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4話 魔王城でお茶会を

 目の前の琥珀色をしたケーキを、フォークで一口大に切り落として、私はそれを口へと運んだ。


「っ!?!?」


 口に入った瞬間、ケーキは程よくほどけて口から鼻へと強烈なキャラメルの風味が駆け上がって行った。

 しかし、だからと言って決してクドイ訳ではなく、スッキリしとた甘さが私の舌を楽しませる。

 残ったのは仄かな清涼感と、二口目を求める欲求だった。

 嗚呼、なんと至福の時だろう……

 まさに、至高の一品!

 王都でも、これほどの品にはそうそうお目にかかれる物ではない!

 私は、すかさず二口目を切り落とすしパクリと喰いつきむしゃむしゃと咀嚼そしゃくした。

 ああ……これはマズイ(・・・)マズイ(・・・)ですよ……

 私の手は、自分の意思とは正反対にケーキと口との間を行ったり来たりした。

 止まらない……止められない……

 あっ、という間に一皿目を完食し、気づけば私はドロシーとかいうメイドに二皿目を要求していた。

 後悔したのは、真っ白なクリームがたっぷりと乗ったケーキが目の前に置かれた瞬間だった。

 やっちまったよ……

 最近長旅の影響か、折角お腹のぷにぷに感がなくなってきたところだったのに……

 これでは元の木阿弥だ……

 私は、項垂うなだれながらも目の前のケーキへとフォークを伸ばした。

 そう、ケーキに罪はない。食べてあげなくては可哀想ではないか。


 パクリ


 ……おいしい。

 もっと食べたい、でも食べるとお腹がぷにぷにになってしまう……それは嫌だ。


「うっ……」


 見れば、向かいに座っていた僧侶も渋い顔をしていた。

 私と同じことを考えているのだろう。

 とてもおいしい→食べたい→食べたらぷにぷに→ダイエットが大変→でも、すごくおいしい→食べたい、でも……

 そんな思考ルーチンが見えた気がした。

 分かる! すごくよく分かる!

 私と僧侶とはそんなに仲良しではなかったが、それは痛いほどよく分かった。

 別に僧侶の事が嫌いとか、特別仲が悪い訳ではない。

 勿論、好きなところもあれば嫌いなところだってある。

 だけど、そこは長い間一緒に旅してして来た仲間だ。信頼をしてるし頼りにもしている。

 ただ、プライベートまで一緒にいるようなことはない、というだけの話に過ぎない。

 うっとおしい程近づき過ぎず、疎遠になる程遠過ぎず……

 口も利きたくない程嫌いにはなれなくて、四六時中顔を合わせていた程好きにもなれない。

 それが私たちにとっては“適当”な距離感なんだと思う。

 それは、僧侶だって同じだろう。

 きっと、私たちはどこかが似ているのだ。私はそう思っている。

 ……おい。

 今“似てる部分って胸のサイズじゃね?”とか言った奴、表出ろやっ!

 私の命と引き換えに放てる終極殲滅呪文で消し炭にしてやんよっ!!

 ……おや?

 今、一瞬何か聞こえたような気がしたけど、気のせいか? まぁいいや……

 とにかく、目下の最大級の問題はこのケーキを幾つ食べるか? ということだ。

 食べるだけ食べて、後でダイエットをするか……または、二度と出会えないかも知れない至高の一品を前にただただ我慢するか……難しい問題だった。

 どうして世の中というのは、こうもうまく行かないものなのだろうか……

 どうして、太るときはお腹周りからなのだろうか……

 これが、胸から太っていく(・・・・・)となれば、こんなことで悩む女はこの世から居なくなると言うのに……ままならぬものである。


「しかし、これから我々はどうするべきなのだろうな……」


 戦士が一人お茶をすすりながら、重たい雰囲気を纏ってそんなことをぽつりと呟いた。

 うぉいっ!

 折角、現実逃避をしていたって言うのに、この筋肉ダルマの所為で強制的に現実に連れ戻されてしまった。

 これではおいしいケーキも、喉を通らなくなってしまうじゃないか!


 ぱくっ……もぐもぐ……ごっくん


 どうしてくれる、筋肉ダルマ! 私の至福の一時を返せ!


