遭遇
「……なんか薄暗え所だな」
俺は周りの風景を見ながら、ポツリと呟いた。
魔物モンスター討伐の協力を申し出た俺たちだったが、場所は思いっ切り森。まあ予想はしてたけど。
それぞれのチームで行動するので、今は他のハンター達は居ない。
「うむ。お化けでも出そうだな……」
「ひゃあっ! やめて!」
「お化け」の単語でビビったのか、アークが俺の腕を絞めつけてくる。
俺はどっちかと言うとお前の方が怖いよ。一体どれだけの力がコイツには宿っているのだというんだろうか。
対してコハクは、怖がるような素振りも見せず、スタスタと森の奥へと進んで行く。
コイツは酒癖さえ悪くなければ、どこにいても恥ずかしくない優秀な弓使いだと思う。俺だってちょっとお化けは怖いのに。
「というかホントに魔物モンスターなんているんですかね。なんかそれどころか普通のモンスターすら出て来てない気がするんですけど……」
「ダメだ。それは言うな」
そんなことを言ったら本当に出なくなる。かれこれ30分以上歩き続けている俺たちだが……まあ、確かにモンスターと遭遇していない。
それにしても痛い。今俺はとっても足が痛い。
「全く、さっきの京夜さんのドS感といったら半端じゃなかったですよ? もう少し女の子を大切に……」
「そんなこと言ったら、また俺のドSパワーが炸裂するぞ? 次は電気魔法で全身ビリビリにして痛ぶってやろうか? こんな森の中でそんな事されたくないよなあ? な? この俺の言うことに逆らったら、ゲスな攻撃がお前へと放たれるぞ? 分かったか? グヒヒヒヒ!」
ちょっと調子に乗って俺が言い放っていると、女子3人からは「うわあ……」とまたもやゴミを見るかの視線が贈られた。
……あ、コレちょっと……。
「すみませんでした」
「「「……うむ、よろしい」」」
3人は満足したかのように頷くと、すぐさま表情を明るくした。
こういう時は素直に謝った方がいい。ここ2ヵ月ほどの付き合いで、どういう対応を取ったらいいのかが分かってきた。
それにしても、コイツらはそんなに俺が謝るのを見たかったのだろうか。謝った途端嬉しそうにしやがって。
「てかさアーク。話変わるけど、そろそろ初級魔法以上の魔法教えてくんない? いい加減飽きてきた」
「うわあ……ライアを痛めつけるために魔法を覚えるの? しかも飽きたって……」
「違う。ただ単純にもっと強い魔法を覚えたいと思っただけだ。『飽きてきた』に深い意味はない」
いかんいかん。またあらぬ誤解を招くとこだった。
するとアークは、大層嬉しそうな顔で。
「じゃあ『アーク様』って呼んで!」
「……アーク様」
「『可愛いアーク様、どうかこの僕にあなたの完璧な魔法を教えてください』、でしょ?」
「可愛いアーク様どうかこの僕にあなたの完璧な魔法を教えてくださーい。……へっ」
「ちょっと! なに今の『へっ』って!」
棒読みで言えばいいということに気付き鼻で笑った俺だったが、すぐにアークに怒られた。
「言えばいいんだろ? 言えば。じゃあいいじゃねーか」
「ううっ……確かにそうだけど……」
アークは悔しそうにしながら、教えるべきかどうか悩んでいる。
ふっ、俺の勝ち。頭を使った方が勝つんだよ、こういうのは。
俺はアークに、最後のトドメを指すことにした。
「頼むよ、アーク。メシ奢るから」
「ホント! よし、その契約乗った!」
アークは即答すると、やる気が出たのか、スキップで道を歩き始めた。いやあ、またも俺の完全勝利。
コイツバカだから扱いやすいんだよね。我ながらゲスな思考の持ち主だと思うが、まあカッコいい魔法を操れるようになると思えばそんなの関係ないし。
俺、天才。カッコいい。
俺が心の中で勝利を祝っていると―――――――――
「グオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!!」」」」
……あ、しまった。
油断フラグのこと完全に忘れてたわ。




