普通に勝っちゃった……けど。
「ちょ、お前ら! 何とかしろ!」
「無理ですよ! ってああああ! 追って来てるううううううう!!」
先ほどまでののんびりとしていた雰囲気は、一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌していた。
はあ、なぜ次から次へと事件が起きるんだか。
「何アイツ!? バッファローかな?」
「……みたいだな。仕方ない、私がやろう」
コハクは逃げるのをやめると、バッファローへと向き直った。
その姿は、すげえカッコいい。カッコいいんだが……。
「お前死ぬぞ!? やめとけって!」
「いや、いい! ここは私を置いて先に行け!」
そう叫ぶコハクの姿は、まさに仲間思いの勇者そのものだった。
コイツは酒癖が悪いとはいえ、3人の中では一番まともな人間だと思う。いや、ホントに。
……いや、ちょっと。待て待て待て待て。だからといってここで逃げちゃダメだろ。
「コハク。俺も戦う」
「京夜!? 早く逃げろ!」
「いや無理だって。もう逃げても多分追いつかれるし」
俺の視線の先には、ドドドドドという音を立てて迫ってくるバッファローの姿があった。
逃げ続けていたライアとアークも、罪悪感を感じたのか諦めたのかは知らんが、俺たちの方へ歩いて来ていた。
しかし、これどうしよう。真正面から受け止めるのもかなり危険なんだよな……。
「……あ」
「あ」
俺とコハクの声が重なり、思わず俺たちは顔を見合わせた。
……どうやら同じ事を考えていたらしい。俺たちは静かに笑い合うと―――――――
―――――バッファローめがけて走り出した。
「「うおおおおおおおおおお!!」」
二人分の叫び声が、森一面に響き渡った――――――――!
が、しかし。
「よ……っと」
俺たちは攻撃が当たる寸前のところで――――――避けた。はい。避けました。
そう、バカ真面目に正面から受け止める必要なんざない。避ければいいだけ。
予想通り、バッファローは俺たちの横を通り過ぎて行き―――――――豪快に一本の大木へと猛突進していった。
同時に、ズドンという重々しい音が響き、バッファローは立ち止まる。
「コハク、今だ」
「了解。……『睡眠弾』ッ!!」
コハクが放った睡眠弾は見事にバッファローの背中へと刺さり―――見事、俺たちは戦いに勝利した。やけにあっさり勝っちゃったけど。
……いや、ちょっと待て。勝った。確かに勝ったんだが……。
重大な事に俺は気が付いた。
「……これどうすんの?」
「さあ。なんか勢いで睡眠弾撃っちゃったが、どうしようもないな。このままじゃ運べないし」
「……」
どうしよう。笑って済ませられないヤツじゃん。
睡眠弾の効果もそう長くは続かないだろうし。
「……トドメ刺す?」
「いや、かわいそうだよ! 人間として、殺すのは良くないよ!」
アークが俺の元へと駆け寄り、必死で反論してきた。
……んなこと言われたってなあ。このまま放っておくのもダメだし。
「……あ、そうだ。じゃあお前魔法でコイツ凍らせてくれよ。流石に生のまま運ぶのも怖いから、冷凍して運べばいいじゃん」
「おおっ! きょーや、ナイスアイディア! ……『ウォーター・フリーズ』!!」
アークが魔法を唱えると、バッファローは一瞬で氷へと包まれた。
凶暴でも一応魔法使いといったところか。こういう時はアークが居ると助かる。
……さて。
「コレ誰が運ぶの?」
「京夜だろ」
「京夜さんですかね」
「きょーや、お願い!」
アークの最後の一言で、アイツらは早足でどこかへ去っていってしまった。
……そうだ。
アイツらの今日の昼飯には、大量のタバスコを投入してやろう。