 ぱくっ……もぐもぐ……ごっくん……あ~おいしぃ……


 私は、ケーキを頬張りながら、戦士を睨み付けた。

 しかし、そこは所詮筋肉ダルマ。

 私の怒りなど露知らず、ずずっと音と立ててお茶をすすっていた。

 その姿は実年齢より、遥かにジジ臭く見えた。


「だな……あんなん(・・・・)見せられると、ぶっちゃけやる気なくすわぁ~。

 魔王ってあのメイドより強いんだろ? はい、死んだ……俺ら死んだわ……

 もぅ……いっそ、逃げるか? 緊急脱出用の魔方陣もあることだしさ……

 んで、王都に帰ってさ、ジィさんに言うわけよ。

 “奮闘するも一歩及ばす魔王に勝てなかった”

 とか、

 “今一歩のところまで魔王を追い詰めたが、魔王軍の精鋭に阻まれて逃げられてしまった”

 とかさ……」


 流石、勇者さま。発想がゲスぜ。

 勇者さまは行儀悪くテーブルに突っ伏して、用意されたケーキをフォークでチクチクしながらグチグチ文句を言う。

 ケーキで遊ぶなっ! このクズ勇者っ!

 いらないなら私に寄越せっ!


「何を言っているのですか、勇者!

 一国の王子ともあろう者が、国難に苦しむ民を見捨てて逃げるなどと!

 もっと真面目に取り組んでください! 真面目に!

 そんな事で、将来、国王が務まると思っているのですかっ!」


 ポカッ


 なんて事を言うものだから、勇者は僧侶にロッドで頭をぽかりと殴られた。

 流石、勇者さま。何とも中身の詰まっていない軽い音だ。

 収穫時期を逃したスイカとどっこいどっこいの音がした。


「痛ってぇな! 何すんだよ、僧侶!」

「バカな事を言うのがいけないのです! バカ勇者!」

「バカバカ言うなっ! バカ僧侶! 先にバカって言った方がバカなんですぅ~!」

「あっ、貴方という人は……」


 勇者さまは、僧侶に向かってベロベロバーっとした。

 僧侶との付き合いは長いはずなのに、なんでこうも僧侶の怒りを買うようなことばかり言うのだろうか……まぁ、バカだから仕方ないのかもしれないけど……

 勇者さまは大体いつも逃げる事を考えていた。

 本人は“君子危うきに近寄らず”なんて言っていたけど、ようはただのビビりなのだ。

 危なくなったら直ぐ逃げる、絶対無理をしない。

 でも、そんな勇者さまのビビり故の生存本能の高さで、私たちは幾度も窮地を脱してきたのも事実なわけで……

 まぁ、私はそんな打算まみれの勇者さまのことはそんなに嫌いではなったりする。

 かと言って、“好き”かと聞かれれば全力で“NO”だ。

 僧侶は勇者さまに対して何か思うところがあるようだが、私に言わせれば“趣味が悪い”としか言いようがない。

 確かに勇者さまは“見た目は”良い。

 サラサラのややウェーブがかった亜麻色あまいろの髪。

 碧い瞳。すっと細い顎……甘いマスク。しかも王族。

 白馬にでも乗って、笑いながら手を振ればそこらに転がってるミーハー女ならいちころ(・・・・)だろう。

 だがしかし……勇者さまは、残念な位バカだった。

 どんなに顔や家柄がよくても、頭に脳みその代わりに焼きプリンが入ってる様な人はちょっと……

 私の趣味はもっと落ち着いた、理性的な男性が好みなのだ。

 こんな焼きプリンでは、断じてない。

 私は現実的な女だ。だから、高望みはしない。

 包容力があってぇ~、身長が高くってぇ~、理知的でぇ~、優しくてぇ~、将来性があってぇ~、王国勤めの公務員でぇ~、魔道に興味を持っててぇ~、例え忙しくても私と魔道について語り合ってくれる時間を作ってくれる……たった(・・・)それだけでいい……私は慎ましい女なのだ。


「だったら、どうすんだよ? 戦うのか? あのメイドより強い魔王と? 確実に死ぬぞ?」

「そっ、それは……だから……その、皆で打開策を考えましょう……と……」

「なんだよ……代案の一つもなしに、俺の案に反対したのかよ? 信じらんねぇーな!」

「うっ……ぐっ……」


 おや? 珍しく口喧嘩で僧侶が劣勢だ。

 焼きプリンに押されるなど、僧侶も地に堕ちたな……


「まぁまぁ、落ち着け勇者。

 例え、勇者の言うように逃げたとしても、この場は助かるが根本的な解決にはならん。

 魔王が復活した事で、国内の魔物共が活性化している今、被害は広がり続けていると聞く。

 勇者も見ただろ? 魔物の襲撃によって壊滅した村を……」


 それは、魔王城を目指していた旅の途中に見た、あの村の事だろう。

 無残な物だった……

 家屋はことごとくが破壊され、村の住人の姿は一人も見当たらなかった。

 皆殺しにでもされたのだろう。

 ……はて? 何か妙な違和感が……


「だからってどうすんだよ?

