7.青年
ハルは、走っていた。
暗い、暗い、世界を。
走る、走る、走る、鉛のように重い足を必死に動かす。
逃げないと…逃げないと!
追いつかれる!
逃げないと!
もっと早く!早く!早く!!
「はやく!」
はっとして、夢だったことに気づく。
まだ胸がどきどきしている。
「わたし、あれ?」
なにしたっけ?
怖い夢を見たけど内容が思い出せない。
忘れた。
あたりを見渡す、夜なのか部屋の中は暖炉の火だけの明るさだった。
「あっ起きた!」
薄茶の髪の青年が現れた。
「ねーちゃん、もう起きないと思ったよ!生きてる?」
「えっと…水を貰えると生き返る。」
と青年に返すと「わーったよ、持ってくるついでに食い物も。」
貰ったのは、真っ赤なりんごと大きなコップにお水だけだった。
「わりぃな今はこれしかないんだ」
「それだけでもありがたいです、そのありがとう。」
「いいって、あっゆっくり飲めよって遅いか。」
ハルは、勢いよく飲んで盛大にむせた。
ずっとのどがカラカラで声を出すのを辛かったから。
一杯だけでは足りず何度もお水を頼んだ。
青年はめんどくせぇと言いながらなんだかんだでハルに水をくれた。
落ち着くと青年は暖炉の前で座り何かを燃やし始めた。
薪ではないし、紙類でもない。
ハルは、聞いてみた。
すると、あいつの服を燃やしてると青年は答えた。
ハルは、すぐ後ろのベットを見た。
まさか!!
見えない、固くなった体を動かしベットの近くに行く。
ベットの中に彼はいた。
暖炉の光だけでは顔はよく見えないけど、目をつぶり穏やかな息をしている。
眠っている。
ハルは、息を吐いた。
「よかっ…た」とハルは、泣きそうな声で言った。
生きてて。
「だからー寝とけば大丈夫だって。」青年は言った。
「魔族は怪我の治りが早いからな、まあ個人差はあるけど。それに、大量に血を流してもこいつは死なない。」
「でも、あんなに苦しそうだったよ。」
「痛覚はあるさ、生きているし。」
その言葉でハルは、安心した。
「でも、どうして服を燃やしているの?」
紛らわしいことを。
「ああ、洗剤切らせてさ、部屋の掃除に使って今ない。」
だからだろうか、あの殺人現場からきれいになっている。
「んっ待てよ、魔族初めて?」
初めて会ったそう答えると、ああどうりでっと返ってきた。
「魔族の血って蟲がわくんだ、蟲は普通の虫とは違って魔族の血を餌とする。だから早いとこ処分したほうがいいってこと、ねーちゃんについた血もね。」
改めて自分の姿を見ると血だらけだった。
「のわあっひどい…。」
せっかくあのリリスからメイド服を貰ったのに、結構気に入っていたんだけどな。
「肌についているのは洗い落とせるが、服は着替えないとだめだな。」
着替え持っていないのかっと聞かれた。
持っているちゃ持っているが、着替えはカバンの中で、カバンは屋敷の外だ。
屋敷の外は出られた、裏口があったから、干していたシーツ取りに行ったときに。
あのエセ紳士、カギを開けることにこだわっていたな。
ハルは、ありますと答えた。
お風呂も入っていい言われたので入りました。
再び、暖炉のそばに戻ったら少年は、テルと名乗った。
使用人なのかと聞いてみたら、「誰があいつの使用人になんかなるもんか!」と返されてしまい、「逆に俺があいつを使ってやっているんだ!むしろ感謝してほしいくらいだ」と言い出した。
私は、テルにここまでのことを話した。
テルは「まんまとだまされてやんの!」言うもんだからむっときた。
私が気にしていることを。
他に雇っていた人は本当にいないの?と聞いてみた。
テルは言った。
「雇っていたとは違う、連れてこられたが正しいそして、そいつらはいつの間にかいなくっていた、今いるのは俺らだけ。」
「食べたの?」
「俺が食うか人間を!」
「じゃなくて、あの人」
「ああ、ディド?たぶん食ってない。」
「たぶんってなによ!、やっぱり、食べるんだ!」
「食べねーよ!……たぶん。」
「食べるじゃん!」
「とっとにかく、俺は知らない!あいつに聞け!」
次に、「あの人は何?」
これまで、あれやこれやあったんだ一番聞きたいこと。
「ディドは…見たまんま魔族だよ。」
「何で顔をそらして言うの?」
うそ、バレバレだし目が泳いでいるし。
すると、テルはふとハルを見て。
「ねーちゃん苦労もんだな、命いくつあっても足りない。」
「なっ!わっ私死んじゃうの?」
「さあなーでも、それを決めるのはあいつだし、あいつのことは直接聞いたほうが一番いい。」
「結局ところわかんないじゃん!」
「魔族ってみんなあんな感じなの?」
「違う、あいつは特別。」
「じゃあ、魔族って何なの?」
そうハルは問うとテルは、にいぃと口の両端をあげ犬歯を見せた。
「いいぜ見せてやるよ!俺に惚れるなよ!」
テルは自分の顔を服で隠し、体を丸くしてしぼんでいった。
しぼんだ服に大きな塊が動き、袖から出てきた。
「えっええええぇぇぇぇぇぇ!!」
それは、大きなうす茶色の猫だった。
しかも、しゃべる。
「うるしゃああい!!」
「猫が!猫が!しゃべったああああ!」
「うるしゃあああいいい!!」
一人と、一匹ほんとにうるさい。
テルも魔族だったのだ、半分人間の姿で半分獣の姿、それを半獣と呼ぶ。