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新しい仲間をみつけにいくんだ!
などと意気込んだところでやるこたぁ変わらない。スーとチェンを伴っての挨拶行脚だ。
もちろん、親衛隊もいる。あんまり目立つなよって伝えたら本当に創作忍者のような動きをするようになったユウロウ一派。新たな武門を作ってしまったかもしれないが、まあこれはスーのせいなので私は関係ないね、うん。
今も隠密でどこからか見張られているよ!
さて、最初に訪れたのは長子のところ。実子ではないが、後継第一候補ってやつだ。年齢的には五十なんぼ、比較的がっちりとした体格で目尻が下がった笑い上戸なおっさんだった。髭を扱く動きがじいさんと似ていたから、血は繋がっていなくとも家族なんだなぁって印象だ。
まあこの人、温厚そうだけど怒ったら恐いんじゃないかな。執務室兼自室にお邪魔したわけだけど、机の上には資料としてか書類なのか巻物が堆く積まれていた。仕事が多いのか遅いのかはわからないけれど、采配を任せられる分量が多く、重責を担っている事だけはわかった。頼られる分、仕事も多いのだろう。
分野は北領全般、北伯代理として動くこともあるそうだ。
何かあったら頼りなさい、などと歓迎されているような言葉も貰った。
社交辞令だろうけど、鵜呑みにしておこう。
ちなみスーの術は抑え方がわからないので全開です。だけど、それにかかってる感じじゃあなかったんだよな。魔法抵抗力が高いのかもしれない。
次に訪れたのは、六子で妖術分野の博士でもある、初孫の儀で質問してきたなまっちょろいやつのところだ。
時間が早めに取れたというのと、この人のお陰で他の質問が出なかったことに関する感謝も早めに伝えておきたかった。
あと、魅了の術の取り扱い方も知りたい。今の所、耐性のある人だったら効きづらいくらいの事しかわかんないんだよね。私に妖術適性が一切ないばかりにそこら辺が全くわからん。魔法使いたいよぅ。
「来ましたか。そこへかけて少しお待ちください」
こちらも執務室兼自室かな。
仕事中だったのか、巻物に何やら書き付けている。スーと私は促されるままソファのようなものに腰掛けた。長椅子か。座り心地は悪くない。
チェンは私達の後ろに立っている。引率者ではあるが、場面によっては護衛になる。こいつも傑物で、漫画知識を教えたら翌日には習得するようなバケモノだ。私の周りに天才しかいないんだけどこれイジメかな?
しばし部屋の中を眺め回していたら、一息ついたらしい六子がこちらにやってきた。
じいっとスーの方を見ている。今も魅了垂れ流しになっているんだろう。
「ご挨拶にうかがいました。ヤンスーとヤンシンです」
席に着くのを待って口を開けば、眉間に皺を寄せて見返してくる。
「それに関しては。それと、教えるのは吝かではありませんが、きちんと身に付けていただきたいですね」
話が! 早いけども!
貴方の耳はなにを聞いているのでしょうか。
「つまり、貴兄も魅了術が使えるということでしょうか」
「女でなくて良かったと、そういう事です」
先手を打ちすぎて会話のキャッチボールが不可能状態だ。大暴投やめていただけませんか。貴方の頭の中でどんな話が進行しているのさ。
しかも回答がそこまで的外れでないところが一番怖い。妖術使いってこうなる運命なんだろうか。スーちゃんの育成を間違えないようにしなきゃ。
「どのくらいで身に付けられますか」
「死に物狂いでやっていただきます」
「……こちらへの滞在時間は多くないです」
「ですから、その間ですよ」
初めて会話がかみ合った気がするが、おそらく幻聴だろう。
明確に言葉にはしていないが、その裏にある流れ全てを汲み取った上での返答なんじゃないかな。
とにかく、当の本人は目をぱちくりさせているからああ可愛い何も理解していないだろう。
ともかく、私と六子間では合意がなったので、まずはそれだけで十分な成果と言える。
「しかし、数えで五つと聞いていますが、二人とも賢いですね」
「え? ええと、ありがとうございます……?」
貴方と会話できないレベルですが。
こちらの不思議そうな様子には気付いているだろうが、六子は小さく頷いて続ける。
「片方は間違えず、片方は創造。どちらも意味を理解せねばできない所業です。何人かの孫は失笑していましたが、子であればその明敏さに正直舌を巻いていたでしょうね」
挨拶のことかな?
