わがままライアとドS京夜
「きょーやー!! おっはよー!!」
「うっ……うっうっ……」
アークに布団を剥がされ、俺は泣きながら立ち上がった。
眠い。寒い。体中が痛い。
そんな地獄の3連コンボが、俺を怠慢への誘惑へと誘っていた。
「ほらきょーや、早く歯磨いて! 顔洗って! ……ってアレ? 泣いてるの?」
部屋の隅っこですすり泣く俺を見かねたのか、アークが俺の顔を覗き込んでくる。
しかしそんな事をされてもちっとも俺の気は休まらない。どうせ覗き込んでもらうなら大人しい優秀なタイプの娘がいい。
はあ……今頃ニートをやっていたらどんなに楽だったことか。
「きょーや、辛いことたくさんあるんだろうけど……頑張ってね」
「うるせえ! 俺の眠い・体中が痛いの原因を作ったのはお前らにあるだろうが!」
俺はズキズキと痛むこめかみを押さえながら、深くため息をついた。
アークは「?」と愛玩動物チックに首を傾げているが、その仕草がまた余計に腹立つ。
「……はあ」
しかし、いつまでもそうしているワケにもいかない。
俺はゆっくりと立ち上がると、今日のプランをみんなに伝えることにした。
流石にこのままノープランっていうのもマズイと思ったからな。実は昨日の夜俺がこっそりと考えておいたのだ。
きっとみんなも納得してくれるハズ。
「……お前ら。今日は、魔物モンスター狩りに行くぞ」
「えっ。嫌ですよ」
「ダメだ。行くぞ」
即答で俺が返すと、ライアはむすっと不機嫌そうに頬を膨らませた。いやいや、俺の方がよっぽど機嫌悪いんですけど。
だが俺は紳士。そんぐらいで憤慨する人間じゃない。
「昨日、村で魔物モンスターの目撃情報があったそうだ。それも何匹、ひょっとしたら何十匹もいるかもしれない。それはまあ、俺たちも手伝うしかないだろ」
「うむ、いいんじゃないか? せっかくの機会じゃないか」
「えー……」
賛成してくるコハクに、ライアは一層不満げな表情になった。
このヤロウ。ニートだった俺ですら頑張ろうとしてるんだぞ。少しは協力しろや。
……おっと、いけない。落ち着こう、俺。
歯をシャカシャカと磨きながら、俺は引き続き説明をする。
「まあ無理に頑張らなくてもいい。何せ相手は魔物モンスター。もちろん危険な敵ではあるからな。村の高レベルなハンター達も集まるらしいし。……でも、一応この問題は俺たちの目標にも当てはまる。十分装備や武器などの基本的な準備を整えて、戦った方が……」
「京夜さん、またそんなそれっぽいこと言っちゃってーwwなんか顔がちょっとドヤ顔してるのが……面白いです! アハハハハ!」
「……」
……これにはさすがの俺もキレた。
ドヤ顔をした自覚はあったが、やる気のない奴に言われる筋合いもない。
……。
「……よし、アーク! コハク! なんか魔物モンスター1匹の討伐につき30万ゼニーが貰えるらしいぜ! 倒したらその金で今日は美味しいもんでも食いに行こうぜ!」
「「おおっ! やったー!」」
「うわあああああああああ!! ごめんなさい、分かりましたからああああ! 私も行きますからあああああああああ!! お願いします京夜さん!」
罪悪感を覚えたのか、部屋を去ろうとする俺の腹にライアはしがみついてきた。
ふっ。どう痛ぶってやろうか。
「……京夜さんじゃなくて京夜様だろ?」
「うっ……京夜様!」
普段からライアは常に敬語で接してくれているのだが、今回はちょっとした意地悪をしてみた。
案の条、ライアは目をうるうるさせながら、俺にしがみつく力を強くする。
「……『お願いしますッ! わがままなことを言った私をどうか許してください、京夜様ッ!』……だろ?」
「ううっ……お願いしますッ! わがままなことを言った私をどうか許してください、京夜様ッ!」
ふむ。
後ろで若干引いてるアークとコハクの視線が痛いが、俺の気分はコイツをいじめることに夢中だった。
……。
「……さて、どうしよっかなー」
「うわあああああああああああ!! 京夜さんのS! ドS!」
さすがに我慢が効かなくなったのか、ライアは俺に掴みかかって来た。
ポカポカと背中を叩かれたが、俺に後悔の念は一つもない。反省もしてない。




