17.街
ハルとテルはひたすた歩いた。
赤い、赤い建物がいくつも通り過ぎるとテルがつぶやいてきた。
「この街好きじゃないんだよなー」
人の姿のテルは薄茶色の髪をぼさぼさにして歩いていた。
服もよれよれのシャツにベスト緑色のチェックのズボンに土がこびりついているグーツ。
猫の姿ではあれだけ毛並みを整えているのに、人間の姿だと雑なのね。
「ねえテル、どうして人の姿になっているの?」
先に歩いていたテルに聞いてみた。
テルは両手を頭の後ろで組んで前を向いたまま答えた。
「俺だって人の姿になるのは動きづらくて嫌なんだけど…人間の街だから猫が突然しゃべったら普通驚くだろ。驚いた奴は大抵魔族を知らん奴ばっかりだから、ついでに魔物扱いでハンターか兵士を呼ばれて即処刑。」
ハルは魔族にとって住みにくい街だったことを今知った。
「私…テルがしゃべってくれて良かった。」
「そりゃどーも。」
テルが今どんな顔をしているかわからないけど、そう言わなきゃ離れてしまうような気がした。
歩くたび、慌ただしく兵士がたくさん通った。
周りの人々は避難の為か荷台に荷物を積み、商人たちは店仕舞いを始めていた。
誰もが危機感を持って動いているのに私たちは人探しをしている。
正しくは魔族探しだが。
魔物に魔族ありってとこかな。
ハルは周りにいる人々が他人事のように感じてしまう。
本当は私たちも避難すべきなのに…。
歩いていくと、本街へと入った。
途中、封鎖されている道に出くわしたが…すんなり通った。
兵士の人に呼び止められてドキっとしたが、顔を見るなり、通って良しとあっさりしていた。
普通に怪しいとは思わないのかな?
虫かごと虫網を持って歩いているのだから。
テルはごくろーさんって言ってスタスタ先に行ってしまう始末。
ほんと、あっさりだな。
本街は外街より慌ただしくないが兵の数は多かった。
相変わらず、貴族の街で家も道もきれいで歩く人も紳士や淑女が通りがかる。
さすがに、おかしいと思ったのか行く先々で視線や小声が聞こえた。
場違いが感じる。
「ほんといやーな街。」
「ちょっとテル!」
慌ててテルを止める。
それを聞こえたのか視線や小声が痛く感じる。
問答無用にテルの腕を掴んで強引に路地に連れ込む。
ちょっとツラかせや!
「なっなんだよ!」
テルは嫌そうな顔した。
「なんだよはこっちのセリフよ!テルさっきからなんなの?宿の時の態度と180度違うわ!」
ハルはテルにきつく問い詰めるが。
テルは顔をそらしながら言った。
「ほんと嫌なんだよ!」
「はああ!」
「だって!この街おかしいんだよ!こんな皮肉な街始めてだ。」
「皮肉ってなに。」
「じゃあ何で外街の家は赤いんだ?」
ハルは戸惑った。
「それは…領主が決めたんじゃあないの?」
「その領主はどうして決めたんだ?」
問いはすぐに返ってくる。
「それは…」
「脅しているんだ…あれは、そう意味だ。」
ハルはテルが言っていることがわからなかった。
「今もここにいる貴族たちはどうして避難しないんだ?」
たっ確かにおかしい…外街の人たちは慌ただしくしているのに。
魔物は上空に消えたってことは飛ぶことができる魔物だ。
いつどこで降って来てもおかしくない。
「のんきな奴らだなーほんと!もし、外街が炎に包まれてもあいつらは平気なんだぜ!」
ハルはようやく理解した。
「うそ!なんで!早く避難したほうがいいのに!」
「どうせアレのせいだろ。」
テルは金色の瞳を上げた。
それは、時計塔だった。
魔を払うとされている鐘は今日も美しい音を奏でていた。
「へっ兵士の人たちは何をしているの!このままじゃあ!」
「たぶん無駄だぜ!もう国は動いているのに動かない奴らが悪い。」
ハルは言葉が詰まった。
「領主はずっと前から言っていたんだな…この街がこんな風になる前にずっと、貴族たちに警告はしていたんだ。」
テルはハルを置いて路地を出た。
「早く行こうぜ!夜までに見つけないと!っておい!」
ハルは駆け出して、今ここにいる人たちに呼びかけた。
「はっ早く逃げてください!魔物が襲ってきます!避難をしてください!!」
何度も何度も呼びかけても彼らに届くことがなかった。
すると、兵士の一人がハルに近づき少し言葉を残して立ち去った。
「君はよくやったよ、もういいんだ…あとは我々が引き受けるから君は早く避難しなさい。」
ハルはしばらく立ったまま動かなかった。
テルはハルの手を掴んで歩いた。
ハルはテルの行動に驚いたが黙ってテルについて行った。
着いた所は公園だった。
ハルは前回、悪ガキどもによって追い出された場所であった。
いないよね!いないよね!子供いないよね!
