表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界出張でアフターケアとかなんですか?  作者: 概念ならまだしも実在するわけねーじゃん
6.ロリショタ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

133/311

27

肝心要の挨拶を忘れてた。

私が倒れていても予定通りに事が運ぶように指示は出していたから問題はなかったんだけど。ついでにこうなることを見越して一日早く着けるように段取りを組んでおいた。ただ、自分の記憶が飛ぶとか思わないじゃん。ちゃんとメモしておかないからですね、はい。スケジュール管理気を付けます。

ということで観光は後回し、東伯公にお目通りを願い、形ばかりの挨拶をサクッと終わらせた後は歓待のための宴とかいうのをやんわり断って、断り切れずに昼食の席まで待機するようにと客室に案内された。


わかってるよ、今回の派遣が東領との交流という建前で、東伯の子供の奮起材料にするためだってのは。

またしても一石二鳥ならぬ鳥鍋パーティー狙ってやがることはなんとなくわかる。こっちにもメリットがあるから、成功させたらウィンウィンだぜっていうのがまた逃げるに惜しいと思えてしまう要因な訳だ。


北縲も梁東市も藜国では東側の方、つまり諸外国との国境近くに配置されている。他国への牽制であり、交易も拠点であり、反乱が起きた場合に兵站を引き延ばすための措置でもある。

まあ、国内ではなんやかや微妙な立場であるわけだ。だから、北と東で協力体制を築くのは国境線を守るためでもあり、中央西南に拮抗するための最低条件となる。


ということで、親交は親から子へと受け継がれていくわけだね。そこに放り込まれたわけだよ、北伯の孫として。

失敗できない系の任務だけど、同時に成功すれば北領にとって有益な人材になれるという事であり、地位が安定する。

そんでまぁ、発奮材料ってのは、優秀な東伯の息子がナルシスト化してるから鼻っ柱へし折ってこいという、こういうわけだ。同年代、むしろ年下の私がその息子よりも表向きは優秀だってんで駆り出されたと。


連れてこられた客室で、なんだか嫌気がさしてベッドに倒れ込んだら、上からスーちゃんが振ってきた。


「ぐほっ! お、重い……」


「えへへー、スーもおおきくなったもんねー!」


笑いながら胸の辺りに顔を寄せて頰をすりすりと擦り寄せてくる我が天使は可愛いけれど、それ女性に無差別にやったらビンタ食らうやつだからな? まだ子供だから良いけどさ。

ごろごろしながら待っているわけにはいかないので上体を起こす。


「視察に女連れとは、北伯の孫というのは礼儀を重んじないらしい」


その時、聞き慣れない声がした。

出入り口のほうに顔を向ければ、やたらと自信満々な表情の少年が立っている。年の頃は十代前半くらいか? 大人びた雰囲気はあるのだが、声変わり前なのか女性みたいな声だし髭も喉仏もない。

ただ、女の着物を着ても女のは見えないだろう。なんというか、子供や女性特有の丸みがない。


「どちらさまでしょうか」


薄々……というか北伯の孫と知ってて挨拶も無しに暴言に近い言葉を吐いてくるなんて心当たりが一つしかないけど。

第一印象がお互いに最悪とかもうね。


「名前は聞く前に名乗るものだろう? 礼節を知らぬ者は、さすがに言うことが違う」


「東伯の客人として逗留することになります故、貴方が東伯の身内であれば無礼はそちらの態度となります。また、身内でないのなら、ここは東伯の持ち物、泥棒となります」


「なるほど、口が上手いというわけか。それで北の蛮族どもを手懐けたと、そういうことか」


「………」


私がここに来ると知って調べたのだろうか。いや……いや、そうじゃない。

やべぇこいつ、私と同じだ。いや、私以上だ!

私は現実世界の知識があって、強運があって、色んなものに恵まれて、それで忍者部隊なんてものを統括して情報を仕入れる体制を作り上げた。

こいつは少なくとも他の世界の知識なんてものは持ってないのに、同じような諜報員を雇ってる。


「……運に恵まれただけです。それより、我々は兄と弟です。女性の服は、北領の習わしで……」


「そうか? 箐南区の饅頭売りは男と女の兄妹と過ごしていただろう」


ダメ押しとかいらないんですけどねぇ!