 玉砕覚悟で突っ込むのか? 勝機があるならいざ知らず、俺は嫌だぞそんなの……」

「我とてそんなものはごめんだ」

「私だって……」

「右に同じ……」

「どうしたもんかねぇ……」


 はふぅ~、っと誰の物ともなく漏れた重たい溜息が、この場を支配した。


「戦っても勝てないそうにない……でも逃げれない……そして、死にたくない。

 となれば、残されたのはあの手しかないか……」


 少しの沈黙が続いた後、勇者さまは(おもむろ)にそんなことを言い出した。

 焼きプリンの分際で、何か良い案でも浮かんだのだろうか?

 たぶん、ろくでもないことことだとは思うが、聞くだけ聞いてやってもいいだろう。

 おかしな事を言ったら、燃やしてやればいいだけだ。


「何か良い案でもあるのですか勇者?」

「ああ、たった一つだけ……な。

 出来ればこの手段だけは使いたくはなかったんだが……」

「勇者よ。何か策があるならもったいぶらずに言ったらどうだ?

 今は寸暇すんかすら惜しいのだぞ?」

「ああ、分かってるよんなこと……

 そのたった一つの手段ってのはな……」


 勇者さまが柄にもなく真剣な表情で、皆を見渡した。

 ごくりっ、と誰かの喉が鳴った。


「土下座、だ」

「「「……」」」


 やっぱり、ろくでもない事だった。

 皆、勇者さまの言葉に顔が( ゜д゜)ポカーンってなってますよ……


「魔王の足にすがり付いて、泣きながら、

 “倒させて下さい”とか“ちょっといいので、封印させい下さい”

 って、拝み倒すんだよ。

 もう、魔王の靴とかベロベロ舐めて懇願すれば、魔王だってもしかしたら考えて……」

「いや……無理だろ勇者よ……

 相手は魔王だ。そんな手が通じる相手ではない事くらい分かるだろう?」


 戦士が勇者さまに優しく突っ込みを入れた。

 私と僧侶は、もう口を開くことすら面倒臭くなってしまってたというのに、律儀な奴だ。


「いや、こう……情に訴える感じでだな……」

「情に流されるような奴が、村を滅ぼしたりしないだろ……」

「ぐっ……そ、そんなと時は、すかさず二段階目へとシフトすんだよ!」

「二段階目……だと?」

「そう! この作戦は二段構えなんだよ!

 一段階目は、泣き落とし。そして、二段階目こそが本命だ!」

「ほぅ……」


 あっ、戦士の目が死んでいる。

 それは、もう、完全に信用してない時の戦士の目だった。


「本来、二段階目の策には十分な物量(・・・・・)が必要なんだが、今は有り合わせで何とかするしかないだろう……

 多大な不安要素はあるが、もう、これに掛けるしかないんだ……」

「……で? その二段階目の策というのは?」

「それは……僧侶と魔法使いが“体”を使って色仕掛けで魔王を篭絡ろうらくするんだよ!」

 

 ……はぁ?


「確かに、不安しかない……何てたって人選がこの二人だからな……

 胸はない、くびれもない、色気もない!!

 女としての魅力が微塵もないっ!

 こんなないない尽くしの女に魅力を感じる男が居るとは、俺は到底思えない!

 だがしかし! 世界は広い!!

 魔王がこの手の、ない(・・)方が好みという希少種の可能性はゼロではな……」

聖衝破鎚セイクリッド・ブレイクゥゥゥゥゥ(物理)!!」

熱爆灼獄フレイム・インフェルノインパクトォォォォ(物理)!!」


 ゴインッ!! ×2


「げぶはぁ!!」

「「最っ低、このクソ勇者!!」」


 私と僧侶の声が見事にハモった上で、二人のロッドが勇者の顔面にダブルインパクトした。

 バカだアホだと思ってはいたが、まさかここまでだったとは……


「何……しやが……ガクッ」


 ふー、悪はついえた。と、言うのにこの虚しさはなんだろうか……

 私は一体、勇者の何に怒ればいいのだろうか……あまりに燃料が多過ぎて分からなくなってきた……

 アホなことばかり言うことだろうか? 何も考えていないところだうか? 仲間を売り渡そうとしたことだろうか? それとも、女としての尊厳をけなされたことだろうか?

