11.名無し
終わった。
彼のベットの上でテルを抱き寄せてそう思った。
今度こそほんとに。
そう思った時。
「ぎゃあぎゃあうるさい」
ハルが彼の声を聞いたのは初めてかもしれない。
こんな男の人の声で。
声だけで、空気が変わるなんて。
「ディドーーーー!!」
テルが歓喜した。
ハルの手元からすぐに彼のそばに来て言った。
「お前!どこにいたんだあ!俺もうダメかと!」
テルが涙ぐんでしまう。
猫の手で自分の目をごしごししながら。
彼はお風呂にでも入ってきたのだろうか。
ざんばらの黒髪が濡れていて、黒シャツが濡れ髪のせいで少し濡れていた。
タオルを肩にかけ、涙ぐんでいたテルを撫でていた。
彼の手は大きくきれいで、ごつごつしてなくて、テルを撫でる手つきは優しい。
テルは嬉しそうにゴロゴロと鳴いていた。
私が撫でてもゴロゴロまで鳴かなかったのに。
そんなつかの間、ディドの登場で忘れていた存在がいた。
男がディドに向かって手を伸ばす。
ハルはとっさに叫んだ。
「あぶない!」
ディドは、その手を片手で振り払った。
振り払っただけで男は後ろの方に飛んでしまった。
「なんだこいつは」
ディドが聞くと。
「名無しだよ!ねーちゃんが招いたんだ!」
すると、ディドはハルを見た。
ハルはひぃと息を止めた。
私はこの人にとってはよそ者だった。
飛んで行った男と私は一緒かもしれない。
ハルは死の予感をした、そして、テルの言い方に恨んだ。
ハルは顔をそらした。
突然、男の叫びが聞こえた。
「ハクシャク!ハクシャク!ハクシャク!ハハクシャククク!!ダダダダダアアアアアアアアアア!!」
とっさに、ハルは耳を塞ぐ。
男は人間の口を開いた、大きく、大きく、口を割いて。
「ミツケタ、ミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタタタタタタタタタタタアアア!!」
男は大きく体をくねらせねじった。
ゴムみたいにねじって。
「なんだお前、俺を食いに来たか」
ディドは少しおかしそうに男に言った。
「俺を食ってもまずいだけだ。」
「おっおいディド!何考えてー!?」
ディドの言葉にテルは戸惑う。
「食わせてやるよ、好きに食え」
「なっ」
「食えたらの話だがな。」
すかさず男は、大きく口を広げ変形させる、カエルみたいに口を開きディドを一飲みした。
「うそっ」
ハルもテルも唖然とした。
一飲みしたあと、消化のためかグネグネ揺らしていたが動きが止まった。
「えっなんなの?」
ハルはただただ見ることしかできない。
男は動きが止まったままだが、突然、青い光が出てきた。
青い光はメラメラと動き、まるで炎ようだった。
燃えている。
燃えた灰が飛ぶ。
青い炎が男を包み込んだ。
炎の中から黒いシャツの男が出てきた。
ディドは座ったまま、先ほどと変わらずの格好だった。
男は名無しは燃え尽きた。
青い炎とともに。
残ったのは灰だけだった。
灰だけでも存在したことになるのだろうか。
それをわかるのは、名無しかもしれないし、この場に居る私たちかもしれない。
ハルは、声が出なかった。
今度は、私の番。