「ご存知なら名乗りなど要らないでしょう、ソンフォン殿。そのお召し物の肩部分は樹鼠鹿の皮でしょうか。他は絹と山平羊ですね。麝香も随分と贅沢にご使用なさっているようで」


「……なるほど、交渉事は武に係ることだけではないと。スンヨウ……いや、ヤンシン殿」


うん? あれ、スンヨウはスーちゃんの……いや、まて。

前も兄に間違われたことがあったような? こいつも私の方を兄と思っているのだろうか。うーん。まあいっか。わざわざ訂正するような事でもない。


「ね、シン……」


いきなり言い合いを始めたから不安になったのだろうか。スーちゃんが服の裾を引っ張ってきた

つーかベッドの上でいちゃつきながら対応するって無礼極まりないね! これじゃ敵視だってするわ!


「失礼。名乗りあったので、次はお茶などいかがでしょうか」


「いや、この後の食事会で顔を合わせることになる。そこで十分だ」


チラッとスーちゃんを見て、どや笑顔を見せつけてから去って行くナルシスト。

うーん、食前になんの目的があってここに来たのか。東伯の息子ってなら、まずその宴で紹介されてからじゃないとこっちも接触するわけにいかないと思ってたんだけど。向こうから挑発してきたし仕方ないよね。

しかしなんだったんだ。


「ねえシン、いまのなに?」


「わからん」


「んっと……ソンフォン、殿? 樹鼠鹿とか、山平羊とか、なに?」


「ああ。樹に住む鼠のフリした鹿の妖物と山間の平原に生息する牛の群れにいつの間にか混じってる羊の妖物だよ」


「それは知ってる! そうじゃなくて、んっと」


ああ、なんでそれを指摘したのかってことか。


「それもだけど、絹も麝香も、ソンフォン殿が増産して販売してるんだよ。ここ三年のことみたいだけど、東領のトップブランド……品質が良い商品として誰もが知っているものになってるんだ」


「シンの居酒屋みたいに?」


「俺のはまだ北縲だけだから、それよりもソンフォン殿の功績は大きいな」


実際、その売上げだけで梁東市の住人の半分は養っても余裕だろうし。

だけど、スーちゃんはむくれて頬はわあああーーーー小動物スーちゃんかんわいいいィィィイイ!!

何故この世界には! カメラが! ないんだろうか!!

あったら絶対に忍達に常備させてその能力で以て色んな角度から今の表情を盗撮させるのに!

あ、そうだ。


「スーちゃん次の魔道具だけど、映像を紙に映せるやつ開発しない?」


「!! それがあったらシンの絵ができる! やる! えへへ、シンを持ち歩くんだっ」


お、おう。

嬉しそうだけど早まったかもしれないと思うのは私だけだろうか。小型スキャナコピー機できたから技術的に問題なく作成できそうなんだよな。

防犯機能を付けるべきか悩んだ末、音が出る機能や被写体の許可がないと撮影できないとか、そういう制約を付けることができないか検討することになった。道具は使いよう、犯罪に使われたら悲しむのはスーちゃんだ。やろうと思ったら枷にはなるけど、スーちゃんの涙には変えられない。いやそもそもやらんけど。

あと、雑念の混じった怨嗟が届いたけど知らん。自分の身の安全を確保して何が悪い。


さて、その後の宴でソンフォンを正式に紹介されて、これで公認の友人関係というものになった。

お互い将来的に各領の筆頭として立身する……あれ?

ああ!? なんかおかしいと思ってたけど、大兄の子になるって長兄って事か?! それつまり北伯候補じゃん! もしかしてここに来たのもそのための布石か……!?

じいさんの子になると思って動いてたからすっかり失念してた。これ大兄の子が来るべきだったんじゃ……いや、今は実子以外いないのか。

孫子指名は北伯として立ってからになるけど、実子であっても一子になれるかはわからない。初期は順位が変動しやすいらしいが、そうか、器用貧乏は一子と似通ってるのか。あとは睡眠が必要ないってのが大きいよね、夜中の緊急事態にも速攻対処できるし、単純に使える時間が多いから書類の処理が捗る。二十四時間働けますよ状態だもん、栄養ドリンクもいらない。


