第2話
衣弦は他人に対して極端に関心が低かった。自分でいくら考えても全く分からない。
事故で両親を亡くしたせいか、衣弦を引き取った叔母夫婦の非情とも言える虐待のせいなのか、それに嫌気がさして叔母夫婦のもとを離れたった1人で暮らしているせいなのか・・・
もし他の人が聞いたら「それしかないだろ!」と声を上げて指摘するだろうが、衣弦は不思議なことに今の自分の性格をつくった要因がそれらの出来事のせいとは思えなかった。
両親が死んだ時は、人並みに悲しみはしたが、よくよく考えてみると両親が生きている時からこんな性格だった。
叔母夫婦に関しても、二人いっぺんに死んでくれないかなぁと常々思っていたがそれだけだ。
いい加減煩わしくなって、両親が遺してくれた遺産を頼りに(叔母夫婦ははじめから遺産目当てだったらしいが)一人暮らしを始めたが、悠々自適に過ごしている。
当然、叔母夫婦の家にいた時よりも快適で、大変満足しているのが現状だ。
結局、衣弦の性格は元からこれなのだ。こんな自分のことを気に入ってくれる友人や恋人が、生涯の中で1人でも見つかれば万々歳だ。
そう勝手に結論付けて、衣弦は自分の教室である3-Dのドアを開けた。先に登校していたクラスメイトから視線を受けるが、衣弦の姿を認めると興味を失ったかのように友人との会話にもどっていく。これが衣弦にとっての日常だ。しかしクラスメイトの冷たいとも言える反応に微塵も気にした様子を見せず、衣弦は自分の席に着き鞄から本を取り出して静かに読み始めた。途中で雨竜が慌てて入って来たが、衣弦の視線は本から動かない。
そんな彼のことをじっと見つめる1人の女子生徒がいたが、読書に集中している衣弦はその視線に気付く事はなかった。
3限目の授業が終わり、4限目が始まろうとしていた。昼食の時間も近づき、早弁する生徒も少なくない。性格に難があるといっても、衣弦も人間だ。グーグーなるお腹を飴玉をなめることで慰めながら、次の授業準備をしていた。合間に雨竜が絡んでくるが、いつものことなので適当に流していると、クラスの女子生徒から射殺さんばかりの視線を受けた。何故だ・・・と腑に落ちないながらも鞄からノートを取り出そうとした時、教室のスピーカーからピンポンパンポーンという音とともに教員と思われる男の声が大音量で響いた。
「全校生徒の皆さん及び先生方、すぐに講堂に集まってください!!繰り返します・・・」
随分慌てた様子である。大の大人が取り乱している声にクラスメイト達もざわざわし、ざわめきが波紋のように広がっていく。
「阿形、どうする?」
うるさくなった教室の中で、珍しく真面目な顔をした雨竜が衣弦に顔を向けた。真面目な顔のためイケメン度も上がっている。
「どうもこうも、集まれっていうんだからとりあえず講堂に行くしかないだろう。教師まで含めて全員なんて普通じゃない。きっと何かあったんだろ。」
「だな。でも、阿形。俺さっきから何かイヤーな予感がするんだよね。俺の勘、結構当たるんだぜ?」
「あほらし。その勘が当たっているかどうかも講堂に行きゃ分かるだろ。」
そんな無駄話をしながら講堂に入ると生徒達の騒がしい声が耳に入ってきた。中にはこの騒ぎを楽しんでいる輩もいるようだ。教師達は黙らそうと注意をしているが収まる気配は一向にない。
その時、壇上に校長が上がってきた。
それに気が付いた生徒達は徐々に静かになってく。そして、ついには物音1つしなくなった。
それを見計らったかのように校長の口が開いた
「皆さん、落ち着いて、聞いて、ください。」
何かを噛み締めるような言い方をする校長に、一体何が起きたのか聞き漏らすまいと耳を傾ける生徒と教師たち。
次の瞬間、校長の口からとんでもない事実が告げられた。
「今現在、この町はゾンビで溢れています!」
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