村避難クエスト? ……変態……
「うう……私別にこれでいいもん! 個性だよ個性!」
何とかshimeage攻撃に耐えた俺は、呼吸を整えながら街を歩いていた。
いやいや、本当に死ぬかと思った。攻撃部分が腹から首に移った時は、流石に焦ったよ。
何とか首の締め上げは逃れたものの、首に噛みつかれた。それも、かなり強く。
俺の首筋辺りには、キレイな歯形が残っている。
今まで何回もアークに噛まれ続けていた俺だったが、こんなに強く噛まれたのは今日が初めてだよ。さすがっす、アークさん。
……それにしてもこの歯形、消えるかなあ。傷ついたままにならなきゃいいんだけど。
「分かった、分かったからちょっと落ち着け。……ところで、今俺たちはどこに向かってるんだ?」
この話題を引きずり続けるのも嫌なので、俺は少々強引に話を変えた。
アークが未だにむすっとした表情を浮かべているが……こういうのは無視が一番である。
俺が街の人たちを警戒しながら歩いていると、コハクが説明してくれた。
「そりゃあ別の村か街に避難するしかないだろう。変態と呼ばれた以上、この街に居るワケにもいかない」
「……え? 今から? というか今、別の場所に向かってるの?」
「ああ」
……えっ、ちょっと待てや。
確かに変態呼ばわりはされたものの、さすがに別の場所まで移動する必要は無いんじゃあ。
「行かなきゃダメ?」
「ダメだ。確かに変態というだけで移動する必要はないが……って」
コハクが何かを言いかけたと思うと、すぐさま俺たちを建物の間の隙間へと連れて行った。
ぐえっ……狭いっ……!
「お……おい……なんなんだよいきなり……てかピピ! お前が居るから俺のスペースがっ……!」
「ピィ……!」
「見ろ」
俺とピピがスペースで争っていると、コハクが強引に俺の首を道の方向へと動かした。痛い、痛いっす。首の攻撃はやめてください。
「何なんだよっ……あ」
「分かったか?」
見ると、警察官らしき人達が道を走って通っていくのが分かった。
……ああなるほど、そういうことね。
「もう京夜は分かっていると思うが、私たちは警察に狙われている。京夜のガイアドラゴン目つぶし事件の事もあるし、さっきの食堂での事件〝ゴット・エンジェルズ〟の事件もあったしな」
サラッと凄い名前付けやがるなコイツ。
しかし、警察か。確かにそうとなると、この街に居るのは危険だ。
「え、じゃあ二度とこの街には来られないんですか……?」
うるうると瞳を輝かせるライア。
……なんだろう、この街に何か特別な思いでもあるのだろうか。
確かに、色々お世話になった人達もいるけど。旅館の女将さんに、食堂のおじさんも。あと、中年オヤジの髪を剥ぎ取ったのは面白かったなあ……。
「ま、事件からしばらくすればまた戻ってこられるさ。悪いな、なんか俺のせいで警察まで動かさせちゃって」
「いや、京夜だけのせいじゃない。食堂事件だって警察が動いているかもしれないしな。それにホラ、私たちはもうチームだろ? 助け合いは肝心だ」
刑事ドラマの青春シーンみたいなことを言いながら、俺たちは笑いあった。俺の肩に乗っているピピまでもが、嬉しそうに鳴き声を上げている。
……あ、1人忘れてた。
「アーク、いい加減機嫌直せって。後でジャンボハンバーグ奢ってやるから」
「ホント!? やったー! 私頑張る!」
ちなみにジャンボハンバーグとは、食堂メニューの中でも特に人気なハンバーグのことである。
異世界に来ても、基本的な料理はあまり前世と変わらないらしい。なんやかんやでジャ✕アンシチュ―とかも一応はシチューだったしな。
ジャンボハンバーグは、値段も安い。デカい割には、600ゼニーという低価格だ。
600ゼニーで買える機嫌か。単純な奴である。
「おっし、そうと決まったら、行くか!」
「「「おー!!!」」」
俺たちは裏道の方から、街を抜けるために歩き出した。




