可愛くて戦う気が起きない! テンション-30!
「すみません。もう一度言ってもらってよろしいでしょうか」
「聞こえなかった? 私は魔人アルゼルト。あなたを、倒しに来た」
イライラとした面持ちで、魔人――――――アルゼルトは俺に説明してくる。
どうやらイチャイチャじゃなく、サスペンスの前兆だったみたいだ。
戦う気にもなれなかった俺は、取りあえずアルゼルトに話しかける。
「アルゼルト。あなたの目的はなんですか?」
「は? 決まってるじゃない。あなたを倒しに来たって、さっきから言ってるでしょ。私の……可愛い部下を殺すなんてっ……」
よく分からないことを口走りながら、アルゼルトはわなわなと肩を震わせた。
とにかく、怒っていることに間違いはないらしい。
あいにく俺はめんどくさいことを嫌う男。ハッキリ言ってこれ以上無駄な手間は……
「あれ? この人って、今回のクエストを依頼した張本人じゃないですか? さっき係員さんが最後に私に伝えてくれましたよ、『見るからに性格の悪そうな、黒髪に背中から羽が生えたハラグロ女』って」
「なっ……この悪魔神サタン様にも使える私によくもそんなっ……」
そう言ってアルゼルトは再び肩をわななかせた。
あれ、サタンってなんか聞いたことがあるような。
「———————殺すッ!」
俺が思い出そうとしていると、早速アルゼルトは俺との距離を詰めてきた。
俺は慌てて身を投げ出し、その攻撃を回避する。
「へえ。気弱そうな顔つきにしてはやるじゃない」
「ごあいにく様。生まれつき反射神経だけは良かったものでな」
そんな他愛もない会話をしながらも、アルゼルトは攻撃を仕掛けてくる。
この程度ならまあ、避けられるな。この前戦ったトリケラもどきの角ミサイルの方が断然スピードは速い。
しかし。
「あだっ! ちょ、コハクおま、どこ狙ってる!?」
「あ。すまない。ちょっとずれてしまった」
俺が攻撃を避けている最中、俺の背中に一本の矢が突き刺さった。
防具を着けていたため貫通はしなかったが、結構痛い。やめてほしい。
「お前さ、麻酔弾だったらどうすんの!? 間違いなく詰みだよ!?」
「む、分かった、分かったから。そんなに怒るのはやめてくれ」
少し拗ねたように、コハクは弓を撃つのをやめてしまった。
ちょ、撃てよ。全く撃たないっていうのもちょっと困る。
俺は迫りくるアルゼルトの爪をかわしながら、対策を考え始めた。
「ホラどうしたー? なんで攻撃してこないのー? まさか女の子相手だと攻撃できないフェミニストなのかなー?」
「っ……!?」
アルゼルトが軽ーいノリで、俺を挑発してきた。
な、何!? 俺が……フェミニストだと……?
ふ、ふざけんじゃねえ。フェミニストはガーブ一人で十分だ。
「まったく、本当にそれでハンターのつもり? モンスターと戦えないハンターなんて、ハンターじゃないわよねえ? え? そうでしょ? 大体何なのよアナタ、私の部下は殺すわ、顔はキモイわ、そしてよく見ると髪の毛もくせ毛っぽくてカッコ悪いわね! ハンターとしての自覚が足りないんじゃないの、このキモ顔最低フェミニストクソ男!」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
俺は別の意味での矢が突き刺さり、大絶叫をかましていた。
うぐ……ひどい……さすがにコレはないよ……
さっきまでキープしていた敬語はどこへやら。
「……きょーや、大丈夫? 立てる?」
アークが心配そうに顔を覗き込んできた。
悪い、俺はもう戦えそうにないんだ。俺のハートはもう壊滅状態だから。
「どうやら無理みたいだな。仕方ない、私たちで戦おうか」
「了解です!」
ううっ、なんて情けない。
「一人で倒してやる」とか大口叩いておいて、結局のところ何もできてないじゃん……俺……
しかしこれ以上自分を攻め込むと自殺してしまいそうなので、急遽思考を停止する。
「はあああっ! 京夜さんをゲスな戦法で苦しめた罰、今その身に食らうがいい! まあ80%は京夜さんが悪いですけど」
ゴフッ。
ライアがそう言った途端、俺は乾いた音を口から吐き出していた。
次の瞬間、俺の体はフリーズする。
今の内に遺言を残しておいた方がいいだろうか。内容は……「口の悪いゲス悪魔に酷く罵られました。ううっ……」とか。
いや、やめよう。これじゃ俺の人生ゲームオーバーの恥ずかしい瞬間について語っているだけだ。
「へえ、アンタら中々やるみたいだね! 初心者の多いこの街では珍しいよ!」
「ふ……私たちをあまり舐めないほうがいい! 『バインド・ウォーター』!」
アークが叫んだ次の瞬間、アルゼルトの足が氷で地面にくっつけられた。
身動きの取れなくなったアルゼルトに、ライアは急接近していく。
「『ファイアネス・ブレイドスラッシュ』!」
「くっ……!」
ライアの剣は、アルゼルトの体へと命中した。
するとすぐに、アルゼルトは炎に包まれる。
「わはははは! 私たちの勝利です! さあ、焼き尽くされるがいい!」
ライアが嬉々とした表情を浮かべる中、俺はコハクにたたき起こされていた。
「はっ!」と俺は目を覚ますと、おぼつかない足取りで立ち上がる。
よし、今の攻撃は効いただろ。さすがに炎には耐えられな―――――――
「……もうそれで終わりかい?」
「……なっ」
炎が森の周囲を焼き尽くしていく中、アルゼルトは余裕の表情で立ちはだかっていた。
結構な量の炎だったというのに。どんだけタフな体してんだよ。
ライアはというと、そろそろ体力の限界なのか、剣を杖代わりにしてフラフラと立っている。
「あ……もう無理……」
そう言って倒れようとするライアの体を、俺は右手で受け止めた。
今の俺……カッコいい……
しかし、取りあえず。
「やっとやる気になったみたいだね。私はそういうの嫌いじゃないよ?」
「そりゃあどうも。では―――――――先手必勝ッ!」
俺は不意打ちを狙い、アルゼルトの元へ猛ダッシュしていった―――――――!
祝! 10万文字!( ;∀;)




