24.時計塔の中へ
奴らを狩るのは慣れている。
何度、自分と似た血を浴びているか。
何度、奴らの叫び声を聞いたか。
何度、自分はこいつらを喰えばいいんだ?
いい加減うんざりだ。
「どうだ生みの親から離れた感想は?」
ディドは黒い触手をかわし、蹴りを食らわせる。
黒い触手は弾き飛び、黒血を流した。
「ギギィイイイーーーーーーー!!!」
叫びと共にディドに再び黒い触手が襲いかかる。
「ああそうだな……。」
ディドはただそこで、立ち尽くしていた。
ハルたちは塔に入った。
そこは、闇の中だった。
シリウス曰く、普段の塔ではなく魔物が作った塔となっているつまり、いつ何が起きるか分からない空間になっていること。
なにが飛び出すか分からない世界。
「あの人ここにいるよね…できれば、いないって言ってほしいなー。」
「彼?彼ならたぶん最上階かなー。」
ハルのちょっとした弱音をシリウスが簡単に崩す。
「やめとこうぜ!ハル!俺らがいたって邪魔になるだけだって!ディドならきっと大丈夫だ…たぶん。」
テルはハルがディドの所に行くと聞いてからずっとハルを止めようとしている。
ハルはテルの気持ちはわかるが引き返す選択はなかった。弱音をはいても、怖くても、死にそうでも。
「大丈夫よ!テル!確かに邪魔かもしれないけど、ここまで来たら行かないと!テルは引き返してもいいのよ?」
テルはうなったが答えを出した。
「俺も行くよ…ディドが心配だしさ…。」
「ありがとうテル!」
ハルはテルをぎゅうっと抱きしめた。
抱きしめたあと、テルはゼイゼイ言っていた。
私は大バカ者だ。
だって、みんなを引き連れて危ない所に行こうとしているんだから…本当は私一人で行かなきゃいけないのに、意外と自分は臆病者だ。それでも、私はあの人に会いに行くと決めている。
「待ってろよおーーーー!!!今行くからなーー!!!」
「ハルがいつもよりテンションが高い………。」
テルはハルを様子をちょっと離れたところで見ていた。
現在進行形で暗闇の中を捜索中。
当然ながら全く見えなかった、でも彼らは見えていた。
「ハル、足もと気を付けてねそこ階段だから。」
シリウスがハルに注意を促す。
暗闇を歩く前、シリウス筆頭に灯りを付けない方がいいと言われた。
魔の者は暗闇の中で生きるもので、どんなに暗闇でも彼らは簡単に見えるそうだ。その中で灯りを灯すとその光を消そうと魔の者が寄ってくるらしい。
出来るだけ魔物に遭遇かつ襲われたくないハルはそれに従うしかなかった。
シリウスが途端に言い出した。
「僕はここまでかな。」
「えっ?わあ!」
ハルがその理由を聞く前に事は起きた。
大きな地響きが起き、何かが上から降ってきた気がした。
高い所から液体をこぼした音がした。
ベチャ、ベチャ、ポタポタと私たちの周りに落ちたようだった。
「ハル、僕はどうして君に人形をつけたと思う?」
「そっそんな場合じゃ!」
真っ暗の中、不可解な音とともにハルは感じていた、この気配は魔物だ。
「君が聞かなかったから僕が答えているんだよ、それはね……。」
シリウスの声が途切れた。
「ハル!走れ!俺が先導するから俺の声をたどれ!!」
テルがハルを誘導しょうとする時、鉄と鉄がすれる音が聞こえた。
「シャッキン!」
「ただ僕らのこと知ってほしかっただけなんだ……さあ、シザードール(血に濡れたハサミ人形)遊んであげて。」
ハルは声だけを聞いていた、シリウスがまた笑っていると思った。
「シャキンシャキンシャキンシャキンシャキンシャキンシャキンシャキンシャキン」
「シャキンシャキンシャキンシャキンシャキンシャキンシャキンシャキンシャキンシャキン」
「シャキンシャキンシャキンシャキンシャキンシャキンシャキン」
ハサミの音がずれて聞こえた。
この闇の中でいったい何体いるの?
