第3話 桜咲 姫理という女の登場
今回から、1話のボリュームを下げてみました。
──こんにちは。いえ、おはようございます、のほうが正しいでしょうか?
私は17歳の高校2年生、名前は桜咲 姫理といいます。今日から鋼ノ山高校に通うことになりました。
ある人に会いに、それだけが私の目的です。中学以来、彼には会っていません。高校で元気にやっているでしょうか?
彼の顔や声を思い浮かべて、何とも言えない幸福に浸り、思わず顔が笑ってしまう。
彼がいたから私は今、此処に居られるのかもしれません。
この気持ちは感謝なのでしょうか?それとも……、もっと別な何かなのでしょうか?
あの出来事以来、私という存在は彼に忘れられている可能性があります。いえ、可能性というよりも確定事項という表現が正しいですね。それでも、私は彼という存在を知っています。彼が覚えていなくても……、
「……会いたいです。あの人の声を聴きたいです」
そっと、独り言を言ってみる。そのことに対する恥ずかしさで顔が赤く染まっていく。私は独りで何をやっているのでしょう!?うぅ、恥ずかしいです…….。
桜のようなピンク色の腰あたりまである髪が、風に揺らされる。年相応の胸に手を当てて、これからの学園生活に微かな期待を込める。
桜咲 姫理は彼がいる学校へと歩みを進めた。
未だ見ぬ夢を願いながら。
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学校に着いてから私はクラス担任の先生に連れられて、色々説明を受けました。その後、朝のHRまで待機して……、
「それじゃー、転入生を紹介するぞー。席は空いているところだったらどこでもいいぞー」
「は、はい!」
あっという間に自己紹介の時間になってしまいました!どうしましょう、緊張します……。
「えっと……、桜咲 姫理と申します。色々ご迷惑をおかけすると思いますが、これからよろしくお願いします」
精一杯の言葉と笑顔で自己紹介をしましたが……、
「…………」
何故反応がないのでしょう!?やはり、何かおかしいのでしょうか?それとも、みなさんが黙ってしまうぐらい失礼なことをしてしまったのでしょうか!?
ただ、その心配は杞憂に終わった。一瞬の沈黙の後、教室は男子の歓喜の悲鳴と、女子のマスコットキャラクターに対するものと同類の悲鳴に包まれたからだ。
「うおーーーー!」
「なんだ!あの可愛いこ子は!」
「キャーー!可愛い〜!」
「お人形さんみたい〜!」
教室内は秩序を失い、騒ぎ立てていた。
“ど、どうしましょう!?”
桜咲 姫理はどうすることもできず、ただその場でうろたえるのみだった。
結局、騒ぎが治るのは1時間目が始まってからになり、桜咲 姫理は彼を探すことができなかった。それでも、彼女は焦らなかった。
“まだ時間はたっぷりあります。落ち着いてこれから探していきましょう”
授業が始まり、席に着く。
“景永君もこの学校のはずだけど……、どこにいるのでしょう?早く会いたいです”
授業が始まり静かになった教室で、彼女は微笑みを浮かべて、そう願った。
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一方、それから時間は過ぎて、午前がもうすぐ終わろうとしている頃、自宅で景永 哀は考え事をしていた。
春眠暁を覚えず、という漢詩があるように、つい寝過ごしてしまうこともある、と。
いや、そもそも今は春ではなく冬に限りなく近い秋なのだが。
何はともあれ、睡眠とは年中最も大切な事なのだ。だからこそというべきだろうか。
「やっちまった……」
朝起きてから、3回くらい確認した目覚まし時計をもう一度確認する。しかし、何度確認しようが時計はAM 11:27という残酷な数値を表示していた。本日は平日、よって普通に学校はある。つまり遅刻は確定であるのだ。
「はぁ……」
もう、いっそのこと学校を休んでしまおうか。よし、そうしよう!
そう意気込んで再びベッドに倒れこみ、俺はその日はを終えた。
当然ながら、学校に桜咲 姫理がいることを景永 哀は知らない。
そろそろラブコメが始まる予定です(あくまで予定)