20.再会
少女はディドを見ていた。
心底怯えてきった表情でディドを黒い瞳で見つめていた。
確かこいつは…。
ディドが少女を思い出した時には少女は眠るように意識を失っていた。
ディドは周りを見渡した。
怯えて固まっていた一人の男を見つけると呼びかけた。
「おい!こいつら死なせなかったら直ぐに人を呼べ!」
男は何を言われたのか最初は理解できなかったみたいだが、ディドの威光で男はすんなり動いた。
「急げ!!」
「わっわかった!」
ディドは心臓を刺されている男に近づき、刺された傷口を診た。
意識はなかったが辛うじて呼吸はしていた。
心臓をわざとかわして刺したな……傷口も浅い。
他の男たちも同じようだった。
出血が多いのは無理もないが……。
すると、人の声が聞こえ始めた。
ディドは踵を返し少女のそばに来ては抱きかかえた。
荷物のように肩に乗せては路地裏を急いで出て行った。
ぐるぐるぐるぐる。
まわるまわるまわるまわる。
暗い闇の中をぐるぐるまわるまわる。
ああこれは…見覚えがあるような…ないような…。
ハルは暗闇の中で不思議な感覚に陥った。
これから起こる何かを私は知っているような…。
心臓がすごくバックン、バックンしているーわあい!
これは予感だ…嫌な予感、ほんとにわあい!
ちょっとテンション上げないとやってらんないわ!ほんとに!
そんなこんなで心の準備をしているとそれは来た。
黒くて危ないもの。
ハルは逃げた。
あれが何なのかはわからない、でも、逃げないといけないと体が心が警告する。
逃げないと逃げないと逃げないと逃げないと!
走る走る走る!
道なんてない、真っ黒い空間を走るだけ。
追いつかれたらやばい!
走れ!もっと早く!追いつかれないように!
追いつかれてたまるか!
「追いつかれてたまるかああ!!!」
はあ!!
ひどく、ひどく息切れをしている自分がいた。
肺が苦しい……苦しいはず…のに…。
何故か謎の達成感がある。
冬にマラソンを強制参加され、決まった時間内に走れなかったら再び走らされたような絶望を感じ…それでも、時間内に走れた達成感は半端ない!…ような感覚だった。
ようは走り切ったぜ!という感覚である。
なぞである。
夢は見たが内容が分からない…また忘れた。
でも何度も同じような夢を見ている…そんな気がする。
起きたあとが強烈な心臓の高鳴りがあるし、息切れが半端ないことが証拠だと言えよう。
今回は走り切ったぜ!の感覚が覚えている。
それだけも収穫だろうか。
ハルは落ち着かせようと深呼吸をした。
あれ
ここどこ?
ハルが眠っていた所はふかふかの濃い緑色のソファーの上で、掛けられた毛布は花柄の模様があって触り心地はいい。
ぱっと見て、どこかのお屋敷の部屋だとわかる。
シャンデリアに光が灯っていてとても明るかった。
花柄の壁紙にアンティーク家具や高価な絵、骨董品など置かれていて裕福な所だと窺がえる。
見知らぬ使用人(仮)ためにご丁寧に暖炉まで焚いて下さるなんて、なんて優しいのだ。
眠っている間、凍えなくてよかった。
ほんとに…。
「起きたか。」
ハルは声に驚き、小さく声を出した。
「ひゃい!!って痛い!」
ハルは痛みが走った右肩に触れて再び痛みを感じた。メイド服がはだけていて肩には白い湿布が貼られていた、湿布独特のにおいがした。
そういえば男に強く掴まれたんだった。
「肩の痛みは少し挫傷した程度だ。」
ハルは声の主を探した。
彼は扉に背にして腕を組んで立っていた。
ハルは息を飲む、彼、あの人、ディドがそこにいた。
黒コートは着てはなかったが、黒シャツから見える白い首筋や鎖骨が見えて一層色気が爆発していた。
妖艶すぎる!!
しかし、お顔の方は冷たくそして鋭くハルを見ていた。
怖い…。
恐る恐るハルは口を開いた。
「あの…私…。」
彼はハルがきちんと言葉にするのを待ってくれていた。
「私はどっどうなったのですか?」
あの時の事ははっきり覚えている。
私は死を感じた。
死を見た。
こうして取り乱さず落ち着いて居られるのは、自分でも驚いている。
「俺が保護した、それだけだ…聞きたい事はそれだけか?」
ハルはうろたえた。
なっなんて言えば!わっ私保護されたの!
