魔物からの依頼
「……結局、アイツらは何をしに来たんだ? ただ邪魔をしに来ただけだと思うんだが」
「は、はは……まあ、新しい装備も試せたし、いいんじゃない……?」
俺たちは街を歩きながら、そんなことを話し合っていた。
いや、何をしに来たのかは大体分かる。大方、悪魔になった俺を救いに来てくれたんだろう。
ただ救いに来てくれた天使たちには申し訳ない気もするが、まあいいか。変に喋られて俺が悪魔だってことをバラされても困るし。
「いやー、どうでした私の必殺技!? カッコよかったですか!?」
「ああ、炎がカッコよかった」
「私は? 私はー?」
「ああ、アークも。……てか猫耳取れ。俺が変な趣味を持った人間だと思われたら困る」
俺が周りの人たちの視線を警戒しながら頼むと、アークはしぶしぶ猫耳を取った。
インコ探しの時も悪い噂が流れちゃったしなあ。これ以上俺が変質者だと思われては困る。
「というかピピは? 居ないけど」
「ああ、ピピなら食堂の店主に預かってもらっている。クエスト内に連れて行ってモンスターに食べられるかもしれないからな」
「……今更かよ……」
もう何回も連れてってるじゃねえか。
しかし、ピピが店主さんに悪口を吐いていないか心配だ。フライドチキンなんかにされなきゃいいけど。
俺はふうっ、と息を吐きながら、一言。
「なんかさっきので疲れちまったな……休憩しないか?」
「うん、さすがに私も疲れた……」
フラフラと揺れながら歩くアーク。
コイツは『ウォーターデッド・ファイナルフリーズ』で体力が減らなかったため調子に乗ったのか、何発も魔法を連発していた。
でもまあ、初期よりは大分成長していたと思う。「伝説の魔法使い」には一歩近づけたんだろうか。
「取りあえず、受付窓口行くか。クエスト行く途中で、休憩すればいいし」
俺の一言に、3人全員が力なく頷いた。
「あ! ええと……ササキ・キョウヤさんですね! あなたに、強制依頼クエストが届いております!」
俺たちがやっとのことでクエスト受付窓口まで着くと、係員さんがバタバタと俺に駆け寄ってきた。
来て早々最悪の沙汰が来たなあ、オイ! なんだよ強制依頼クエストって。
眉間にしわを寄せながら、俺は係員さんの知らせに耳を傾ける。
「依頼相手は誰なんですか?」
俺は最低限必要なことだけ訊いてみることにした。本当はもっと訊きたいことはあるのだが、まあ取りあえず我慢しておこう。
すると係員さんは、酷く申し訳なさそうに。
「そ、それが……依頼相手が魔物モンスターなんです。依頼書によると、魔王に使える部下なんだとか」
『……は?』
俺たちは同時に素っ頓狂な声を上げた。
モンスターが……クエスト依頼だと……? ふざけてやがる……
しかし俺たちは、ただでさえ疲れているのだ。できれば無駄な労力は費やしたくない。
「無視したらどうなるんですか?」
「この街にやって来て、直接依頼しにくると思います。なにせ相手は魔物モンスターなので、被害が加わるおそれがあります。……申し訳ありませんが、行っていただけないでしょうか?」
そう言って係員さんは、深々と頭を下げた。
別に係員さんが頭を下げる必要はないと思うが――――――モンスターがクエスト依頼なんて、随分変わったこともあるものである。
「京夜、どうする? 行くなら私たちも手伝うが――――――」
「……仕方ねえ、行くよ。なんで俺だけ依頼されたのか気になるしな」
へっ、上等じゃねえの。
モンスターにまで知れ渡っているなんて、俺も有名になったもんだ。
それに俺らの目標は「魔物モンスターを狩る」。ちょうどいい機会かもしれない。
「あ、ありがとうございます! それでは場所は闇の森となっていますので、魔法陣へとお入りください!
――――――『カオス・レインド』!」
係員さんが叫ぶと同時に、ちょうど4人分ぐらいが入れるくらいの魔法陣が現れた。
……思ったんだけど、クエスト全部これで行ければいいのに。魔法陣を造るのにも体力を使うのだろうか。
まあ、今は取りあえず深く考えないでおこう。
「それでは、頑張ってください! 魔物モンスターを討ち取れることを、心から願っております!」
その係員さんの声で、俺たちは光に包まれた。




