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異世界出張でアフターケアとかなんですか?  作者: 概念ならまだしも実在するわけねーじゃん
2.人造人間

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そんなこんなで街までやってきた。

途中で車酔いになったマスリオさんが吐いたり膝枕を要求してきたりと気持ちの悪い出来事がいくつかあって疲れたけれど、夕刻には着いたしそこは良しとしよう。

移動中はすごい時間が余って暇だった。なので、その間に魔法の練習をしようと思ってマスリオさんにコツを聞いてみたら首を傾げられた。普通の人は自然と覚えるんだってさ。子供は自然に話し出すでしょ、ってことらしい。

ということで魔法は使えませんでした。なんかいろんな小説やら漫画やらで説明されている魔法の使い方を試してみたけど無理でした。はい。

魔法陣はどうかと聞いたら、魔力を込めながら描かなきゃいけないんだって。やり方わかんないよ。


そんな風に時間をつぶしてたどり着いた街。

マスリオさんがふらふらとどこかに進んでいくのでついていく。

石畳の道は歩きやすいな。轍ができているが、遠くに電車みたいな箱が見えることから公共の交通機関があるということか。というか歩行者と路面電車が使う道が同じって危険だよね。特に子供。

とか思っていたら雇用主も蹴躓いていた。足元注意してください。


「ほら、マスリオ様、起きてください。それで、どこにいくんですか?」


助け起こしながら尋ねる。


「ああ、うん。ガラリアさんのところ」


「ロバート様ではなく?」


「うん、ロバート。たしか、住み込みだったはずだから」


ロバートさんと仲良しだよね。


「旧知の仲なんですか?」


「うん」


「それで、ガラリア様のお屋敷はどちらにあるのでしょう」


「んーと、街の真ん中? だから、門から離れていけばきっとたどりつけるよ」


そんなあやふやな感じで進んでたの?!

てっきり場所を知っているとばかり思いこんでいた。


「こちらにいらっしゃるのは初めてなのですか?」


「いや? ここ出身だから初めてじゃないよ。ただ、道順って覚えるものじゃないし」


覚えるものだろうよ。方向音痴かこいつ。

そんなんで目的地に行こうとか無謀じゃないですかね。

いや、そうでもないか。この時代感で交通機関があるってことは計画都市と思っていいんだろう。街並みを見るに、広場から放射線状に道ができていると推察できる。ならば、ここをまっすぐ進んでいけば中心地にたどり着ける。そこにあるのはこの街の権力者や中央機能だ。

ガラリアさんがどこまで偉い人かはわからないが、貴族っぽいのはわかる。ならば、聞き込みをするにもそこへ向かうのがベターな選択肢だろう。


「そうですか。泊めていただけるといいですね」


「私は大丈夫だよ」


それは私までは保証しないってことですね。

使用人としての価値を示すしかないわ。こんな時間から何ができるかわからないけれど。


「それより、ルノ君」


「なんでしょうか」


「おんぶ」


いい大人がやめろよ。

初めて名前を呼んだと思ったらこれだよ!


「僕、そんなに力持ちじゃないです」


「引きずってでもいいよ。疲れちゃって歩けないよ」


「ああもう! そこにベンチがありますから、少し休んでいきましょう」


屋台もあればいいんだけど、見渡す場所には何もない。

カフェとか休める場所もほしいんだけど、看板が出ていないからあるかどうかもわからない。たぶん、お店のある通りじゃないんだろう。こういう時、初めてくる場所って困るよね。地図もないし。

とりあえず寄りかかってきた賢者様をベンチまで運ぶ。重い。よっこらどっこいと荷物を椅子に座らせて一息ついて顔を上げれば、少し向こうに見知った影を見つけた。幸運来ましたわ。


「マスリオ様、向こうにロバート様がいますよ」


「うん? あ、ほんとだ。おーい」


そんな通常通りの声で気が付くわけないだろと。

仕方がないので両手を大きく振ってアピールをする。向こうが何とか気が付いてくれたみたいで、駆け足で近付いてくれた。そして途中で何かを諦めたように失速して、ここに到着する時点では重い歩みとなっていた。すごく呆れた顔をしています。