内心で頭を抱えていたら手元の杯に果実水が注がれた。

東伯や付き人として顔をさらしている忍者の数人は酒を嗜んでいるが、私とスー、それからチェンにソンフォンは未成年なのでアルコールは飲めない。少なくとも公の場では。


「何か悩み事ですか、ヤンシン殿」


視線は魚を頬張るスーちゃんに向けながら、ソンフォンこちらに声をかけてくる。

お前も魅了術にやられたか……。


「いえ、大したことでは。それよりも、ソンフォン殿、貴殿の手腕を見習いたいと思っていたところなのですよ、その商才はいかにして手に入れたのか、是非ともご教授願いたい」


「なんの、仙人と呼ばれるヤンシン殿にお伝えできることなど何もありませんよ。私としては、貴方の武勇伝の方が聞きたいですね」


なんで腹の探り合いみたいなことをしなきゃいけないんだ。


「面白い話などありませんよ。結果的に我が領の鎮守ヤンリーが裸で酒樽担い登場したというだけの話でして」


「何やら面白い話をされておりますな? いや、私もヤンリー殿と面識がありましてな、思い切りの良い人物とは存じておりますが、まさかそのようなことをされるとは」


こちらのギスギスした雰囲気を嗅ぎ取ったか、はたまた酒に酔っただけか、東伯が乱入してきた。

年代頃は一子と同じくらいか。交流があるなら、大兄のみならず主要な人物とは顔合わせもしていることだろう。

促されるままに北縲での出来事を語り、他の兄弟達の様子を伝える。それにいちいち反応を示すのだから、酒ってのは人を狂わせる魔性を秘めていると再確認した。

宴も終盤、嫌に上機嫌な東伯にばっしばっしと背中を叩かれる。


「いや、ヤンシン殿はなんとも勇ましく、知謀に長け、大いに信頼されておりますなぁ! 直接お話しし、また噂以上の傑物であると確信いたしました! どうぞこれから我等東の者と仲良くしていただきたい!」


うん、酔っ払いの戯れ言程度に聞いておくわ。ソンフォンに敵愾心を起こさせるための方便だろうし。

チラリと彼を見れば、こちらに気がついたからにっこりと笑う。


「それでしたら父上、良い案がございます。ヤンスーを私の将来の伴侶として約束事を交わすのです。そうすれば、ソンとヤンの仲はより深く、また発展したものになりますよ」


「………!?」


その場の彼以外の者が言葉を失った。

いや、物音一つしない。

隠れて待機しているだろう忍者部隊からの殺気も感じない。

これが……時が止まるということか……。


「な、何を言っておるのだ、フォン、ヤンスー殿は、男児だと……」


表向きは兄弟、双子の男児だ。それをぶっ飛ばして求婚とか、それは性癖暴露と取ってよろしいか。

あ、違う。こいつ、スーを妹と勘違いしてるんだ!


「……間違って酒でも召されたんでしょう」


「そ、そうだなヤンシン殿、いやぁ、倅が失礼を。このような冗談を口にしたことはないのですが、貴殿と会えたことが嬉しく、舞い上がっておるのでしょう」


そういう事にしておこうぜ! と二人で全力でフォローする。

そのため言い草が不自然なものになるが、私達の繕いに全員が必死で縋り付いてくる。若殿ご乱心とか酔いも覚めるってもんだろう。

そんな中、渦中のスーが私の服の裾を掴んで小さく引っ張った。最近よくやる動作なんだけど気に入ったのだろうか。


「……スーはシンのだから」


小声だけど聞こえましたありがとうございます。

なんかもうありがとうございます。土下座して床ペロしながら感謝の言葉を念仏のように唱え続けることができると思う。食事も睡眠もいらないから文字通り三日三晩一心不乱にな!


「……また後日、正式に伺います」


どんな体裁でやってきたって無理なもんは無理だよ!

東伯は聞こえないふりで今の言葉を聞き流し、宴の終わりを合図した。

私達は早々に屋敷を辞す。今日からは東伯が用意してくれた宿にて寝起きをすることになる、のだが……。


「……襲撃されそうだから、チェン、ロンと相談して警備強化をしておいてくれ」


「わかった。……あの男は本気だろうか」


「……うん、本気じゃないかなぁって」


嫌な予感がするから、とりあえず宿に着くなりそんな指示を出した。

今はただ、勘が外れることを切に願ってる。


スマホ老眼……焦点が合わない……


いつもお読み頂きありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