13.白紳士と猫
ハルはここ1か月の事を彼らに話した。
朝食を取りながら。
「エスカルゴ食べたいなら、そこらへんのかたつむりなら取ってきてもいいですよ!」
この時期、冬眠しているけどね…。
とハルは結構な皮肉を言ったはずが…。
彼らはテルと私の分の朝食を食べ始めてしまった。
ちなみに、目玉焼きとソーセージ、小さなパンだけ、とても質素なものなんだけど。
「ねえ、ケチャップなーい?ぼく目玉焼きにはケチャップなんだけど。」
「何を言いますか主、目玉焼きにはマヨネーズではありませんか。」
なんて斬新な。
と軽くつっこんでいると。
「あれ、君らは取らないの?」
「それが私たちの分だったのですけど……うん?君ら?えっ」
魔族の一人と一匹はここにはいないと二人にそう話したはずのに、シリウスの言い方に疑問に思った。
「半獣のテル君はずっとここにいたよ。」
「えっどこ!どこに!」
ハルはあたりを見渡すが見つからない。
「君の足元。」
えっと言う前に視線の方が早かった。
「よっよう。」
猫の姿で気まずそうにテルは声を出した。
「テル!!」
「うぎやあ!くっ苦しい!おっまえ!苦しいってば!
ハルは間をおかずにテルに抱き着いた。
「テルごめん!私言い過ぎた!テルはただの猫じゃないよ!私の大事な友達だよ!!」
ここ1か月を思い出すとテルがいなかったら私死んでたかもしれない、寂しくて、怖くて、とてもとてもこの屋敷にいられなかった。
「わあたって!!だから!放してええ!くくるぢい!」
「あっごめん!」
テルを放したとたんにテルはぐったりしてしまった。
「……ぢるがと思った。」
テルが息だえだえの中でテルは答えた。
「おお俺も悪かったし……ちょっと寂しいこと考えていたし、それに…俺もハルと一緒の立場だしな。」
テルが下を向いて言い出したことにハルは驚いていた。
「魔族が謝った!」
「なっなんだよ!魔族が謝って悪いのかよ!」
「だって!魔族って悪いこと謝らないと思っていたんだもん!」
「お前なあ!」
再び言い争いが始まろうとした時、制したのはシリウスだった。
「魔族の事を知らないのは無理ないよ、だってここは人間の国なんだからさ。」
ハルとテルは口を開くのをやめた、シリウスは続けて答えた。
「(例え、人間の国でも人の情を持つものと持たないものがいる事を知っておきたまえ。)」
シリウスは先ほどと違って真剣な眼差しで話した。
「いや、君は身を感じて知っているはずさ、人間の君ならね。」
彼の翡翠の瞳がハルを指す。
ハルが思い出すのは名無しの事だった。
名無しはディドを狙って襲ってきた、ディドはもしかしたら名無しに食べられて殺されていたかもしれない。
まるで、弱肉強食。
テルもディドも本来ならハルを食べるか殺すかどちらかだったということになる。
でも、彼らはそうしなかった。
ディドは彼はハルに出ていけは言ってもハルに死を与えることはしなかった。
これが、名無しと彼らの違いと言えよう、何かしらの人間に対して情があるから人間と付き合っているのだろう。
私は彼らに生かされているの?
ハルが考えにふけっているとテルがシリウスをにらんだ。
「(それは人間の考えだろう!ハルをお前らの型にはめるな人形屋のくせに。)」
テルはハルの目を見て言った。
金色の目が一層引き立つ。
「ハル!こいつの話を聞くな!また騙されるぞ!!」
ハルは、はっとしてシリウスに警戒の目を向ける。
あぶない!騙されるところだった!
何に?って聞きたい事だが聞かないでおこう。
たぶん聞いてもわけがわからないと思う。
「(ひどいなあ、ただ知ってほしいって言っただけなのに……黄昏の君には厳しいね。)」
テルはシャーと爪を立てる。
わあわあ!なんか空気悪い。
さっきとは違って張りつめている。
「とっところでさ!お腹空いたし!そっそうだ!テルが好きなホットケーキ焼いてあげる。」
ハルは張りつめた空気をなんとかしょうと声を上げた。
「そうだね!今は食事を楽しもう!」
エセスマイルでシリウスが言い出した。
まだ食べるんだ。
テルはしぶしぶながらホットケーキが焼けるのを待った。
気になることはたくさんある。
まず、聞きたい事は。
「シリウス様あなた一体何者なんですか!」
「僕の前にホットケーキを置かなかったのはそれのせいなんだね…。」
残念そうにそう答えるが、負けてはいられない。
「そうです!答えてくれないとホットケーキはあげません!」
テルとリリスにはきちんとホットケーキをあげている、前回と比べて焦げてはいないしトッピングとしてジャムやバターまでのサービス。
「さあ!答えてください!ホットケーキ(自信作)が無くなってもいいんですか?」
さすがにバカらしいかもしれないが…シリウス様は食いついた。
「わかったよ、話すよ僕が何者かってことでしょう?」
「そうです!はぐらかしたりしないでください!」
「僕は人形屋だよ。」
「……はあ、それテルも言っていましたよね。」
「ええなに!そのガックリは!」
ハルはちょっと期待してしまった。
ってきり、魔法使いか何かと、じゃなきゃ私に変な契約取り付けないのに……。
「人形屋って言っても今は休業中かな?別の仕事で立て込んでいるし…ってその顔!」
ハルは怪しいという顔を出していた。
「本当だって!ほらっ!」
シリウスは上着の懐から小さな人形を取り出した。
手のひらサイズのお姫様人形だった、木を彫って作ったのだろう形が繊細で顔の表情まで細かい、桃色のドレスも刺繍がされていて可愛い。
シリウスはその人形をテーブルに乗せた。
「さあ、可愛いお姫様踊ってごらん。」
すると、座っていた人形が突然動き出し、ご丁寧にドレスの裾をつまみお辞儀をし、つま先を立てて優雅に踊りだした。
ハルは糸か何かで動いていると思い、じーと人形を見つめるが。
「うそお!勝手に動いている!」
「お気に召したかな?」
「すごい!どうやって動いているの!」
無邪気に小さな子供みたいに聞いてくるハルの反応にシリウスはふと笑う。
「僕は魔法を使ったんだよ。」
「えっえええ!シリウス様魔法使いなの!?」
なんて素晴らしいんだ、おとぎ話の魔法使いじゃないか!
