第1話
短いです。
「あぢぃ〜」
これでもかというくらい日が差しているある夏の日、たくさんの生徒が高校に向かう中、阿形衣弦の姿もあった。衣弦は「あぢぃ、あぢぃ〜」とぼやきながら死んだ魚のような目をしてふらふらと高校に向かっている。中背中肉、容姿も酷くなければそこまで良くもない、どこにでもいる普通の高校生だ。ただ、特徴をあげるとしたら少しつり目なことぐらいか。この目のせいで周りからはいつも不機嫌そうだと思われている。まぁ、周りからどう思われようと気にしていない本人からしたら、そんな評価はどうでもいいようだが。
「よう、今日も辛気臭い顔してんな!」
衣弦の肩を叩きながら声を掛けてきたのは同じクラスの岩田雨竜だ。雨竜はまさしくイケメンというやつで、背は衣弦の頭一つ分高く、さらさらの茶色の髪をなびかせ(雨竜曰く、染めてなくて地毛の色らしい)、目鼻立ちが整った顔にキラリと白い歯を輝かせながら衣弦に笑いかけた。大抵の女ならこれで1発だろう。噂では「雨竜君をいつも見守り隊」というファンクラブまであるらしい。
「ああ、お前か。とりあえずそこの車に轢かれてこい。残骸は海に還しておくから。」
鬱陶しそうに衣弦がその爽やかスマイルを流す。
「ひどくね!?」
と言いつつも雨竜は嬉しそうだ。なにこいつドMなの?と衣弦は顔には出さず心の中で思うだけにしておく。顔に出すと雨竜はさらに嬉しそうにするからだ。なんでこいつは俺に絡んでくるんだろう、といつも衣弦は思う。スポーツも出来るし勉強も完璧な雨竜はなにかにつけて、衣弦と交流を持とうとする。衣弦にとって雨竜はただのクラスメイトでそれ以上でも以下でもないが、雨竜にとって衣弦は親友かなにかなのだろうか。どれだけ考えても分からないし、考える時間が無駄なので衣弦は考えることをやめた。
「ところで岩田、ズボンのチャック空いてるぞ」
「えっ、うそっ!?」
変態に絡むのが面倒で適当な嘘をついて逃げることにした。雨竜はズボンを確認しながらわたわたしている。その隙に衣弦は歩くスピードをあげ、1人校門をくぐるのであった。
そんないつもの光景の中、今日もいつも通りの1日だと、この時までは誰も疑っていなかっただろう。
「アレ」が起こるまでは・・・
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