「あの、ロバート様?」


「何してるんだよお前ら……」


「ちょっとしたトラブルがありまして、あの屋敷にいられなくなりまして……」


「はぁ!? おい、マスリオ、それ問題だろうが!」


「うん、だから報告かねてロバートの所へ行こうとしてたよ?」


「だからまず言伝を送れよ! そしたら迎えがてら話が聞けただろうが」


「あー、そうか」


「……おい、あんた、こいつはこういうやつなんだ。助手をするならあんたがしっかりしなきゃいかんだろうが」


初耳ですから、そういう情報。無茶振りはやめていただきたく。


「不手際があり申し訳ありません」


「あー、過ぎたことは仕方ねぇ。ともかく奥様の所へ急ぐぞ。ほら立てマスリオ」


「うー、疲れた。おんぶ」


「やめろ、こっちくんな。あんた、担いでやれ」


「いや無茶です、重くて持てません」


「……従者になるなら鍛えろ」


いやそんな地位は目指してませんので。

ため息をついたロバートさんが、文句を言いつつもマスリオさんを担ぎ上げた。俵か何かかね、その人は。

しかしあの重量を軽々と持ち上げるのか。背はあるけど細っこくて軽いほうだとは思うけど、健康不良でも成人男性、そこそこの重労働なんだけどな。


「こっちだ。荷物をもってついてこい」


なんだかんだ優しいんだよな、ロバートさん。言われた通り、家主の荷物をもってついていく。

自分のもの? 何も持っていませんがなにか。






歩くことしばし。

広場の脇にその屋敷は存在していた。

鉄の柵に槍持った門兵か。見た目だけでも厳重な警備してますよっていうのがわかるな。

そこに真正面から突っ込むロバート氏。うん、ここがガラリアさん家なんだね。


門は歩行者用と馬車用が設置されていて、当然ながら人だけなので狭いほうの入り口から入る。敷地内に入れば、まずは前庭っていうのだろうか、剪定された広葉樹が等間隔で植樹された道があった。エントランスまでそこまで距離がないことから、ここは本邸じゃないんだろうな。

道が横にそれている場所があったが、目で追えば車庫、つまり馬車置き場が見えた。馬は別の場所にいるのだろう、目に入る範囲にはいなかった。

そして、肝心の屋敷。これこそ豪邸っていうものでしょ。現世でも写真やテレビでしか見たことないわ。

色はレンガそのままだけど、広さがおかしい。これだけの横幅って、ショッピングモールとかデパートくらいしか知らないぞ。

尖塔みたいなものもあるし、これが個人宅とか信じられん。ここに今から足を踏み入れようとしていることも信じられん。どういう縁があったら訪問できるんだこんなところ。


「こっちだ」


そして当然のごとく裏側に回るロバート氏。

最初から裏口を使ってくれませんかね。正面突破とか心臓がもう一個ほしくなるくらいの度胸が必要ですよ。

壁沿いに進み、正面玄関とは建物をはさんだ反対側にある良心的な見た目の扉から中に入る。表の観音開きは木目が綺麗な一枚板でした。汚したら何を言われるかわかったもんじゃないし触りたくないです。

中に入れば使用人の詰め所になっているようで、休憩していたらしい何人かがこちらに目をくれてきた。

そして先頭に立っているロバートさんを見て居住まいを正す。鎧を着ている二人は警備の私兵だろうか。そのほかに女性のメイドが三人。これも鎧のお兄さん達につられたのか姿勢が良くなった。


「いや、楽にしていていい。休憩中だろう」


「は、はい、ありがとうございます」


「奥様に申し上げたいことがある。どこにいらっしゃるか知らないか?」


「あ、それなら私がっ! 先ほど、温室にいらっしゃいましたっ」


「案内、案内いたします!」


「それなら私が! ちょうど、お茶をお持ちしようとしていたのです!」


「あ、お、おう……」


モテるなぁ、ロバート氏。

見た目も悪くないし、ここにいる人達の態度を見る限りそれなりの地位にいるみたいだし、身近で手の届く範囲にいる優良物件と思えばアピールもしたくなるか。どこの世界も結婚したい系の女子はアクティブだね。殺伐とした世界でも行動理念が変わらなくて安心するわ。


「あの、それでそちらの……」


「ああ、これはマスリオ様だ。こっちはその付き人」


「ルノと申します」


一応挨拶をする。少年っぽい態度で。いや、少年になったことがないからわからんけど。

でも好感触だったようで、メイドのお姉さん達の顔が微笑ましいものを見る顔になった。どこの世界でもショタは正義ですな。


「ともかく、温室だな。茶を用意するならすぐか、後で来てくれ、話が先だ」


「あっ、お待ちください!」


さっさと室内に続くだろう扉を開けるロバート氏。

マスリオさんはずっとぐったりしてるよ。顔を上げるどころか動きすらしない。寝てると思う。

部屋を出ればレンガがむき出しの廊下で、照明もほとんどないからか薄暗かった。

そこを迷いも躊躇いも見せずに突き進む青年。慣れてるからなんだろうけど、足元が不確かなこちらとしてはもう少しゆっくり歩いてほしい。そんなこと言える立場じゃないけど。


なんとか後をついてき、次の扉をくぐると、いきなり光が襲ってきた。なんかの襲撃か!? とか混乱したけど、ロバートさんはまだ直進している。温室についたってことだろうか。

目が慣れるまでしばし立ち止まり、瞬きを数回繰り返してから周囲を見渡す。

唐突に夏が来たような室内に驚き、思わず口からため息が出た。器から何かがこぼれだしているとしか形容しようがない。私の感性はそれほど許容量が大きくないから、それ以上の感動は全て肺から飛び出していってしまう。なるほど、外よりも緑がまぶしい世界だ。


頭を振って意識を戻し、青年が進んだほうに目を向ける。居た。色彩が抜け落ちた小さな穴が動いている。

そして彼が向かう先に居るのは光彩激しい毒蛇だ。こちらを睨んでいる。

そりゃそうだよね、昨日訪れたばかりの賢者が今日は自分の屋敷にいるんだもんね。それまでの彼と大きく違うところといえば、新しく助手を招き入れたところなわけだ。

原因がどこにあるかなんて明白。

大きく息を吸い込んで、根性を据える。ここが大一番ということだけは、婦人の威圧を見ればわかる。負けたら人生ロストです。気合い入れていきましょうか。


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