 ……いや、もう全部だな。

 こいつはその報いを受けただけに過ぎないのだ。

 残念な事に、勇者はまだ息があるようだった。気持ち悪くピクピクしている。

 私と僧侶は無言のまま視線を合わせると、どちらからともなく頷きあった。

 “トドメを刺そう”っと……


「勇者御一行様、お茶のお代わりなど如何でしょうか?」


 そうして、私と僧侶が今、まさに、クズ勇者にトドメを刺そうとしていた矢先、メイドのドロシーがそんな事を言ってきた。

 まったくもぅ……空気を読まない人形だなぁ。

 もう少し待ってくれれば、お前らの敵を葬ることが出来たというのに……


「うむ、一杯貰おうか……」


 まるで何事もなかったかの様に、戦士は平然とメイドへと空になったカップを差し出していた。

 コポコポと小気味いい音を立てながら、戦士が差し出したカップはアメ色の液体で満たされていった。

 そういえば、さっきからケーキばかり食べていた所為か喉の渇きを今更ながらに感じた。

 戦士が飲んでいるお茶が、すごくおいしそうに見えたのだ。

 いや、このメイドが淹れたお茶だ。実際おいしいのだろう。

 そんな事を考えていたら、勇者への殺意が次第に薄らいでいった。

 と、言うか、勇者の事を考えていること自体が煩わしく思えてきたのだ。

 僧侶が“はぁ~”っと深い溜息を吐いて、自分が座っていた場所へと戻っていった。


「すみませんが、私にも一杯下さい……」

「かしこまりました」


 僧侶も同じ事を感じたのかもしれない。

 私もバカバカしくなって、自分の席へと戻った。

 取り合えず、去り際に勇者の股間へと一撃は入れておいた。

 魔法で吹き飛ばして、“不能”にでもしてやろうかと思ったが、“汚物”が撒き散らされるのも嫌だったので止めてやった。

 感謝しろよ、勇者。


「私にも、一杯……」

「かしこまりました」


 コポコポコポ グビッグビッグビッ プハァー! もう一杯っ!


 何だか少し落ちついて着た気がする……

 これは、お茶効能だろうか?

 私は黙ったまま、空になったカップをメイドへと突き出した。

 メイドは何を言うでもなく、私のカップへとお茶を注いでくれた。


「その……差し出がましいとは思うのですが、一つご忠告させて頂いてようしいでしょうか?」


 メイドが、私に二杯目のお茶を注ぎ終えると、遠慮がちにそう言って来た。

 “私に”だけ言った言葉ではないだろう。たぶん、全員へ、だ……

 

「なんですかな?」


 戦士が落ち着きはらった態度で、メイドへと聞き返した。

 なんだかんだで、戦士はこのパーティーで最年長だ。

 勇者はバカだから、自分がこのパーティーのリーダーだと思っているが、実際にこのパーティーを切り盛りしているのは、戦士と僧侶だった。


「その、失礼とは思ったのですが、勇者御一行様の会話を聞いてしまいまして……」


 まぁ、あれだけデカデカと話していれば聞こえて当然だろう。

 私たちも別に、隠すつもりもなかったので気にしてはいなかったが……


「その、“魔王様への色仕掛け”というのは止めておいた方が無難かと存じます」

「ふむ……我々(・・)とてその案を実行するつもりなど毛頭ないが、一応何故か尋ねてもよろしいか?」


 戦士の言う我々(・・)に、勇者はきっと入っていないのだろうな……


「はい、それは勇者御一行様が、奥方様に“本当(・・)に殺されてしまう”可能性があるからに御座います」

「そっ、それはどういう意味でしょうか……?」

「はい。魔王様の奥方様は大変な“ヤキモチ妬き”でございまして、もし、魔王様に言い寄る者が居ようものなら、奥方様が問答無用で消し飛ばしてしまう恐れがあるのです」

「「はぁ……」」


 マジか……ヤキモチ一つで、殺しとは……俗に言う“ヤンデレ”というヤツだろうか?

