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異世界出張でアフターケアとかなんですか?  作者: 概念ならまだしも実在するわけねーじゃん
6.ロリショタ

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地獄の沙汰も金次第、ということで、本命の商品を手に入れるためにシルクロードの本格開拓に着手することにした。

といっても、道を作るとかそういう話じゃない。どこからも助成金出ないし。

単純に、物量を増やすだけだ。人が通れば道はできるし、道ができれば人が通る。そうなれば野生生物はよっぽどじゃない限り姿を表さない。そもそも、その地域を縄張りにしていたボスを撃退している訳だからね。今までは場所によっては気付かれないように進んでいた所もあったらしいけど、忍者部隊がこう……あいつらなんなの。

まあ、そうでなくとも、馬車の移動単位を増やして体積のかさ増しをしている。身体の大きな相手などやり過ごすのが野生の鉄則だ。他に獲物がいない場合を除き、襲われる機会は減る事だろう。


さて、そうやって交易路はできるわけだが、異国に持っていけばどうとでもなるってもんでもない。当然ながら事前の準備が必要だ。

そう、私が狙うのはここ。

実際に商品のやり取りも行うけれども、外国でものを売る際に真っ先に障害になるもの、言語に始まる文化の違いを攻略する。裏技開発する。

お気付きのことだろうが、私には言葉の壁がない。らんぐいっじふりーである。もうフリーダムである。当然この能力を通訳なんて所で収めるつもりはない。取り扱うのは権利書だ。この商人はちゃんとした人だから大丈夫ですっていう保証書を発行し、交易に関わる国々で認めさせる。

まずもって、その書類に効力を持たせるための構造を構築する必要があるが、それさえ済めば紙切れ一枚でボロ儲けである。所謂、仲介業ってやつか。免罪符バカ売れ計画である。本当、ヨウ氏の家に所属できて良かったわ。個人でやろうとしたらそれこそ財力のある人達に武力でもって捕らわれて奴隷化されてただろうしね。


ということで、私は旅に出た。

といっても忍達の背中でいられてブラックアウトするのがお仕事みたいなもんなので、レシュガを出立して気を失ったと思ったら知らない土地でコンニチワしただけである。これ途中で捨てられたらもうどうしようもないな。そんな事する育てかたはしてない……してないはずだけど、恨まれてる気もするしどうだろう。

なにはともあれ、まずは中東方面からの攻略開始である。


その前にだ。

まずは世界情勢を整理しておきたい。というほど、大した情報は持っていないけれど、栂にいる間に東方を調べていたんだな。

まずは我が藜。大陸西端の覇者であるため、対外的には大凡安定している。外国との国境の多くは北と東に寄っているので、つまりうちの所とソンフォンの所で対応している。北方はこぜりあいていどだし、この前停戦したし、交易も始まるし、って事で、心配はいらない状況だ。東も同様に静かなもんである。

次に栂、そこより東であるが、一つの巨大国家ができあがりつつある。あれだ、歴史はよく知らんのだが、ローマ帝国だの十字軍だのナポレオンだの、そういった感じに遠征によって併合されていった大国だ。その勢いは天井知らず、このままだと栂も飲み込まれるのではないかと危惧するほどの時流である。んが、歴史が証明するように、巨大すぎる国は自壊する。太り続けて自重で骨が折れるようなもんだ。それはさておき、未だ猛威を振るっているのは事実だ。

つまりは戦争需要が発生している地域でもある。

嗜好品の持ち込みは戦地から遠い場所になってしまうが、覇王の出身国の羽振りは良かろう。

まだ国内供給で物資を見繕えるかもしれないが、全く売れないこともあるまい。最悪、人を売り込めば良いし。奴隷的な意味じゃなくても、傭兵だのなんだので付け入る隙はある。直接関わる気はないが、間接的に吸い上げる仕組みを構築しておかないと。


という背景事情があって、現地に到着した。

目が覚めた場所は、なんとものどか、としかいいようがないくらい心落ち着く静けさの麦畑で、地平線まで広がる黄金の稲穂はその身をく揺らし、風がながれていくさらさらとした音だけが周囲の空気へと溶け込んでいた。

今まさに収穫の時を迎えようとしているわけだが、踏み倒された跡もないし盗難されてたわけでもない。ここ戦地じゃねぇの?


「ここどこ?」


「へぇ、カシラが会いたがってる人物の、最もお気に入りの隠れ家でさぁ!」


隠れ家を探し当てて良いの?

いや私としては問題ないんだけどさ、あんまり心証よくなさそうじゃん、休んでるところに突撃とか……。

それにここ、見渡すばかりの畑なんですけど。こんな所にいるってなんなんだよ、防御力捨ててるじゃん、火を放てばそれだけで糧食へのダメージと野焼きによる疑似山狩りができるし。しないけど。

本当にいるか疑わしい……けれど、ロンが裏取りもせずにここに連れてくるわけないしなぁ。なまじっか嘘だったとしても、別の理由が存在するはず。


「というか、会いたがってる人って誰?」


「あれ? 茶蠍の頭領に会いたかったんじゃねぇんですか?」


「うんー……?」


茶蠍……って、東覇しそうな国の名前じゃねぇか。

頭領っつか王様はおそらく本国のお城とかの中だろうから、ここでいう頭領はおそらく将軍だろう。

え!? 会いたいとか言ってないけど!!

