23.魔物到来 その1
ただいまハルはプカプカ水の上を浮かんでいます。
プカプカ、プカプカ。
街の中は外灯が灯す時間帯。
夜でもこんなに明るいのは外灯の他に月が顔を出しているから。
満月だった。
ハルは公園の噴水の中にいた。
妖精さんのウォータースライダーを体感をし、ぼーぜんと空を見上げていた。
楽しむどころか恐怖しかなかった。
トイレに流されるトイレットペーパーの気持ちが今ならわかる。
ハルは噴水から出た。
「寒い~寒すぎる!」
濡れた体は冬にはこたえる。
ずぶ濡れのメイド服は肌に張り付いて気持ち悪い。
服を絞って水気を取るが手がかじかんであんまり力が入らなかった。
彼らはなぜか季節感無視が多い、夏を好む気持ちは分かるが限度があるだろう。
あ
ハルはふと思い出した。
虫かごと虫あみどこかなくした。
まあーいっか!どうでもいいものだし!
ハルは歩いた、冷たい空気が体に当たって辛かった。
公園を出ると兵士が松明を持って走っていた。
道行く兵士は上を見上げ慌ただしく走り、何かに怯えてるようだった。
何かが街の上を走った、トンネルの中に入ったような暗さになった。
大きな影が月を隠してしまっていた。
ハルは何かを感じていた。
この感じは何度もあっているからすぐに分かった。
分かりたくはないが…。
魔物気配と言えようか、息まで凍り付きそうな冷たい空気は。
魔物は時計塔方へ飛んで行ってしまったようだ。
ハルは意を決して時計塔の方へ走っていった。
途中で、兵士さんに呼び止まれた。
「あの!私!人を探しているんです!通してください!」
必死に伝えるが兵士さんには通じなかった。
この先の時計塔に彼がディドがいる!
ハルは確信していた。
あの魔物はどこかで見たことがあるからだ、翼の部分しか分からないが、きっとあの魔物だと思った。
「お願いです!行かせてください!」
ハルは無理やり兵士さんの間を通り抜こうとした。
「ふんがあああ!!とうせえええええ!!」
力差があるせいかあっさり追い返されてしまう。
「なんだおまえ!ささっと避難しろ!」
「ふんがあああ!」
ハルは兵士さんと何度も体当たりをした。
そんなハルを呆れた目線で見ていた人物がいた。
「無様ですね、犬」
表情一つせずにハルに冷たく言い放つ人物、クールビューティーリリスが兵士さんを挟んで立っていた。
「主から言われているはずでは?宿屋に帰ってください。」
そういえば!そうだったけど、やることがあらから今さら帰れない!
「わっ私!あの人に会いたいの!会って伝えたいことがあるの!だからっここを通して!」
そんなハルの必死の姿を見たリリスは兵士さんに少し言葉を交わして兵士さんを下がらせた。
「あなたはバカですか?」
ハルは痛感の一発を食らった。
表情があって言うにはまだいいが、表情無しでこれを言われるとかなり来るものがある。
リリスさん怒っている?
「主の命令を無視して何を考えているのですか、死にたいのですか。」
わあ!そう来たか。
確かに今行くところは危険度MAXの区域に入るのだから言われて当然だ。
でも、ここで引くわけにはいかない!
ハルの中で動けと会いに行けとそう訴えるのだ、ハル自身どうしょうもできない感情だ。
それがあって体が熱い。
「でも会いたいの!会って自分を知りたいの!」
「はっ、何を言っているのですか愚かにもほどがある。」
「それでも私は行く!」
ハルの強い意志にリリスは一瞬だったが何かをこらえるようにぎゅうっと瞳を閉じて辛そうな顔をした。
「あなたも主もどうしようもないほどバカ者です。」
リリス……ごめんね、でもあの人に会いたいんだ。
ハルは深くリリスに謝った。
そうして、リリスを説得をしているとエセ紳士が現れた。
エセ紳士は少し困った顔をしたが、君が選んだなら…とハルの行動を許してくれた。
が!
ハルはその前にやることがあった。
「シリウス様!おりゃああああ!!」
まさかハルがそんな行動をすると思っていなかったせいなのか、彼は尻餅をついて驚いたまま止まってしまった。
シリウスの顔はポカーンとしていた。
ハルはシリウスを殴ったのである。
もちろん、ぐーでだ。
「私は!もうあなたの思惑にははまりません!二度と魔物を私に付けないで!!」
ハルの言葉にシリウスは、、、、笑った。
紳士にはあるまじき笑い方だった。
高く声を荒げ、翡翠の瞳には涙を流していた。
「ハッハッハ!思った以上にやばい!ぐふ!ふふふ!やばすぎる!!」
ハルはシリウスから数歩下がった。
変なスイッチ入れたかも…アレどうすんの!
リリスに救いを求めるが、顔を背けられた。
シリウスはよほどつぼに入ったのか周りの兵士を叩いたり絡んだりしては、変人行為をしばらくしていた。
落ち着いたころには、元のシリウスになっていた。
元々変人だが、タガを外すとますます手が負えなくなることがわかった。
二度と殴らないようにしょう……喜ばせるだけだ。
ハルは少し後悔したが、エセ紳士がやった事は許せなかった。
「君がまさか殴るなんて思っていなかったな!またやる時は言ってね!」
シリウスはこれ以上のない笑顔を振りまかれた、紳士オーラ全開。イケメンオーラ全開。
もう嫌だ!この人!
「それで、僕は君に殴られた理由を聞いたほうがいいのかな?」
その言い方は、殴られた理由を知っているようだった。
「知っているならいいです!あと!病院送りになった人に謝ってください!」
シリウスは理解が出来ないそうな顔をして言い放った。
「どうしてー?彼らは君に危害を加えようとしたんだよ?君に関わったばっかりにね!素行が悪い彼らが悪いに決まっているよ。まあー君を怖がらせた罪は重いけどね。」
ハルは言葉に詰まった。
これが彼らと人間との違いだろうか?だとすると、これが情が有るのと無いとが本当の意味でわかった気がする。
「残念ながら君のその要求は受け入れることはできないな。」
シリウスは少し笑いながらハルを見た。
ハルはゾッとする気持ちを抑えきれなかった。
「………魔物だけでも外してください。」
言葉を並べるだけでも口元が震えた。
シリウスはあっさり、いいよ!と言った。
ハルは肩を軽く掴んだ、そこはまだ痛みがある。
そういえば手当、あの人がやったのだろうか?エリーゼンさんがするにしてもしっくりこない、ソファーで寝かしていたことすらあの慌てようだったし…。きっとあの人だ!
ハルはあの人を思っただけで嬉しくなるし、勇気が出てくる。
お礼言いそびれちゃったな…。
「どうしたの?魔物外すけどいいんだよね?」
シリウスはもう一度ハルに問いかけた。
ハルは今度ははっきりと言い放った。
「はい!いりません!あんな人を簡単に傷づける魔物なんて付けないでください!」
シリウスは深い笑みを浮かべた。




