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魔人様降臨

「いだだだだだ! ちょ、コハク、助けてくれ! あばばばば」

「ちょっと見ていて楽しいので、拒否」

「オイこら! お前ら待て! 仲間を置いていくなあああああああ!」

 完全な闇に包まれる森の中。

 俺はムカデっぽいうねうね虫に噛みつかれっまくっていた。


「ああああああ! ちょ、マジで! いだいいだいいだい!」

「その虫の名前は、タランチュラ。焼くとおいしい虫です」

「タランチュラ!? ムカデ! ムカデだよ!? つーか食ってたまるかこんなの!……ってぎゃあああああああああ!」

 とうとう俺は、完全にムカデに埋もれてしまった。

 さすがに危険だと判断したのか、3人が駆け寄ってくる。できれば最初から助けてほしいものだ。

「『妖弓殲滅弾』ッッ!」

「『ウォーター・フリーズ』!」

「『ボルシャック・インフェルノ』ッ!」

 3人が必殺名を叫びながら、俺へと駆け寄ってきた。

 ……ん? 必殺名?

 俺は一瞬だけ安心した自分を、心から叱ってやりたいと思った。

「ぎゃああああああああああああああああ! 痛い寒い熱い痛いいいいいいいい!」

 案の条、俺は必殺技を食らいまくった。

 死にそう。いや、死ぬ。

 ムカデの痛さすら感じなくなった俺は、その場にばたりと倒れこんだ。

「きゃあああああ! 京夜さん!」

「……あれ? コレ死んじゃった?」

「仕方ない。『ライフ・エナジー』!」

 コハクの声と同時に、俺は光で包まれた。

 見る見るうちに体の傷は回復していき、むしろ最初より元気になった気がする。

 ……だがな……

「……お前らさ。最初っから必殺技かます奴がいるか!? 死ぬよ!? いや、死にかけたよ!?」

「いや、きょーやを助けたいと思ったらついつい力が入り過ぎちゃって……」

「嘘! ぜってー嘘だ! ちょっと顔がニヤついてたもん!」

 俺はハアハアと息を切らしながら、その場にへにゃりと崩れ落ちた。

 なんかこの世界に入ってから、俺の扱いが雑な気がする。いくら前世でヒキニートだったとはいえ、さすがにもう少し丁寧にしてほしい。

 俺は立ち上がる気力もなく、仰向けになって転がった。

 ……レベルは今、どれくらいになっただろう。

 ふとそんなことを思ったので、俺はポケットからハンターカードを取り出した。

 目の前に持っていき、レベルを見てみると。


「……おおっ! レベル56! ヤバい俺強い!」

「はあああああああああああ!? 京夜さんが56! いやいやおかしいおかしい!」

「おかしい! 嘘だ嘘だ!」

「京夜、冗談だろ!?」

 ……失礼な奴らだな。

 しかし嬉しい気持ちの方が大きかったので、俺は今日2度目のバカはしゃぎを見せた。

 いやあ、こんな世界でも嬉しいことってあるもんなんだなあ!

 俺は傷つけてしまわないように慎重にポケットにカードをしまうと、3人に問う。

「みんなは今、レベルどれくらいだ? そりゃあ俺よりはレベル高いよなあ?」

「うっ……その……まだ41です……」

「……40……」

「私は……うう……49だな……」

「はっはっはっは!」

 いやあ、愉快愉快。

 もうドⅯなんだかドSなんだか分かんないが、取りあえずスッキリしたのでよしとする。

「……でもよくよく考えたら、京夜さんって私たちの前ではあまり活躍してませんよね。女の子の前じゃ本気が出せないチキン男なんでしょうか」

「!?」

「うん。確かにそうだね。私が言うのもだけど」

「まあ、言ってしまえばな」

 ……ひでえ。

 舞い上がっていた俺の気持ちが一気に急降下していった。ジェットコースターじゃないんだから。

 でもアークは、自分があまり役に立てていないと自覚していたのか。そこらへんについてはしっかり考えているようである。

「ふっ……じゃあ魔物は俺一人で倒してやろうか? レベル56の実力を見せてやろう」

「絶対さっきみたいに叫んで後悔するパターンだよね」

「ふ、そんなこと言っちゃって。俺に惚れるんじゃねーぞ?」

 そう言って俺は、先へとどんどん進み始めた。 

 後ろで「うわあ……」とか言ってる3人の視線が痛いけど。

 ちょっとさすがに今のはキツかったっぽい。

 俺はちょっと後悔する気持ちを紛らわすために、歩くペースを速めた。

 すると。


「うわっ! なんだ!? 痛……くないな、柔らk」

「何するんですか!」

「ぐほおっ!?」

 ムチっとした感触に包まれた瞬間、俺は顔面に、見事なグーパンチを食らった。

 鼻がッ! 鼻って殴られると痛いよね。

 ……ってそうじゃねえ! 俺がぶつかった相手を見てみると。


「あなたが最近、魔物モンスター2匹を倒したっていうハンター? なんだ、見た目は大したことなさそうね」

「……は?」

 俺が回らない頭の中、少女を見ていると、急に魔物モンスターの話になった。

 ……なんだろう。コレは魔物モンスター2匹を倒した俺の功績を称え、イチャイチャするシチュエーションだろうか。

 いや、最初に倒したライオンもどきは、最終的にコハクが倒したんだけどな。

 まあ俺の手柄にしちゃえ、と下らないことを考えていると―――――


「私は魔人アルゼルト。あなたが私の可愛い部下を倒したのね? よし、いますぐ殺処分」


 魔人と名乗った少女は、指の骨を鳴らしながら俺へと詰め寄った。

 

 ……えっ。

 今、この子はなんつった?


 

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