魔物vs悪魔
「が……っは……」
俺は森の中、木に寄り掛かったまま苦痛を味わっていた。
マズイ、このままだとホント死ぬ。何とかしなければっ……
「『サンダー・レイン』!」
俺は力を振り絞り立ち上がると、トリケラもどきに向かって思いっきり電気魔法を放った。
体力が少し持っていかれたが、今はそれどころじゃない。
空中飛行した状態のまま距離を取ると、俺はどうすればいいかを考え始めた。
「殴りまくって気絶させるか……? いや、そもそもまず攻撃が当たらないし……『あの魔法』もなぜか今は使えないんだよあ……」
ゼルドギアと戦った時は簡単に魔法を発動できたのだが、今回はなぜか知らないが発動できない。
……もしかしたら敵に攻撃した分だけゲージが溜まっていく、とかそういうものなんだろうか。
俺のゲーム知識によると必殺魔法系は大抵ゲージを溜めてから放つことが多い。そりゃあそうか、あんなクソ強い魔法、最初から撃てたらチート並みに強いもんな。
「おおっ!? ちょ、待って! 反則! それ反則!」
俺は飛んできたある物をとっさにかわすと、後ろを通り過ぎて行ったものを確認する。
……それは、先ほどトリケラもどきの頭に生えていた、角だった。
「……は? どゆこと? ってオオイ!? ちょっ!?」
俺は再び飛んできた角をかわすと、どんな攻撃を仕掛けて来ているのかもう一度確認した。
とにかく飛んでくるスピードが速い。当たったら確実に致命傷だ。
落ち着いてよーく、ヤツの頭に注目すると……
「……アレは……再生!? いやいやチートでしょお!?」
どんどん再生し飛んでくる角を必死に避けながら、俺は叫んだ。
再生……だと……!? 無限ループじゃねえかよお!!
俺は高速飛行しながら、体をひねって角を避け続ける。
「はあっ……はあっ……何か……何かないかッ……」
俺は回らない頭の中、必死にいい考えがないか辺りを見回し始めた。
本当に、いつやられてもおかしくない。あと一撃食らったらたぶん、終わる。
せめて何かあればッ……!
「……!? あれって……」
俺がかすむ意識の中見えたのは、地面に置いてある一本の紐だった。
ボロボロだし、なぜあんなところにあるのかは分からないが、アレ以外使えそうな物は見つからない。
俺は飛行状態のまま紐がある場所まで飛んでいくと、ギリギリで角を避け滑り込んだ。
「……ホントボロボロだなこの紐」
遠くにいたのでよく見えなかったのだが、改めて見てみると紐は今にもちぎれそうな状態となっていた。
しかし考えてもいられない。俺は力を込めて空中へと舞い上がると、飛んでくる角をかわし続ける。
俺が息を切らしながら飛行しているとふと、一本の木が目に移った。
「ん? デカい木だな……あ」
俺は紐と木を交互に見ながら……ひらめいた。
……さすが俺。こんな土壇場で思いつくとはな。
「……もうこれ以外思いつかねーぞ」
成功確率は極めて低いが、ここでやらなければたぶん、俺はこのまま力尽きる。
だったら……やるしかないだろう。
こんなギャンブル、もう何度も経験したもんだ。
みんなが俺を心配してくれてるかもしれないんだ。ここで死ぬわけにはいかない。
……いや、案外そんなことないのかもしれないけど。
俺は口元をニヤリと吊り上げると、大きく深呼吸をした。
—―――――作戦開始。