ハルはたどたどしく答えた。
「えっとその……あの、他の人…あの男の人たちは!どうなりましたか?」
声に出すのも緊張する。
彼と面と向かって話すのは始めてだ、私からだと話すら聞いてくれないと思っていたし…会うことすら少しはあきらめていた。
「あああいつらか…知らんな。」
あっさり答えるのですね。
「たいした傷でもなかったからな人だけ呼ばして放置した。」
ん?
聞き捨てならない言葉が!
「たいした傷ってどうゆうことですか?」
確かにあの時刺されていた。
「傷はかなり浅かった、呼吸があった、死んではない…満足か?」
ハルは自分が見た光景がウソみたいだった。
「信じられないなら、今からでも病院に行って確認するといい。」
彼がウソを言う人ではないと思った。
ひとまず…安心?ってことかしら…?
「それで?」
ハルに問いが返ってきた。
彼はハルの問いを答えるつもりだ。
ハルはあわてて言葉を並べる。
「あわわ!ええっと、保護したってどうゆうことですか?あと、ここはどこですか?」
彼はふっと少し笑みを浮かべた。
ハルはオドオドする。
おっおかしいところあったのか!
「先に答えるが、ここは俺の知り合いの屋敷だ、少しの間使わせてもらっている。」
てことは、私たちがいる屋敷に帰らずここにいたことになる。
ハルのどこか足りない、足りなすぎる頭に女の文字を思い浮かべた。
女。
ご主人様が帰ってこない+知り合いの家=女。
愛人の家だったりして…
ため息をつきたくなった。
が
彼は急に扉から離れ、ハルに近づいたのである。
近づいた彼はハルに右手を伸ばし、ハルのおでこごと頭を掴んだ。
「!!!!っ」
掴まれた頭は後頭部をソファーの背もたれに押し付けられ、背ける事も動くことも出来なかった。
「最後の答えだ。」
彼は鋭く冷酷な視線をハルに注いだ。
ハルは恐怖した、命を掴まれているような気がした。
「保護したって言ったが、お前の答え方次第で本当になる。」
ああこれは…脅しだ、うそやはぐらしは絶対に許さない…そういう意味だと思う。
「わっわかりました…。」
ハルは重く答えた。
「…こちらが問う番だ、人形屋との関係は?」
そう問いかけられた時、勝手に口が開いた。
「雇い主です、あなたの使用人になるように言われました。」
「俺のことどこまで知っている?」
「伯爵という爵位を持っている方しか知りません、何もわかりません。」
「……俺は使用人を雇うつもりはない。」
「でも…私はあなたから逃げられない。」
「………どういうことだ?」
「私は人生をかけてシリウス様と契約をしました。逃げようとしてもあなたの所に戻ってしまう。」
「人形屋め……それでこの街に来たのか?」
「はい、シリウス様、リリス、テルがこの街にいると言ったから、だから…見つけたら捕まえようと…。」
ディドは何を思ったのか黙ってしまった。
「私はどうしたらいいのでしょうか?このまま死んでしまうのでしょうか?」
「それはお前が決めろ、人に答えを求めるな。」
「……私は…私は…。」
「…これまでだな。」
ディドはハルの頭から外した。
ハルはハッとした、ぺらぺらと勝手に!
「えっと私は一体?」
ハルは何が起きたのかきょとんとしてた。
ディドはハルから離れた。
「二度と人気がない所に行かないことだな、周りの奴らを襲いたくないなら。」
彼の淡々と述べる言葉にハルは間抜けな声を出す。
「へっえ?」
「あれはお前に危害を加える奴はみな襲う、使役されているくせに質が悪い人形だ。」
「えーと……話が読めないです。」
ディドはギロリとハルを睨んだが答えた。
はうわあ!!
「…大バサミを持った魔物のことだ。」
ええと、あの魔物は使役されていて、ハルが危機に陥ったために危害を加える人は見境なく襲うってことになる。
結論、ダメじゃん!私が一番危ない奴になっているよ!!
「あの~それって私、魔物に守って貰っていることになるんですけど。」
「知らんな、人形屋に聞けばいい。」
直ぐに犯人分かって喜んでいいのやら悪いのやら。
あのエセ紳士なんてものを!!!
今は怒りを抑えるのよ!ハル!一気にぶつけるために溜めるのよ!!
ディドは掛けてあった黒コートを取り、扉の方へと脚を歩ませた。
「えっどこに行くのですか!」
彼の漆黒の髪が軽くなびく、赤い紐も一緒になって揺れた。
「お前は釈放だ、契約の方は俺がなんとかする。」
ハルはわけがわからなかった。釈放って!えっ保護じゃないの?
「好きな所でもどこでも行け!」
「ちょっと待ってくだっ……。」
ディドはハルが言い終える前に出て行ってしまった。
もしかして、捕まえた方の保護だったのーーー!!