きょろきょろしながら公園を見渡した。
テルはハルの落ち着きのなさに慌てた。
「べっ別に変なことをするつもりはななないからな!だんじて!」
「へ?」
ハルはテルが何を言っているのかわからなかったが、それどころではない。
「ほらっそこに座れ!そして、休め!いいな!」
テルはハルを誘導しベンチに座らせた。
ハルは座った瞬間、力が抜けた。
「あっ」
ハルの黒い瞳が濡れていた。
「泣くつもりはなかったのに……。」
テルは気まずそうにハルの隣に座った。
「わわ悪かった!そんなつもりはなかった!言い過ぎた!」
「そんなテルが気にすることはないよ…ただ悔しいなって思っただけ。」
ハルはそんな思いを吐き出すように息をついた。
「こんなんじゃあ!あの人に会っても追い出されそう!」
テルはばつが悪そうだった。
少しの間だけハルとテルは無言が続いた。
「そのなんだ…なんとかなるって!兵士もたくさんいるし、あの人形屋もいるしさあ!」
テルはフォローするが…。
「うん、そうだね。」
流されてしまった。
「……………わわあったよ!」
テルのいきなりの言葉にハルは驚いた。
「えっどうしたの?」
「お前は、ここに居ろよ!代わりに探し出してくるから!」
「ちょま!!」
ハルが待って言う前にテルは猫の姿になり、走り去ってしまった。
服はご丁寧に風呂敷に包んで猫の背中に乗っけて行った。
テルの早業にハルはぼーぜんとしていた。
はえーよ!!
ああ何やっているんだろう…私。
今さら何か出来るわけでもないのに、いい子ちゃんぶってしまったのは正直恥ずかしいし。知らないことばっかりで、テルたちについていけないくて悔しい…。
ハルはベンチに背中をあずけ、空を見上げた。
雲一つない快晴だった。
それと比べて、地上では兵士たちの緊張が伝わっているか不穏な空気が流れていた。
「ウゼーんだよ!あいつら!大丈夫って言っているのに家から出るなって!ホントウゼー!」
ハルははっとした。
子供の声が聞こえたのだ。
貴族の子供たちだろうか、公園に少人数で現れた。
こどもがあらわれた。
たたかう
まほう
どうぐ
にげる
当然、逃げるでしょ!!
たたかう
まほう
どうぐ
にげる ←
出口をふさがれてしまった。
にげることができなかった。
たたかう
まほう
どうぐ
にげる
何かないの?
そっそうだ!道具よ!
たたかう
まほう
どうぐ ←
にげる
たたかう むしかご
まほう むしあみ
どうぐ ← 動物の毛 ←
にげる
動物の毛ってなに!
もたもたしていたら来てしまった!
「ねえ、何してるの昼間から?なんで虫かご持ってるの?季節外れだよね?」
ハルは質問攻めを受けた。
その場から動けない!
たたかう なにもおぼえてない
まほう ←
どうぐ
にげる
「もしかして!ニートで不審者!」
ハルは一撃を受けた。
ダメダメが顔に出てしまった。
ダメがバレてしまった。
「ダメニート!変人!!」
ハルは会心の一撃を受けた。
大人の威厳が底についた。
画面が真っ赤。
恥ずかしさでなにも選択できない。
ゲームオーバー!!
「わあああああ!!うるさーーい!!悪ガキども!ととっと家に帰れれええ!!家に帰れれれれれ!!!」
ハルは爆発した。
「うわわわあああ!!魔物だだあああ!出たたたああああ!!」
子供たちは公園からいなくなってしまった。