そこまで高評価だったのか。頑張った甲斐があった。
「なので、私のためですよ。ヤンスー、貴方には期待します。もちろん、ヤンシンにも」
とってつけられた。
「ありがたいお言葉、勿体なく思います。では、明日からでも?」
「計画表を送ります。そこからで」
ああ、そうですね。
頷いて立ち上がれば、スーも慌てても席を立つ。
「それでは、よろしくお願いします」
「お、おねがいしますっ!」
「はい、確かに。ではまた」
退室を促されたのでそそくさとその場を後にする。
扉を閉めてホッと一息つけば、はてなマークを浮かべたスーが可愛い何度も瞬きしていた可愛い。
だめだこれ重症じゃねーか。一気に進行したんだけど。
「一度戻ろうか」
「うん」
六子との会話が長びくことを考慮して時間は多めに取ってある。
ここまでスムーズかつ圧縮会話をするとは思ってなかったので、時間がぽっかりと空いてしまった。
だが、肝心のスーが状況把握できていないので補足がいる。
ちなみにチェンも「なんだったんだ今の」とか言ってるから説明せねばなるまい。
部屋につき、二人に茶を出してから先程の説明を始める。
心なしか真剣な顔付きだが、そんな難しい話じゃないよ。
「これから、スーには北縲滞在の間に魅了術を習得してもらう。先生はさっきの六兄で、空いた時間に指導をしていただけるそうだ。あとで予定表が送られてくるから、時間に遅れないように注意して」
「ふはぁ……」
「そういう事だったのか」
端的にいえばそういう事だ。
ついでに、教えるのはスーだけでスパルタしますよ宣言されてる。ついでに、授業の間に私は別行動していなさいとも言われている。会話の圧縮率は過去最高レベルだ。ちなみに幼馴染みも同じレベルで省略してくる事があるのでちょっとだけ慣れているというのが悲しい。
「女云々はなんだったんだ?」
「ああ、傾国の美女にならなくて良かったなって……」
「けーこく?」
「例えば……夏皇は女色を好んで国を傾けたというけれど、特に入れ込んでいた美人がいたって歴史でやっただろ?」
「ああ、なるほど。その美人が魅了術に長けていたと、そういう事か」
「そういうこと。夏皇が女の言うことをばかり鵜呑みにしていたってね。王族の妖術耐性は高いはずだけど、それすら凌駕してたんだろうな。その素質がスーにも六兄にもあるって事だ」
考えるだにアイドルだよなぁ。
まあ、ものは考えようだ。見た目が良くて損することはほとんどない。特技が魅了なら、それを利用して生きれば良いということ。
そのためには頭が良くなきゃなんだけど、今は授業も受けてるし、周囲に博識が多いし心配はしてない。後は自尊心の誇大化を防がなきゃいけないんだけど、六兄がクギを刺してくれるだろう。
「んっと、シン」
「どうした?」
「あのね、教えてもらえるのは良いんだけど……会話どうしよう」
「……あ、ああー……」
だよね! その問題があったね!
まあ、対策は一つしかない。
「わからないことはわからないと伝えるしかない。天才ってのは説明が下手だから、説明の細分化をお願いするしかないだろうな」
「んー、よくわかんないけど、頑張る!」
そっかー、がんばれよ。
ほっこりした気分で意気込んでいるスーの頭を撫でていると、真横にぬっと黒い影が降りてきた。
ビビって手を引っ込めると、そいつはこちらを見下ろしてにっこりと笑う。
「ヤンシン様、スーちゃん、八十七孫と九十二孫がこっちに近付いています」
この敬称の違いね。
本当はスーのことも様付けしなきゃいけないんだけど、本人が嫌がったからこうなった。
そうしたら今度は私の方もスーに合わせなきゃいけないんだけど、みんなの方が拒絶した。
どういう力関係を示しているのか未だにわからないんだよね、これ。多分、未来永劫にわからないと思う。
それよりも。
「他の孫が来てるって? 何歳児?」
北伯の孫子は多いので、その席次と立場で呼び分けをされる。
もちろん名前はあるのだが、全員を覚える気はないし覚えられない。諦めてる。
八十や九十ともなれば末端の孫ではあるんだが、一番最後の孫である私達からすれば兄には違いない。
「年齢は十六と十五です」
ほーん、実年齢も近いのか。それでつるんでるのかね。
席次順と年齢は関係ないから、末端でも成人してたりもままあるんだけど。
それに比べれば早い段階で才覚を見出されたということか。
「うーん、スー、チェン、二人は次の挨拶の準備をしててくれ。俺はその二人と少し話しをする」
「俺がついていなくて大丈夫か?」
「むしろスーについて、面倒に巻き込まれないようにしてもらいたい。ハク、隠密は近くにどれくらいいる?」
「俺を含めて三人ですね」
この簀巻き忍者は、性癖以外頼りになる。
やってくる孫より手練れ、かつ人数も多いなら、まず負けることはなかろう。
さあ、この忙しいときに、アポ無しでなにしにやってくるんかね。下らねぇことだったら簀巻きにして軒先に吊しておこう。




