14.メイドさんとメイド
「さてさて、君はいつになったら彼を社交界に出してくれるのかな?」
「ふえ?」
「僕、そのためにここにきているんだけど…。」
最後のホットケーキを食べ終えて、お皿を片つけようとしていた時に言われた。
ハルは間抜けな声を出してしまったが、社交界という単語に覚えがある。
「あっ忘れてた。」
「ちょっとちょっと、困るよ出してくんなきゃ!彼が嫌がっても!引っ張り出す!」
シリウスがもう!ダメだぞ!とほほを小さく膨らませて言った。ぷんぷん。
「……すっすみませんでした。」
ハルはシリウスの反応に戸惑いながら謝った。
すると、さっきまで怪訝な顔でいたテルが口を開いた。
「なあ!いくら何でも強引過ぎなんじゃないか!勝手にディドを伯爵にしたり、社交界出せってさ!」
テルが問い詰める言い方をした。
ハルはただ黙って聞いていた、これはテルとあの人の問題だと思った。
すると、シリウスは翡翠の瞳を濡らした。
ぎょお!!
「おっおおおおおい!なな泣くことか!」
テルは動揺し、猫のしっぽを震えさせていた。
「うううう~~~、僕だって僕だって!」
紳士が泣くとここまで形無しなんだ…。
リリスはシリウスに白い布を渡した。
シリウスは布を受け取って鼻をかんだが。
「この布くさーい!靴下だあ!」
さすがリリス、抜かりはない。
シリウスはうなっていたが次第に口を開いた。
「僕だって仕事でしていることだし、この件は堅くてね。あのお方が許してくださらない。」
テルはシリウスのあのお方に反応した。
「まさか!ウソだろ…。」
ハルは気になって聞いてみた。なんだか嫌な予感。
「あれだ!この世で一番怖い魔族だ!」
「え?」
この世で一番怖い魔族?
「魔王。」
答えたのはテルとシリウス、同時だった。
まおうマオウ魔オう…魔の…王…魔王!!
「………………うううっっそそそおおおおんんんんんん!!!!!」
ハルのうっそんは屋敷の外まで聞こえた。
こんな身近に魔王の回し者がいたとは!
テルは先に納得していたみたいだった。
爵位を授けることができるのは一握りの存在。
それは王しかいない。
魔族の王は魔王。
まじか。
「ディドが嫌がるのはわかるぞ、あの魔王だし。」
テルはそう言うが。
人間にとっても相当嫌がると思う。
「そう、あの魔王だから僕逆らえないし、人質されているし。」
「「人質!!」」
テルとハルは同時だった。
くうっと辛そうにシリウスはきれいな顔を歪めた。
驚いたまさかの人質とは!さすが魔王って言われていることはある。
余程大事な人を人質にされているのだろう。
あんな顔初めて見た。
「ただの犬ですよ。」
リリスは新聞を広げながら淡々と言い放った。
………………………。
……………。
…………。
…。
「さあて!お皿洗わないと!あと、屋敷の中修理しなきゃ!」
「俺も手伝う!」
ハルとテルは颯爽と立ち去ろうした。
が。
「待って待ってよーー!!可哀そうな愛犬がどうなってもいいの!!」
シリウスは必死に呼びかけた。
とりあえず無視を決め込む。
「黄昏の君ならわかるでしょう!同じ愛玩動物なら!!」
テルはぐううと辛そうだった。
なんで?
「あああ!この時もあの魔の手に掛けられていると思うと!」
「ぐはっ!!」
おい!
テルはこの時すでに変わってしまった。
「わかった!協力するよ!愛玩動物のために!!」
「いいのかい!こんな僕でも!」
「何言っているんだ!愛玩動物の為に働いている人をこれ以上バカにできないよおお!」
「ありがとう!!一緒に魔の手から助け出そう!!」
「ああ!」
輝かしい友情が芽生えた瞬間だった。
テルはあんなに嫌いだって言っていたのにあんなにキラキラさせちゃって。
エセ紳士は初めて友達ができたみたいな顔をしてるわ。
ああ!握手なんかしちゃって!人と猫が握手してるわ。
「あの~リリスさん、あの、犬ってほんとに人質なんですか?」
恐る恐るリリスに聞いてみた。
「いいえ、正しくは保護ですね。」
「えっ保護ですか?」
すると、リリスはメイド服特有のフリルいっぱいのエプロンドレスの懐から写真を取り出した。
それには、可愛らしい白いプードルの姿があった。
「可愛いプードルですね。」
「この写真は、陛下に保護して頂いた時のです。」
「全然元気じゃないですか!」
リリスはもう一枚の写真をハルに見せた。
「そして、我が主がお世話した時の写真です。」
ハルは目を疑った。
そこには、原形をなくしたプードルの姿があった。
プードル特有のくるくるした毛は無く、ほとんど肌が剥き出しで、残った毛を色を染めたのだろうか金色と黒でしましまに塗り。頭の上にはでっかい金色のリーゼントというのだろうか、チンピラとか盗賊とかする髪型がそこにはあった。しまいにはドクロの装飾がたっぷり飾られていた。
「なにこれ!?えっプードルちゃん?とんだヤ犬になってますよ!」
「主は、流行を取り入れた姿だと仰っていました。」
「逆に劣化していると思います。」
「ちなみに、名前はキャシー、メスです。」
オスの格好をされたのか!
「あまりにもキャシーに対する愚行が続き、ついに床につきました。」
「……えっと、リリスさんはお世話しなかったのですか?」
「私は犬は苦手です…。」
リリスは無表情だが、なんとなく落ち込んでいるような気がした。
あんまりなついてくれなかったのかな…。
「主は、死神なので無意識に生き物を死を迎えさせようとする力があるようです。」
すっごくわかるのは何でだろう!悲しくなってきた!
弱っていくキャシーを一人で見てきたんだな…。
「そんな時に、陛下からお声を掛けてくださいました。保護を条件としてこの件を任されました。」
「エセ紳士もとい!シリウス様はその魔王陛下のこと。」
「主には、何度も申し上げたのですが聞き入れてはくださらなかったのです、陛下はそれを知っているからでしょうか…主にうそを。」
リリスが何度命が危ないと言っても、シリウスはどうせ大丈夫大丈夫!の一点張りだったと思う。
リリスはそのことを思い出したのか濃い紫色の瞳をふせた。
シリウスは愛犬を人質されていると思っている。
だけど、本当は愛犬を守るために保護してもらっているだけなのである。
微妙にずれているが彼らの目的は分かった。
「ぐっはあ!」
ハルはリリスに心を打たれた瞬間であった。
「わかった!協力するよ!キャシーのために!!」
リリスは表情一つしないが、少しだけ微笑んでいたような気がする。
気がするだけど、ハルにはそれだけで笑顔となった。
そうと分かれば、また、あの人に会わないといけない。
未だに全く、あの人の事がわからないけど。
出てけって言われたけど…ただ言われただけのこと。
あの人は私の事知らないし、きっと事情も知らない。
こんなことで、へこたれたらいけないね。




