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アークの発音練習

「はあ……はあ……京夜さん女の子を置いていくなんて……」

「悪い悪い。でもあのままだとめんどくさいことになりそうだったから」

 走って追いついてきた3人に謝りながら、俺は大きく深呼吸をした。

 あの食堂壊しちゃったけど、いいのかな。まあ俺たちのせいじゃないけど。

「はあ……ここまで来ればもういいだろ。しっかし、なんで最近こんなに事件が起こるんだ? お前ら、なんでか知らない?」

「きょーやが死神だからじゃない?」

「…………」

 死神、かあ。

 なるほど。悪魔の力を持つ代わりにそんな代償まで背負わなくてはならないのか。

 殴らないと戻らない以外にも、色々転生してから不幸な事が怒っている気もするけど。


「はあ……疲れたきょーや」

 ……それよりも俺は、今更、本当に今更なんだが、疑問に思ったことがある。

 俺は緊張しながらもゆっくりと口を開くと、その内容をアークに話した。

「あのさ、アーク。ずっと訊きたかったことがあるんだが……。お前ってさ、なんで俺のことを『きょーや』って呼ぶの?」

「ああ、それは私も訊きたかったです!」

「うん、私も気になっていた」

 どうやら俺だけではなく、全員がアークの発音について疑問を抱いていたらしい。

 気になる。めっちゃ気になる。

「え? 私ちゃんと言えてるよ?」

「いや、『きょーや』じゃなくて『京夜』なんだって」

「だって名前珍しいし、言いにくいし……」

 そう言ってアークはごにょごにょ口ごもった。

 確かに俺の名前は、この世界では珍しい。珍しいんだけども。

 ……さすがに名前ぐらいはちゃんと呼んでほしいものだ。

「なあ、ライア。お前は俺の名前言えるよな?」

「当然です! 『京夜』さんですよね」

 そう言ってライアはふふんとドヤ顔を見せた。

 いや、言えない方がまずおかしいから。言えて普通ですから。

「コハクも言えるよな?」

「ああ、『京夜』だろう?」

 コハクもしっかりと言えていた。

 となると、この流れでアークもきっと言えるハズである。

「……じゃあ、アーク。俺の名前は?」

「きょーや!」

「「「…………」」」

 アークの返答に、俺たち3人は思わず沈黙してしまった。いや、こればっかりは本当に仕方がないと思う。

 だってさあ。なぜに「う」の発音ができないのだろうか。普通は出来る。

 ……あ、しまった。アークは普通じゃないんだった。

「……じゃあアーク。お前自分の名前は言えるよな? だったら、「-」の部分を「ウ」に変えてみ」

「アウォク」

「……まあ、ギリギリセーフとしよう。じゃあ、俺の名前は?」

「きょーや」

「「「…………」」」

 再び場の沈黙が訪れた。

 根本的に「う」の発音を上手くできない時点でおかしいのだ。幼稚園児でもできるのに。

 いや、落ち着け? 俺。これはきっと何らかの突然変異が起こした現象だろう。

 ともかく、今は取りあえず「う」の発音を練習させなければ。

「じゃあアーク。まず『う』一文字で練習してみたらどうです?」

 ライアが沈黙を追い払うように明るく言った。

 うん、それはたぶん間違ってはいない。「きょ」と「や」の間に「う」を入れればいいのだから。

「『うぉ』」

「……ちょっと怪しいですが、まあいいでしょう。ちゃんと練習しといてくださいね? ……では、『京夜』は?」

「きょーや」

「ああ…………」

 ライアはもうすべてが嫌になったのだろう。頭を抱え込み、苦しそうに声を漏らした。

 うーん……どうしたものか。

「べ、別に発音なんかどうでもいいもん! 『う』ぐらい言えなくたって困らないし!」

 アークは顔を赤くして、恥ずかしそうに言い寄って来た。

 いや、ダメだろ。社会的に困るぞ。

 するとコハクが俺と同じ心境だったのか、ゆっくりとアークの肩に手を置いた。

「アーク、それは絶対にダメだ。いいか? じゃあまず、『今日』と言ってみろ」

「『今日』」

「よし、その調子だ。じゃあ『今日』の後に『や』を足すと?」

「きょウォや」

 アークがそう言うと、コハクまでもが諦めたように、ガクッと四つん這いの状態で崩れ落ちた。

 ……「きょウォや」って……外人さんじゃねえんだから……

「アーク、もう一度幼稚園から学び直したらどうだ? 今からでも間に合う」

「うう……だってだって……うわあああああああ! もういいもん別に言えなくても――――――――――!!」

 ついにアークは我慢が効かなくなったのか、俺に襲い掛かって来た。

 反応が遅れた俺は、その攻撃を避けようとしたが――――――――

「あだだだだ! やめて苦しい死ぬううううううううう!!」

「きょーやが悪いんだもん! うわああああああ!」

 噛みつき攻撃かと思い俺は身構えていたのだが、なんとアークは予想外の攻撃手段にでた。

 締め上げ。俺の腹辺りを、shimeageしていた。

「苦しいからあああああああ! やめろおおおおおおおおおお!!」

 

 俺は苦痛の叫びを上げながら、意識が朦朧もうろうとするのを抑えるのだった。



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