お風呂上り
「ふ~。いいお湯でしたね~」
「気持ちよかった~」
風呂上がり。
俺はぐったりした気分で、へにゃりとリビングの床に座り込んだ。
俺がこんなにぐったりしている原因は、2つある。
1つは、ライアとアークが「今度は私たちの背中を洗え」などと言い出したこと。全く、多少恥ずかしがるとかそういうのはないのだろうか。……それとも、俺を男としみなしてないのか。
まあもちろん、それはマズイと思い拒否したよ。後悔は……してない。
でもここまではまだいい、いいんだ。
そして2つ目。それは……コハクの事を誰もが忘れてしまっていたこと。
これには流石に焦った。当然、俺は男ではないライアとアークにリビングまで運ぶのを頼んだのだが、すごく嫌そうな顔で拒否されてしまった。
何故かと訊いたら、「シェルトジュース飲みたいから」だそうな。
ちなみにシェルトジュースとは、なんか不思議な味のする、甘い飲み物のことだ。この世界でのコーヒー牛乳みたいなモンなんだろう。
前に一度俺も飲んでみた事があるのだが、ホント、よく分からない味がした。少なくとも美味しくはない。
だが2人は、美味しそうにそれをグビグビ飲んでいた。やっぱり前世人との味覚は違うのだろうか。
最近は美味しい食べ物も多いから俺は大丈夫だったが、たまーにクソ不味いモンがあったりするから困るんだよね。怖い怖い。
で、ティールが「シェルトジュースあるよー!」なんて2人に言うもんだから、当然コハク回収係は俺になるワケで。放っておこうかとも考えたが、それではコハクは風邪をひいてしまう。
仕方なーく俺は風呂へ服を着たまま行き、コハクの元まで行き、すぐさまタオルをかぶせ、運んで回収完了した。
……流石に服を着させるのは2人にやってもらった。いや、ホントにね。
で、そんな心も体も全く癒されず、風呂から帰って来たワケだが……。
「そういや京夜。お前、なんかワケがあってこの村に来たんだろ? 訊こうじゃないか」
「……ああ、あったなそんな話も。分かった、分かったから顔近いって」
ズイッと詰め寄ってくるティールを押し退けながら、俺はウザそうに息を漏らした。
全く、放っておけばいいのものを。心配してくれてるならありがたいんだが、コイツの表情は興味本位で訊いてるようにしか見えない。
……まあ、もういいや。このまま話さないのもめんどくさそうだし。
俺は静かに口を開くと、街での悲劇を喋り始めた――――――――
「ギャハハハハハハ!! おま、変態って呼ばれたからこの村来たの!? なんだよそのマヌケな理由!」
「あははっ……まあ、そういう事もあるよねwww」
一通り話し終えると、ティール達は予想通り大爆笑を始めた。
そりゃあそうだろう。変態と呼ばれ警察に追われ続けたあげく、街に居づらくなってこの村に来たというのだ。笑われても文句は言えない。
本を読んでいたピューラすらも、小さく肩を震わせ笑っている。
「ちょっと、私たちは変態じゃないですよ!? 京夜さんだけですよ!?」
「おいなんで俺だけなんだよ。大体俺は変態じゃない」
「え、じゃあなんで……」
そこまでアークが言いかけたところで、俺たちの動きは停止した。
視線の先には、ふかふかのパジャマに身を包んだコハク。
「……コイツか」
俺は小さく呟いた。
元はと言えば、コハクが食堂で変態宣言したのが原因だったのだ。
そうだ、さっきも思ってたが、やっぱり今日の問題児はコハクにある。
「ピー! コイツノセイ! コイツノセイ!」
「だよな、コイツが原因だよな」
俺はパタパタと飛んでやって来たピピの頭を撫でながら、そう返答した。
……ん? なんだこのコハクのパジャマ。やたら変なの着てるような……。
ピンク色の、よく分からないパジャマ。可愛いけど。
俺は咄嗟に2人の方を見る。
「ん? どうしました?」
「このパジャマ、可愛いでしょー?」
2人のパジャマのフードの後ろを見てみると、猫耳が付いていた。
……なんで俺気付かなかったんだろう。よく見れば、可愛いパジャマ着てるなとは思ってたけど。
いや、それよりも。
「……そのパジャマ、何処から持って来た?」
「アークの実家からですよ! なんか色々コレクションしていたらしくて」
「いつ行った?」
「前、京夜さんがゲロぶちまけて苦しんでた時です」
「でも、結構遠かったんじゃないのか?」
「そんなこともないよ? 街から歩いて15分ぐらいの場所だもん」
「……」
正直、いつゲロをぶちまけたのかすら覚えていない。まあ最近頻繁に吐いていたし、気付いていなくても無理はないんだけど。
猫耳コレクションアーク先生。一体ヤツはどれだけのグッズを持っているのだろう。
「てかなんでそんな猫耳が好きなんだよ」
「猫耳が好きなんじゃない! 猫が好きなんだよ」
「へー、そうなの」
「……がぶり」
アークは、お馴染みの首噛みつきをかましてきた。だが悲しいことに、もう全然痛くない。
「うう……慣れちゃったの?」
「ああ。もう全然痛くない」
俺がそう答えると、アークは悔しそうに声を漏らした。
……「顎のトレーニングしなきゃ」とぼやいているのが怖いけど。硬い物でも食いまくるんだろうか。
だったら俺も、首のトレーニングでもしてみようかな。
俺は歯形が付いた首を撫でながら、小さく息を吐いた。