 私と僧侶は視線を合わせると、また溜息を吐いた。

 ホント、勇者はろくな事を思いつかないな……

 勇者の立てた計画など、実行するつもりなど更々なかったが、これで完全にご破算だろう。


「ふむ……今、“奥方様が”“本当に”っと言っていたが……それではまるで、“魔王”自身は我々を殺すつもりはないように聞こえるのだが? お答え願えるか?」


 私たちとは裏腹に、真剣な表情を浮かべていた戦士が、メイドにそう問いただしていた。

 僅かに与えられた情報から、更なる情報を引き出そうとする……

 やはり戦士、勇者とは格が違う。

 もっと若ければ、私の守備範囲だったのだが……実に惜しい。私はオヤジ趣味ではない。


「はい。その通りで御座います。

 魔王様に、皆様を殺める意思は御座いません。

 そもそも、魔王様は何者であろうと命を奪うことを良しとはしていません。

 また、この魔王城、建設以来一度も“死亡事故”が出たことがないのが自慢で御座います」

「「「……???」」」


 メイドの言葉に、私たちは更なる混乱へと陥った。

 しかし、さっき感じた違和感の正体には気付いた。

 それは、魔物によって壊滅させられた村の様子だ。


「そう言えば、魔物に襲撃された村に村人の死体は一つも(・・・)なかった……」

「そう言われれば、そうですね……」

「魔王は一体何をしようとしているのだ?

 いや、そもそも魔王の存在とは一体……」

「申し訳ありませんが答えできません。私は、その問いに対する回答の権限を持っておりません。

 もし、その質問への回答を希望する場合は、魔王様へ直接尋ねるのがよろしいかと存じます」


 メイドはうやうやしく一礼して見せた。


「もし、このメイドが言っていることが真実であるとするなら、我々はこのまま先に進む以外の“道”はない……ということか……」

「そう……ですね……魔王に会えばこのふざけた待遇についての説明をして貰えるかもしれませんしね」

「うん、勇者のクソな計画を実行するより、ずっと現実的だと思う」

「魔法使い、女の子がクソだなんて言葉を使うものではないですよ。

 まぁ、クソですけどね……」

「お前らなぁ……確かに、クソだったがな」


 私たちは揃って、地べたでひっくり返っている勇者の方を見て……皆で溜息を吐いた。


「あっ! 緊急の通信が入りました。少々、失礼させて頂きます」


 そう言うと、メイドは先ほどと同じように、私たちから少し離れて一人でボソボソと喋り出した。


「はい……はい。そうですか、御手数をお掛けし、申し訳ありませんでした……

 では……はい、これより勇者御一行様を城内へ案内したいと思います。

 はい……はい。では、失礼致します」


 あれで、本当に誰かと会話できているのだろうか?

 先ほどもそうだったが、微弱な魔力の流れを感じる事はできたが、どういった魔法式でそんな事を可能にしているのか、私には皆目検討も付かなかった。

 魔王が使っている魔法は私たちが使っているものとはまったくの別物なのかも知れない。

 メイドは、また私たちの所まで戻って来ると、ペコリを頭を下げた。


「大変お待たせ致しました。城内の作業が完了したとの報告がありましたので、これより城内の案内を再開したいと思います」


 私たちは、一度顔を見合わせると一つ頷いて、メイドの後を追った。

 ちなみに勇者だが、コレは私と僧侶が片足づつを持って引きって行く事になった。

 これは戦闘になった際、前衛である戦士の行動の邪魔にならないようにするためだ。

 かなり重いが、運べなくはない。


「こちらで御座います」


 目の前にあるのは大きな扉だった。魔王城の入り口の扉だ。

 メイドは魔王城への入り口の前に立つと、扉に手をかけゆっくりと開いていった。

 次第に見えてくる魔王城の内部。

 そこで、私たちが一番初めに見たものは……


「この、バカヤローがっ!!」

「げふんっ!?」

「「「……」」」


 何故かコボルトがコボルトを殴り飛ばしているシーンだった。

豆知識その3

魔王城の庭園について

魔王城の庭園は、ドロシーさんが管理しています。

植えられている草花は、すべてドロシーさんが丹精込めて育てた植物型の魔物です。

不用意に近づくと喰われます。

魔王城では、ゴブリンやコボルトの中から定期的に行方不明者が出ているとか、いないとか……

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