2.怪物
暗闇の世界に、奴らは動き出す。
苦しみを叫びだし、痛みを嘆き、憎しみを食い散らかす。
奴らは何を求めてさ迷い続けているのだろう。
この永遠に近い森の中で……
ハルは、玄関の前に出て、金属のノックを鳴らす。
鳴らす、鳴らす、鳴らす、出ない。
「あーれ、お留守?」
「シっシリウス様」
急にハルの前に出てきたのである。
「えーと、カギはかけているね、ふむ。」
シリウスは何度もドアノブをガチャガチャまわす。
「開かないなあ」
「裏口にまわってみますか?」
「いや、いいよ、リリス」
リリスは、シリウスにあるものを渡す。
シリウスはそれを使ってドアノブの前で腰を曲げた。
「あの~シリウス様?何をしているのですか?」
「何って見たらわかるでしょうカギ穴にピンを差しこんでいるいるんだよ。」
「はたから見たら空き巣しているみたいですよ。」
第一、紳士がしてはいいと思えない。
「空き巣って失敬な、ああでもこれ難しいな。」
「主、頑張ってください」
っていいながらリリスは雑誌を出してくつろいでいた。
自分だけのレジャーシートをしいて、紅茶もたしなんでいるし。
「それどっから持ってきたの?」
「犬も欲しいですか?残念ながらマムシ茶しかありません、それでよければ」
変わらず、無表情でだが。
絶対、自分の紅茶はアップルティーだ!だってアップルの匂いするもん。
「ご遠慮します。」
「そうですか、残念です。」
それから、小一時間は経ったと思う。
馬車から降りた時、お昼ちょっとすぎだったし、日も傾き始めてきた。
「主、いつまでかかっているのです。」
「あと、ちょっと………よし!」
ガッチンと響き渡った。
扉はギギッギイイィと音をたてながら開いた。
「あっ開いた…」
「ハル、待たせたね、どうぞ」
とシリウスがハルを誘導する。
屋敷の中は外の明るさより暗くまるで闇の扉をくぐってきたようだった。
外の空気よりどんよりしているし肌寒い。
「すいませーん、誰かいませんか?」
本当に誰もいないの?使用人も?
そんな時、シュッと風が横切った。
えっ思う前に、腰が砕けた。
腰から足先まで力がはいらない、うごけない!!
うまく呼吸してるかしてないかわからない。
空気が違う、さっきまでのどんよりとしてた空気が針を刺すような冷たさと重くのしかかる圧に押しつぶされそう。
人に本能っていうのがあるのなら今なのかもしれない、初めて危険という以上に死という感覚だった。
死ぬかもしれない。
やばいやばいやばいやばい!!
あれは何だろう?
黒いオーラをまとっている何かは、怪物?
まだ、真っ黒くろすけのほうが数十倍可愛げがある。
「ハル!!」
シリウスが彼女を呼ぶ。
黒いオーラをまとう怪物が言葉を放つ。
「またお前か」
重く圧力がかかった声が響き渡った。
すると…。
「やあ!元気だったかい!!」となんて空気が違う言葉がシリウスから聞いてしまった。
まるで、友人に挨拶をしているかのようで。
「相変わらず、君は引きこもりだね!時には外に出ようよ!」
「引きこもりのレベルが違いすぎなんだけどど!!」
「あと、どこに隠れているんですか!いつの間に!」
屋敷に入ってすぐ、よく見つけましたね大きなツボ。
シリウスは部屋の隅の人が入れそうなツボに入っていたのである。ちなみに花柄のツボである。
リリスはどこに隠れていたかっていうと大きな古時計の中でした。狭そう。
そんなまぬけな彼らを、そりゃあ…怒りますよね。
「出てけ!」
一喝で、屋敷の中が真っ黒になった。
まるで、うごめく黒いものが一気に黒に染め上げるように。
人は透明の物には目には見えないと言うけど、幽霊とか妖精とかさ、でも特別な人だったら見えると思う。
だけど暗闇だったら、世界が一色の黒だったら、特別な人でも何が見えるの?何メートル先まで何が見えるの?
ハルが見えたのは黒の世界だった。