そういえばロンってこういう所があるんだった! 猪突猛進というか……拡大解釈というか……野生の法則に基づく大胆行動……!


「ちょっと移動しようか」


「いいんですかい?」


良いも何もまず不審者に思われたらバトル開始しちゃうでしょうが! 目と目が合ったらバトルなのよ!

そうなったら交渉もなんもねぇわ!

っつーか通商するのに将軍の許可とか関係ないわ!


「うん、大丈夫だから……」


「何者だ」


ああ! あああああ!


撤退しようとロンに跨がろうとしていたら、上体を起こした成人男性と目が合った。

髭を剃っているのか、焦げ茶の髪に灰色の目のその人は、声の渋さの割には若く見える。少し面長で険しい眼をしており、服装も相まってイメージ上の中東民族に近い風貌に見受けられた。演技派の俳優にこういうのいた。決してイケメンではないが、シリーズものの主人公やってそうな感じだ。

でも私はその冒険に同行したくない。スクリーンの向こうで結構です。


「失礼しました、まさか本当にいらっしゃるとは」


「……子供か? ここは我が軍が接収したはずだが。迷い込んだか、保護者はどこにいる」


あ、良かった、無礼打ちとかなさそう。


「私は貴方に会いに来ました、ヨウヤンシンと申します」


「ふむ……? いやに慇懃だな、態度も……まあ、我が国の様式ではないが、敬意が見て取れる。いや……一度、見たことがあるな? あれは……ソンフォンだったか」


あいつなんなの。

いや、外国に伝手があるとは言ってたけど、なんで一国の将軍と邂逅してんだよ。人のこと言えねぇけど。


「一人で来たわけではなかったが……ふむ、あやつの従者よりも隠れるのが上手いとみえる。で、何用だ。私的な会見を許可した覚えはないが」


でしょうね。

勝手に来たからね。

って事は、下手な事言ったら摘まみ出されるな。

え、どうしよう。


「この度、我が国より茶蠍の……えーと、ディナトロとの貿易の許可をいただきたく参りました」


「我が国の? そう言ったことは商相の担当だろう、私にいわれてもな」


だよな。

自分でも言った後にどうしようって思ったもん。


「いえ、私が提案したいのは、武器や防具と……魔道具についてです」


「聞こう」


「その前に、貴方様は私の国のことをほとんどご存知ないでしょう。遙か遠方にある国ではありますが、武具に欠かせぬ鉱石も、金も、魔物素材も豊富にございます。またご婦人を喜ばせる装飾品も……」


「そちらはよい、鉱石だが鋳塊にはできるのか」


「可能かと」


「そうか、現物を見てから決めよう。持っているか」


持ってるわけないだろうが!

まさか交渉するとか思ってないじゃん! 手元にサンプルなんてないよ! 口から出任せだもん!

いや、約束しておいてから用意するのも一つの商談の形じゃん? ほら、現代だって個人スポンサーを募って一定金額に達したら販売するって手法もあるし。投資なんてそういうものだし。


答えに窮していたら、ゴトリと音がして足元に鉄塊が落ちてきた。

危うく足が潰れる所だったわ!

おそらく忍者部隊の誰かが持っていて、妖術を使って近くまで転送してくれたんだろう。なんでかしらんが、忍者になると空間魔法を使えるようになるらしいよ。移動の速さや影に潜み隠れる技術の種はそこにあったらしい。それを使ってスーちゃんのストーカーしてるんだから技術の無駄遣いなんだけども。


ともかく、私はそれを拾って差し出した。

受け取った相手が手をくるくる回して多方向から物品を目視検査している。

ひとしきり眺めて満足したのか、空いた手を差し出してきた。


「ディナトロの将軍をしている、デーニル=ジル=ディナトロだ」


「改めて、藜の北方領主、ヨウヤントウの孫のヨウヤンシンです」


名乗りあって握手を交わす。交渉成立らしい。できる部下を持つだけで人生は楽になる良い事例である。


「詳しい話は商相としてくれ。できるだけ早いほうがいい」


「ありがとうございます。つきましては、デーニル将軍の推薦状をいただけませんか」


「そうだな、第一優先で話をさせよう」


やったぜ。

話のわかる人で良かった。

あとは茶蠍の商相と、鋳塊以外の商品についても話し合いをすれば良いし、通商権について打ち合わせれば良い。年間フリーパスのノリで関税に優遇があるとでもすれば良かろう。茶蠍が巨大国家である限り、通商権も一種のステータスとして流行するだろうし。


「お互い良い関係でいたいものだな。ヤンシン、貴様に婚約者はいるのか?」


うん? なんだ?


「いえ、おりませんが……」


「そうか。我が国には将来有望な美人の蕾が多い。これから我が国に行くのであれば、いくつか手折っていくのも良いだろう」


なんで将軍直々につばつけろって言ってくるんすかね。

私はそれを聞かなかった事にした。


いつもお読みいただきありがとうございます。

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