ハルは感激しながら踊るお姫様を見つめた。
悪ノリしたシリウスは、よくわかったね!僕は魔法使いさ!!と言い出した。
テルはすかさず、否定した。
「そんなわけがないだろう!こんな奴がご大層な魔法使い様かよ!」
「えっ違うの…違うんだ…。」
ハルはガックリと顔を下げてしまった。
悪ノリしたシリウスは、ハルをなぐさめながら言い出した。
「女の子の夢を壊すなんて非常識な猫だね!」
「お前いい加減にしろよ!」
やれやれ、シリウスはあきれた顔をテルに向けながら今度こそ、本当の事をハルに打ち上げた。
「僕はこの力…人形を操る力を使って人形屋を営んでいるんだ。そう、僕は魔族だ。」
「えええ!あれ、驚いてないね?あれ?どうして!」
シリウスはハルが驚くと思っていたのか驚かなかったことが逆に驚いていた。
ハルは、なんとなくだがこの日まで疑問に思っていたし、人ではないのは分かっていた。
魔法使い時点で。
「なんだ、僕が人間じゃないこと分かっていたんだ。」
シリウスはツーンとプイと顔をそらした。
「じゃあ、僕が死神だって事も分かっていたんだ…。」
「えええええーーーー!!」
「えっそっちは驚くんだ!!!」
死神は予想外だった。
死神は、人の魂を取って廻るって言われてる存在だ。
私がいた村には、命にかかわる病気になったり、大怪我をして死にそうな時は、死神が迎えに来たとよく言われてた。
私は死神に雇われたのか!!
どうりで、死に目に会っているわ!
ハルは激しく動揺した。
そして、シリウスからできるだけ離れた。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ!死神って言っても今は廃業しているから。」
死神って職業なんだ!
「僕は魂とか取ったりしないし人を襲わないよ!むしろ守る方かな。」
守るって全然守れてないけど!!
ハルは鋭いツッコミを心の中で叫んだ。
シリウスが死神であるならリリスは?
ハルの問いを言う前にシリウスが答えた。
「リリスは、僕の使い魔的な感じ!」
軽いノリでリリスの頭を撫でようとするが…。
「パシリみたいな扱いしないでください。」
リリスは、ホットケーキを先に食べ終え新聞を広げていたが、邪魔という感じでシリウスの手を叩いた。
無表情だが、さわんじゃねえ!というオーラをハルは感じた。
「手厳しいね、僕の可愛いメイドさんは。」
シリウスは叩かれた手をぶらぶらさせながら言った。
「ところで、そろそろホットケーキを食べさせてほしいな。」
「あっそうだった。」
あまりにも驚きすぎてホットケーキのこと忘れてた。
同時にさっきまでシリウスのこと警戒していたのに、どっかおかしいエセ紳士を見たらちょっとだけ大丈夫ような気がした。
テーブルの上で踊っていたお姫様人形は、いつの間にか踊るのをやめ、最初の位置と変わらずに座っていた。
「それで、黄昏の君はお気に召したかな?」
シリウスはテルに問いかけるが…
テルはホットケーキをほうばりながら、むうっと怪訝な顔をした。
「テル?どうしたの?」
そんなテルを見たハルは、テルのふわふわの体をなでて機嫌を直そうとするけど、テルの発言でその動きは止まった。
「俺、こいつ嫌い!」
テルの言葉でハルは戸惑ったが言っていることは分からんでもない。
「黄昏の君も手厳しいね。」
シリウスは小さな笑みをこぼし、まるでテルの反応を知っていたようだった。
シリウス様は自称死神でリリスはクールビューティーメイド、テルは、猫(半獣)。
ハルが分かっていることはまず、今ここにいる人たちの事。
じゃあ、あの人は?




