭突きができるとかそういうわけではない。不意の行動に少しだけ縄が緩んだので、首との隙間に手を挟み込んだ。これで喉を潰される可能性が少しだけ低くなった。

だが、相手はそんなことなど気にせずに引きずり倒し、私は頭を樹にしたたかぶつけた。これは……確実に殺りに来ている……!

森林戦、しかも奇襲を受けている。不利すぎる!


「なんだってんだ! 兄貴達は何を考えてるんですかァ!」


「我等の主に背く、その理由はなんです!」


「……なぜ」


こっちが目を回している間に、ロン達が応戦しながら問いかける。

援護にはこれないようだ。ミンも苦心しながらも、自分へと向けられる凶器を紙一重で躱している。他の面々は姿も見えないが、周囲で金属同士がぶつかり合う甲高い音が響いていることから、攻防が続いていると判断できる。

立ち会いながらよく喋れるよ!


「シン様を北縲に帰還させるわけにはいかない」


右手奥の暗闇から、かすれながらハクが現れる。目に映っているはずなのに、存在が希薄だ。

彼を認識することに躊躇いが生まれる。私はそれを見ていて良いのだろうか、と。


「シン様がこのまま北領以外で活動するなら、手を引きます」


そして、理外の存在がもう一人。いや、知ってる姿なんだが。それは本当にセイだったのだろうか。触れたら溶ける粉雪のように、視界に収まるその人物は瞬きの度に朧になっていく。

いや、これは……私の意識が危ないんじゃないのか!? だってロンの姿も霞んでるもん!

いやでも他の面々はちゃんと見える……見えてるよね?


「と、とにかくカシラの首にあるやつ、緩めてくだせぇ!」


「シン様が退くというのなら」


「どうなんですかシン様」


喉が圧迫されてて喋れないですよね!

分かってて問いかけてるんだろうなぁ! 沈黙は否定とか言い出しそうだよなぁ!


「ぐっ、答……わか、っ」


なんとか声を絞り出す。

痛みはないが、苦しい。息ができないというのはさすがに無理。痛覚が死んでるだけで、心肺機能は他の人と同じなので。いや、詳細はわからないけど、たぶん同じなんで。

いやしかし壁とかにもなってるからな、もしかしたら無呼吸でもいけるかも。


ハクとセイから合図が出て、首の紐が緩んだ。

咳き込みつつ立ち上がる。気付けば、アルパカも捕獲されていた。そしてこちらを半包囲するように、仲間であるはずのロン部隊を拘束しながら続々と姿を現すハクとセイの部下。

なにより、地力というより数の差がひどい。一人に対して最低三人は相対している。

負けるなっつーのが無理です!


「カシラァ! 無事ですか!」


「けほっ、とりあえず、そのまま……警戒を続けておくように」


自由に動けるのはロンとその側近二人、それからミンか。

そういえば忘れてたけど、女の子を拾っていたんだった。


「それで、なんで北縲に戻ったらいけないんだ?」


「知る必要はありません」


「シン様は我々の要望を受け入れてくれた、それで良いでしょう?」


「……頷かなかったら殺されてた」


「それだけの──」


「ハク」


言葉の続きを遮られるハク。

これ以上私に情報を与えないとかそういう意図だろうか。


「……わかった、とりあえずこっちから北縲には近付かない」


「北領です。であれば、こちらからも何もしません」


「店は通常通りに業務遂行するように」


「承知しました」


手で合図を送って、ロン達を下がらせる。

私も北領とは反対へ向かう。ポーズではなく、本当に。しばらくは監視もついているだろう、下手な動きは身を危険にさらすだけだ。

心配そうに見てくるロン達であるが。

まあなに、今の会話で方針は固まってるから大丈夫。まずは近くの店に行こう。なんにせよ、資金の調達からだ。


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