ナマズもどき捕獲
「はあ……はあ……何とか逃げ切れましたね……」
「いや、マジで死ぬかと思ったわ……」
ゼエゼエと息を切らしながら、俺たちは地面へと座り込んだ。
幸い、ゴリラは俺たちを追ってこなかった。デカいし、走んの疲れんだろうな。多分だけど。
「……クエストは何時までクリアしなきゃいけないんだっけ?」
「えーと……4時までですかね」
ライアがクエスト依頼書を見ながら呟いた。
俺が袖を上げて腕時計を見てみると……って、なんだこりゃ。
「……え? もう3時半じゃん」
ゴシゴシと目を擦ってみるものの、目の前の光景が変わることはなかった。
4時までにクエスト受付窓口にクエスト達成を知らせなきゃいけないワケだろ。じゃあ、もうダメじゃん。詰みじゃん。
「……どうする?」
「いや待て。諦めてはダメだ。……ここから全力疾走でアルゼ村のクエスト窓口までは、およそ10分といったところか。ならば私たちにはまだ20分時間が残っている。あくまでこれは私の憶測にすぎないが」
そう言いながらコハクは、メガネを手でクイッと上げるような仕草をした。いや、お前メガネかけてないだろ。
まあコハクの意見が正しいのだとすれば、まだ俺たちには希望が残っている。
……しかし、20分か。
「てか海から大分離れちゃったじゃねえか。どうすんだ?」
「ああ、それなら……」
ライアが何か思いついたように、俺の裾を引っ張って来た。
なんだなんだ。これはデートのお誘いか。
「ウミズガララは、水のある場所なら基本どこにでも生息するといわれています。その水を、塩水に変えるんだとか」
「ふーん、そうなのか……」
ライアが連れてきた場所は、小さな川がある場所だった。
……。
あれ、ちょっと待て。
「……じゃあ最初からここ来れば良かったじゃねえか! 川の方が狭いし見つけやすいだろ!? 何で海なんか行ったんだよ!」
「デリカシーないですねー。女の子なら、海ぐらい行ってみたいですよ!? 正直クエストなんか行きたくないんですよ!?」
「なぜそこで逆ギレされなければならない!? 確かに俺だってクエスト行きたくないけどさ!」
ギャーギャーと俺たちが騒いでいると、アークとコハクが既に捜索作業を始めていることに気が付いた。
いかんいかん。ライアのペースに惑わされるワケにはいかない。
「お! きょーや、見つけたよ! ホラ!」
「おお、でかしたアーク! あと2匹だな!」
アークが嬉しそうに持って来たのは、ウニョウニョと動くナマズのような生物だった。
うえっ、なんか気持ち悪い。女の子がこれを掴むなんて、一体どういう……。
……あ。
「……アークはもうとっくに女の子辞めてるか」
「いきなり失礼な! そんなこと言ったらまた噛むぞ!?」
俺の返事を待たずに、アークは俺の首筋に噛みついてきた。
痛ッ……!? こ、コイツめ……。顎鍛えてやがるな……!?
痛い痛いあばきゃうわひゃああああああああああああ↑↑↑!!
「かっ……かっ……」
「うわああっ、京夜!? 大丈夫か!?」
うめき声を上げながらドサリと崩れ落ちる俺に、コハクが駆け寄って来た。
ちっとも大丈夫じゃねえよ。痛いを通り越して苦しかった。呼吸困難になりかけてたもん。
「うっ……」
俺はなんとか右腕に力を込めて立ち上がると、再び捜索作業を開始した。
にしても中々見つかんねーなー。間に合うのだろうか。
俺が水面を見ることすら忘れ、ボーっと空を眺め始めた――――――その時。
「京夜さん! そこにいますよ! 取って!」
ライアの声で、俺はゆっくりと水面の方に目を向けた。
すると……おお、ホントだ。確かにナマズらしき生物がいるな。
随分と動きが緩慢だな。ふっふっふ、バカなヤツめ。この俺が一撃で仕留めてくれよう。
俺は自信満々でナマズもどきをつかみ取ろうとした—――――が。
「……あれっ。このヤロ、おらっ。……うらあっ!」
ヌルヌルとした粘液で体を覆っているため、非常につかみ取りにくい。なにこれ腹立つわ。
くそっ、こんちくしょうめ。
「きょーや、私がやろうか……?」
「いや、いい。ここは俺にやらせてくれ」
俺とナマズもどきの格闘を見守るアークをよそに、俺は逃がさないように必死で胴体をつかみ取る。
何分ソイツと格闘していたことだろうか。
しかし――――――ついに。
「うおらあああああああああああっしゃああああああああ!!」
「「「おおっ!?」」」
ザッパーンという音と共に、ナマズもどきは俺の両手に捕まれ現れる。
ヤバい、達成感が半端ない。嬉しい、めちゃくちゃ嬉しいわ。
俺はクエスト専用のカゴにナマズをぶち込むと、すぐさま川へと向き直った。
残すところあと一匹。残り時間は……あと5分か。まだ間に合う。
「「「「…………」」」」
俺たちが無言で、水面を睨み合っていると。
「ピィィ――――――ッ!!」
「「「「おおおおおおっ!?」」」」
突如俺の肩に居たピピが雄叫びを上げ、水面へと突っ込んでいった。
しばらくするとピピは水面から上がって来た。そのクチバシには、しっかりとナマズもどきが銜えられている。
「……ああピピ、お前はなんていい子なんだ! えらいぞオオオオ!!」
「ピピッ!!」
ピピは嬉しそうに鳴き声を上げた。
いやあ、コイツホントよく活躍するなあ。……羨ましいよ。
……クエスト成功。やったね☆