ハルが呆然と立っていたら誰かが手を掴み強く引っ張った。
「何をしているのですか、あなたも変態の仲間入りしたいのですか。」
「えっその声!リリス!へっ変態ってやっぱりあのエセ紳士!ド変態なんだ!」
リリスも認めた変態だった。
ハルはリリスに引っ張られながら闇の中を走った。
「あああ!!!!変態置いてきた!」
「主なら遺棄しても大丈夫なお方です。」
リリスのシリウスの扱いは筋金入りで一番の理解者とも言えよう、だからリリスの言葉を信じてみた。
走る、走る、息を切らせながら走る。
後ろから何かが上から落ちた音が響いていた。
「埒が明きません、黄昏の君様一度切り開きます、ご承知おきください。」
「マジすか!」
テルとリリスのやり取りがあったがハルには全く理解できなかった。
しかし、すぐに理解した。
強い突風が来たと思ったら黒い画用紙を切るように闇が切れた。
そこから光がもれ出ていた。
ハルは最初はまぶしいと思ったが自然と目が開くようになると、月光が差す塔の柱だった。
これが本来の塔なんだろうか?月の光が差す塔と街なみがとても美しかった。
「呆けている場合ですか、置いていきますよ。」
リリスがちらっと後ろを見た、ハルもちらっと見た。
「なっななな!何アレ!?」
ハルたちの後ろには黒くてドロドロした塊が追いかけてきていた、それもごろごろと何体もいた。
黒いドロドロは黒い触手を伸ばしたり縮んだりしていた、触手もドロドロ。
「死にたくはなければ、走ることを推進します。」
あれだけ走ってもリリスの顔は無表情ままだった。どれだけ体力あるんすか!
「そうだけど!」
「あれは分身みたいなものです、親を叩けば子も自然と消えますよ。」
「親って何なの!」
「あなたも見ているはずです、時計塔の最上階にいる魔物のことですよ……ですが、あれは魔物とは違います。」
ハルは苦しい息を飲んだ。これは彼らが知っていてハルが知らないことだ。
「、、、、、…………私たちは、あれを間と呼びます。」
リリスの言葉に少し違和感を感じたが、それどころではなかった。
今まで動きが鈍かった黒いドロドロ、そのうちの1体がいきなり、固形になり太い針となった。
今からお注射しますよースタイルだった。
「ちょお!アレええ!!」
「あれちょっとマズくね!」
ハルとテルがやばいやばいやばい!と叫びだした。
はーい!問答無用!発射!…そんな感じ。
「「ぎゃあああああああああ!!!!」」
リリスの手がハルから離れた。
再び突風が吹き視界が見えなくなった。
見えた時には、凛々しくかつ冷静沈着のリリスが立っていた。
ハルはリリスが持つものが物凄く気になった。
「あの、リリスさんそっそれは何ですか、ああ!こっちに向けないで!お願いだから!」
「ご覧になった通りですが、なにか?」
何があっても無表情のリリスであった。
リリスが持っているのは大鎌だった、リリスの身長を軽々と超えて、刃の部分は鋭く何でも切れそうな勢いだ。
リリスはそれを使って太い針を切ったのである。突風はその威力を物語っているだろう。
ハルは恐ろしく感じるが今はすごく頼りになると思った。
リリスさんの方がエセ紳士より死神らしくね!味方で良かった!…ほんとに!
そんなつかの間、黒いドロドロは再び太い針となり襲ってきた。
リリスは目にも入らぬ動きで大鎌を振るい太い針を切っていく。
黒いドロドロは今度は数体で太い針を作り、針を飛ばすごとに数を増やし続けていた。
「囲まれたら厄介です、先に進めることをお勧めします。」
リリスがそう言うとテルがハルを呼んだ。
「ハル!行くぞ!」
「でっでも!」
ハルの答えにテルは叱りつける様に言った。
「お前!何のために来ているんだよ!ディドに会いに行くんだろ!だったら走れ!この場にとどまったら俺らがいたら逆に死に目に会うぞ!」
ハルはテルの言葉に打たれた、心配している暇なんかなかった。
行かなくては!
「リリスさん!また今度一緒にご飯食べましょう!みんなで!」
「要求はマヨネーズを中心とした料理でお願いします。」
リリスは要求だけ言って後方へと脚を歩ませた。
その立ち姿、主を持つ使用人かつ死を呼ぶ死神の姿だった。
「テル!行こう!」
ハルは再び走った。




